キスから始める恋の話

紫紺

文字の大きさ
6 / 59

第5話 壁ドン



 金曜日の夜、冷たい風が吹く冬枯れの日だ。僕はコートの襟を立てたまま、約束の場所に急いだ。上司から急な指示が入って、したくもない残業をしてた。

「あ、ハチ、こっちや、こっち」

 五代さんが僕を見つけて手を振ってくれた。同時に女の子たちが振り向く。興味津々の表情で目がキラキラしてるよ。ちょっと怖い。
 春夏に比べて、衣装の色目は地味だけど、それでもお洒落してるのがわかる。僕らの職業は、ミステリアスなところも手伝って女子に人気なんだ。と、五代さんが言ってたな。

「遅くなりまして……」

 僕のために空けられていた席に腰を下ろす。すぐに生ビールが運ばれてきた。さすが五代先輩、抜かりない。

「ほな、もう一回乾杯しよか」

 今日の合コンの相手は旅行会社の方々らしい。みんな可愛い。楽しい時間になりそうだ。



 先日、先輩から『虜になった?』なるご質問を頂き普通に固まった僕。瞬時に、『冗談だよ。何かたまってんだよ』と言われて事なきを得た。
 でも、先輩を合コンに連れ出すことは出来なかった。性に合わない。先輩はそんなこと言ってたな。先輩ってどこで彼女を見つけてくるのかな。最近はいないみたいだけど、デートしてるところを何度か見たことがあった。いつもお相手は違っていた。

「連絡先、交換してくれませんか?」

 ずっと意気投合してたロングヘアの美人さんが言ってくれた。やった! 今回もここまでは良好だ。

「もちろん。僕から言おうと思ってたんだよ」

 ごめん。チキンな僕は、いつも受け身だ。でも、デートには僕から誘うからね。



 二次会でもいい感じに盛り上がって、その日は解散となった。そのままお持ち帰りするようなことは、社会人になってからやってない。それは学生のノリだ。だから勝負はここから。ちゃんと豆に連絡を取って、デートにまで漕ぎつけないと。

「お、ハチ、今帰りか」

 いい気分でアパートに帰り着いた。偶然にも先輩も帰ってきたところのようだ。今日は出社してたし、飲み会だったのかな?

「はい。先輩も?」
「ああ、今日は退職する人がいてな。送別会だったんだ」

 先輩は酒も強い。頬に少し赤みが差しているから、相当飲んだんじゃないかな。

「うちで飲みなおすか?」
「え? いいんですか? ふふん。僕の釣果を聞きます?」

 酒というのは、なんて恐ろしい飲み物なんだろうか。ノミぐらいの僕の心臓を象みたいに大きくしてしまった。

「お、それは豪勢だな。聞かせてもらおうか」

 それは先輩も同じだったようだ。先輩の場合は、多分象くらいのが、恐竜になった。

「え……」

 アパートのエントランス。僕の顔のすぐ横を先輩の右腕が凄いスピードで通り過ぎた。郵便箱が並ぶ壁の前で、僕は先輩に壁ドンされている。すぐ目の前に先輩の整った顔が迫ってる。

 ――――ち、近いっ。

 先輩が舌で唇をくるりと舐めた。僕の目はそこに釘付けになってしまう。思わずゴクリと息を呑んだ。



感想 2

あなたにおすすめの小説

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。