17 / 59
第16話 天気予報
結論から言うと、特筆すべきこと何も起こらなかった。僕の期待も不安も発動することなく、帰宅の車に乗り込んでいる。
「先輩、今回はありがとうございました。ストレスレスってこういう事なんですね。ホントに気持ちいい場所でした」
違うストレスは若干あったけど、それは内緒。でも本当に気分爽快なロケーションだったよ。寒風の中で歩いた浜辺も悪くなかったし、鎌倉の大仏さんも見学した。街道沿いのお店散策も楽しかった。
だけど、僕が最も心地よく感じたのは、先輩が借りていた古民家だった。窓から眺める海も夕焼けも今まで見たことがないくらい素晴らしかったし、リビングでぼんやりしてるだけで心が満たされた。
先輩との他愛ないおしゃべりも楽しかったし、作ってくれた料理やおつまみも絶品だった。
「そうか。それは良かった。俺も仕事捗ったし、おまえとの休日も楽しかった。来てくれてありがとな」
「いやいや、誘ってくれてホントに感謝ですよっ」
「ふふっ。またこういう機会があったら、ワーケーションしてみるかな」
「いいですね。お仕事捗るなら、悪くない選択ですよ」
鎌倉からは渋滞を考慮して昼過ぎには向こうを出た。おかげで暗くなる前にはアパートに着くことができた。
部屋に戻り、久しぶりにテレビを観る。テレビがないのも慣れると悪くなかったけど、やっぱりあると付けちゃうな。旅行の片づけをしながら耳だけ向けてると、来週はかなり寒くなると気象予報士が言う。
『今季一番の寒波がやってきます。道路など動けなくなる場合もございますので、くれぐれも最新の情報を得て行動してください。無理な旅程など組まないようお願いします』
『なかなか春は来ませんね』
『今回の寒波は長く居座る可能性があります。停電なんかもあり得るので、本当に気を付けて欲しいです』
マジか……。まあ、今週じゃなくて良かったよ。鎌倉からこっちなら、動けなくなるほどひどくなるとは考えにくいけど、雪道の運転は大変だ。来週の、水曜日あたりから寒くなるんだ。停電は嫌だなあ。暖房がエアコンしかないから困る。携帯カイロでも買っておくか。
明日は菜々美ちゃんと会う約束だ。とりあえず、普通の寒さみたいで安心した。夜にメールかビデオ通話しようかな。ほら、そう考えると心がほっこりする。やっぱり僕は菜々美ちゃんのことが好きなんだよ。
キスもその先も、僕はまだ安心して楽しめないんだな、きっと。数をこなせば大丈夫になる。てか、なんか雑な言い方。失敗が怖いなんて、男としてどうなんだろう。こういうことこそ、先輩に学びたいよ。
――――大切な人の前では優しい。誰でもそうだろ?
あんなカッコいいせりふ、言ってみたいもんだ。
その日のビデオ通話で、僕はワーケーションの様子を話した。いつもは聞く側の僕が珍しく口数が多くなる。それくらい楽しくて、興奮してたんだろうな。
『ハチ君、先輩の話になるとすごく嬉しそう。なんだか妬けちゃうな』
なんて菜々美ちゃんに言われるほど。
「え? あはは。いやあ、まあ世話になってるから」
『私も一度お会いしたいな』
そう。菜々美ちゃんはまだ先輩と会ったことはないんだ。近いうちに会わせたいとは思ってたんだけど。
「今度、アパートにおいでよ。紹介する」
『ほんとっ? 嬉しい』
「すっごいカッコいいから、惚れないでね」
紛れもなく本気で心配してる。でも、菜々美ちゃんは、『そんなわけないじゃん』なんて笑ってくれた。
あなたにおすすめの小説
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
happy dead end
瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」
シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。