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第22話 待ってます。
翌朝、マジで早朝、監査部の人がパソコンを取りに来た。昨日の面接官ではなく、若い人だ。同じ駅を使ってるらしい。
「では、お預かりします」
僕と同世代らしい彼は、申し訳なさそうにパソコンを受け取り専用の鞄に入れる。彼が申し訳がる必要はない。だって、僕は容疑者なんだし、もしかすると犯人かもしれないんだから。
――――犯人か。もし僕が気付かぬうちに大事なことをリークしていたのなら、罰せられても仕方ない。けど、えん罪だけは勘弁して欲しいな……。
それにしても、今朝は冷え込んだな。強風ではないんだけど、肌に当たる冷たさ半端なく痛みを感じるほどだ。玄関での受け渡しも、感情はどうあれさっさと済ませたかった。
そう言えば、今日から今季一番の寒気に見舞われると天気予報で言ってたっけ。こんな理由じゃなければ、仕事に行かないのはラッキーだ。いや、こんな理由でもラッキーだと思おう。先輩もそう言ってた。
研究所からは何も連絡はない。もちろん五代さんや他の同僚とも連絡を取らなかった。取らないというより、取れないかな。
上司からもらった携帯電話は、誰と連絡を取ったか会社に筒抜けだ。ショートメールなんか内容まで調べられるはずだ。こうなると、誰も連絡を取ろうとしないに決まってる。僕だって嫌だ。
知りたいことが何も知ることができない。こんな状況にいつまでも精神がもつわけがない。いい加減、開き直ってゲームでもしよう。学生時代から持ってたゲーム機を引っ張り出し、懐かしのRPGを差し込む。慣れ親しんだゲーム音楽が鳴ると、少しは心が落ち着いた。
今よりもっと狭くて古いアパートの一室で、先輩や友達とわいわい騒ぎながら遊んだ。平和すぎる風景を思い出してると、現在の社会派ドラマみたいな境遇に現実味がなく思えてきた。
――――なるようになるさ。てか、なってくれ……。
ゲームやるにも集中力がいる。そんなことを再認識する日中だった。
午後になって、ついに雪が降ってきた。大きな粒の雪が次から次へと音もなく舞い落ち、通りの樹々や周囲の屋根をあっという間に白く塗り替えていく。
――――こりゃ、明日は積もるな。というか、夜にはノーマルだと走れなくなりそうだ。昨日、理由は違うけど買い出ししといて良かった。
先輩は大丈夫だろうか。僕は少し気になって、先輩の部屋へと向かった。電話はかけたくなかったし、外出も憚れるけど短時間なら大丈夫だろう。
「ああ。ホントに降って来たな。うん、俺も昨日色々買ってきたから平気だ。それよりおまえの方こそ大丈夫か? あんまり部屋を空けられないんだろ?」
誰かに見張られてるわけじゃないと思うけれど、いつ何時連絡が来たり、居所を確認されるかわからない。先輩の言うとおりなんだ。
「はい。なんで、もう自分の部屋に戻ります」
「俺、これから業務報告なんだ。それが済んだらそっち行くよ。冷蔵庫にあるもので夕飯作ろう。あ、おまえが良ければだけど」
良ければって、良いに決まってる。ここに来たんだって、先輩がそう言ってくれないかと思ったからなんだよ、きっと。
「ありがとうございます! 待ってます」
僕は素のままの安堵の笑顔を先輩に向けた。いくらゲームをしてても気持ちが晴れることはない。いつしか深い穴に落ちていくような心持ちになるんだ。それを先輩は引き上げてくれる。
雪が容赦なく降り込んでくる廊下は寒くて震え上がったけど、僕の心は灯がともったように暖かくなっていた。
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