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第24話 遭難もどき
しおりを挟む最初はすぐにも回復すると思っていた。それに、家の中にいればそんなに気にならない。布団被ってれば大丈夫だと。
「おい、今何時だ」
「まだ1時になってませんよ」
エアコンしか暖のない僕らにとって、寒さはすぐに襲ってきた。それでもお鍋を食べたおかげでもった方だろう。
先輩は結局そのまま僕の部屋に居残り、いつしか二人で布団にくるまった。そうでもしない限り、この寒さに抵抗できない。
「部屋のなかがこんなに寒いとは思いも寄らんかった」
「これ、車中でいる人、凍え死ぬレベルですよ」
リビングのソファーの上で、ありったけの布団を巻き付け体操座りしてる。最初は別々の布団に包まってたんだけど、そのうち寒くてたまらなくなって同じ布団にした。電気の力もそうだけど、太陽のありがたみを心底感じた。
「これ、何時に回復するんだろう。最も寒くなるのは五時頃だよな」
「息が白くなってきましたよ……」
相撲でも取りたいところだが、真っ暗闇では怪我する可能性もある。部屋にあった懐中電灯一つでは、いつまでもつのか心許ないし、スマホも充電できないからおいそれとは使えない。
先輩がたまにニュースをチラ見するんだけど、それも警告メッセージや道路で立ち往生している人達の鬼気迫るツイートばかりでよけい冷え冷えとしてくる。
「都会って本当に雪に弱いよな。雪国なんか、こんな雪、しょっちゅう降ってるだろうに」
先輩がため息とともに吐いた。懐中電灯に白い息がぼんやりと映る。
「先輩、もう少し寄ってもかまいませんか?」
「あ、俺もそう思ってた」
よく山小屋で遭難した男女が、寒さを凌ぐために裸で抱き合うっていう話があるけど、その気持ちわからんでもない。ただ裸になるのはどうかな。その方が温かいってのが科学的に立証されているとしても、服を脱ぐ気にはなれない。
それまで微妙に空いていた距離が全くなくなり、僕の右半分と先輩の左半分がしっかりとくっついた。少し熱く感じる。やっぱり人間は熱源体なんだな。
「猫でも飼ってればなあ」
「でも、金魚だったら危なかったかも」
水槽のモーターが停まってしまう。しかし、本当にどうでもいい話だな。
「彼女のこと気にならないか?」
あまりにくだらない話が続いたので、先輩が軌道修正してきた。ただ僕は、しょうもない話の方がありがたかった。
「大丈夫でしょう。一人暮らしじゃないし。人が多ければそれだけ室温も上がりそうだ」
それに一戸建てだと、近頃じゃソーラー発電なんかしてて停電してないかもしれない。菜々美ちゃんは車を自分で運転するようなことはないし、危険はないだろう。
本来なら電話で無事を確認するべきなんだろうけど、そうしなくてもいい今の状況が有難く思ってしまう。薄情かな。
「そうか。それもそうだな」
「なんか、あったかいものでも飲みましょうか。お湯だけは沸かせるし」
カセットコンロもあるけど、ガスは通ってる。マッチを使えばお湯は沸かせる。さっきから何度かそれでインスタント珈琲を飲んだ。
「いいな。俺、そのすきにトイレ行ってくる」
僕たちは毛布を一つずつ被ったまま行動に移した。懐中電灯は一つしかないので、先輩はスマホの明かりを頼りにトイレに走って行った。
いつまでこの事態は続くのか。だけど、不思議に僕は平気だった。楽しんですらいる気がする。それは当然、先輩が一緒だからに他ならなかった。
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