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第37話 今すぐ言いたい!
しおりを挟む昼休みはとっくに終わってしまって、僕は満腹のお腹のまま職場へと走った。菜々美ちゃんに別れ話をしなければならない。少なくとも緊張していたんだけど、今は晴れ晴れとした気分だ。
『新条先輩でしょ?』
先輩に会ったこともない菜々美ちゃんにあっさり言い当てられ、定刻に戻れなくなってしまった。
「どうしてわかった?」
「わかるよ。ハチ君、いつも先輩の話をする時本当に嬉しそうだったもん」
「ああ……そうなんだ」
その頃はまだ、僕自身先輩のことが好きなんて思ってなかった。なのに、見る人から見たらバレバレだったってことか。
「もう、告ったの?」
ちょっと前まで彼女だったはずの女性から、まるで世話婆のように言われた。
「まだだよ……。言えるかどうかもわかんない。ずっと仲の良い先輩後輩だったんだ。拒否されそうで恐ろしいよ」
先輩が僕にちょっかい掛ける本意を掴めないでいる。『ふざけんな』みたく言われたら、今までの関係も崩れてしまいそうだ。
「え? なんだ。大丈夫よ。先輩もハチ君のこと好きだと思うよ?」
「ええ? もうまたそんな根拠のないこと……気づいてないかもだけど、男同士だからね?」
「あはは。それは、ハチ君が尻込みする気持ちもわかるけど……。人が好きになるのに、男も女も関係ないと思うよ。いいじゃない。それでも好きだって思うのは、本気だからだよ」
「菜々美ちゃん……」
どうしてだが、とても勇気づけられてる。
「それに根拠はあるの。ハチ君のところにあった写真見れば一目瞭然だよ?」
写真? そう言えば菜々美ちゃんが僕の部屋に来た時、熱心に見てたな。フットサルメンバーで撮った写真の他にも、何人かで旅行した写真もあった。二人で撮ったのもあったかな。
「どれも先輩はハチ君のそばにいたし、だいたいどっかを触ってた。肩抱いたり、頭に手を置いたり。だから、翌朝会いたかったのよ。私を見て、どんな表情するか確かめたかったの」
なんと。あの朝の菜々美ちゃんの言動はそんなところに理由があったとは。
「頑張って告白して。きっとうまくいくから」
菜々美ちゃん、僕が思っていた以上にはっきりした女性だったんだな。見た目や振る舞いは悪い意味じゃなく盛ってたんだろう。随分スッキリした表情で僕に発破を掛けてくるけど、返って気遣いや優しさを感じた。
「ありがとう。菜々美ちゃんも、いい相手見つけてね」
「大丈夫。そこは全く心配してないから」
「そうか、そうだね」
じゃあ。僕らは手を振って別れた。腕時計に目を落とす。うわっ、もう昼休み終わってる。僕は研究所に向かって走り出した。
『人が好きになるのに、男も女も関係ないと思うよ。いいじゃない。それでも好きだって思うのは、本気だからだよ』
菜々美ちゃんの言葉が蘇る。そうだね。僕もそう思ってる。太陽の光が眩しい。もう春が来るんだ。息せき切って走ってるけど、凄く気持ちがいい。今すぐ、先輩に好きだって言いたいくらいだ。
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