47 / 59
第46話 キスしたい
しおりを挟む「おい、持って来てくれた服取ってくれ。病院の寝間着は着たくない」
ベッドに起き上がった先輩に言われ、固まってた僕は金縛りを解くように軽く身震いをした。
「スェットも持ってきたのでこれでいいですか?」
「おー、さすが」
それでも入院に必要なもの全部は揃ってない。一泊だけなのでどうにでもなろうものだが、意外に箸とか自分で準備するものらしい。僕は必要なものをスマホにメモして売店に行った。
――――パンツとかもいるかな……。まあ、要らなくてもあって困るもんでもない。
売店には入院に必要なものは何でも揃ってる。付き添いのためのお弁当もあった。弁当はともかく、ドリンクやおやつも買って病室に戻った。
「せん……」
カーテンを手でかき分けると、先輩がすやすやと寝息を立てて眠っていた。本人曰く寝不足で入院してるんだ。寝るのは本能だろう。新しい点滴が、既に落とされていた。
僕は音を立てないように買ってきたものを引き出しや棚に片付ける。ベッド脇の丸椅子に座ってドリンクを飲んだ。
――――僕がいると、先輩眠れないかもだな。こっそり帰ろうかな。明日の朝、また来ればいい。てか来るけど。
車はサークルの仲間がフットサル場から運んでくれている。それで帰ればいいんだ。僕だって運転できる。
――――そう言えば、睡眠不足の理由、なんか言いたげだったな。
『なんで眠れなかったか。なんでだろうねえ』
なんて言ってた。まさか、僕のせいだとでも? そんなら僕だって、ずっとよく寝付けなかった。眠りも浅くて……。そう言えば、佳乃さん、『たとえフラれたとしても』とかなんとか言ってたな。フラれたのか? それともフラれてないのか? はっきりしてくれよなそこんとこ。
『オスのあなたより私の方が有利なの』
これも意味わかんないな。そもそもなんで僕と比べてるんだ? そうか。先輩が自分の介護を彼女じゃなく僕を選んだからか。
『好きな人のために自分の気持ちを内に秘めるのって私大嫌いなの』
ううむ。深いな、これは。あの時は何となく聞き逃したけど(彼女が言った、新条君はあたなに居て欲しいのよ。だけがクローズアップされた)、これって僕の気持ちそのまんまを言い当ててるよな。
整理するとこうだ。彼女は先輩のことがやっぱり好き。だけど、フラれたみたい? で、それは僕のせいだと思ってる。佳乃さんにとって僕は恋敵。
嘘だろ……。ついでに言うなら、まだ負けを認めていないらしい。だろうな。敵があなたなら、絶対勝てないって思う。
先輩は僕が頭を悩ましてることなんか全然知らず、気持ちよさそうに寝てる。でもその寝顔を見てると、今、僕だけが独占してることに感動すら覚える。点滴のお陰か来た時より大分顔色が良くなった。紫に近かった唇も、赤みが差していた。
――――キス……したい。したら起きちゃうかな。
めちゃくちゃドキドキしてきた。今まで先輩にキスされたことはあっても、僕からしたことはない。だからってしてもいいわけじゃないだろうけど。
僕はゆっくりと椅子から立ち上がり、ベッドに手を乗せた。それに体重を掛けつつ、先輩に顔を近づけていく。心臓の音が耳まで迫ってくる。なんだこの、純情さ加減はっ。
「んーっ」
――――ひえっ!
先輩がなんか言いながら寝返りを打った。僕はたまらず跳ね起き、漫画のキャラクターみたいに飛び上がってしまった。
――――やっぱり不意打ちはいかんよね。悪いことはできない。
僕はあきらめて、また寝顔を眺めることにした。そのうち先輩にとり憑いた睡魔にやられたのか、僕も眠たくなってしまった。いつしか先輩のベッドにうっぷし、そのまま眠りに落ちた。
7
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる