キスから始める恋の話

紫紺

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第49話 5年越しの恋 



 僕は出来るだけ小さくなって息を殺す。苦しい。でもこのドキドキは怖れというよりワクワクだ。

「もう消灯時間ですよ」
「はあい、もう寝ます。昼間寝すぎちゃって眠れるかわかんないですけど」
「もし眠れないようなら、お薬出せますよ」
「ありがとうございます。多分大丈夫です」

「そう。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 再びカーテンを引く音が聞こえた。今度は閉じた音だろう。看護師さんが何故かよく履いてるサンダルが床をこすっていく。だんだんと小さくなって聞こえなくなった。

「もういいぞ」

 先輩が布団をめくった。

「うわー、慌てた。ははっ。まるで修学旅行みたいだ」
「そうだな」

 僕は先輩の布団の中に潜り込んでいた。看護師さんが行ったのを確認してから布団から顔を出す。一つ二つ大きく呼吸した。

「声、小さくな。看護師さんもだけど、入院患者もいるからな」
「はい……でも、もう帰らないと」
「帰るのか? 今?」

 ベッドにつけられた蛍光灯が先輩の右半分を照らしてる。その表情はいたずらっ子のようでもあり、置いていかないでと懇願する子供のようにも見えた。

「もう……少しいます」

 まだ話の途中だ。帰るわけにはいかないよな。布団から出た方がいいのか迷ったけれど、結局そのまま先輩の隣に居座ることにした。

「で、佳乃に何言われた?」
「はあ。あの、フラれたとしてもオスの僕より自分の方が分があるって」
「ええっ……相変わらず鼻っ柱が強い奴だな」

 先輩は両腕を頭の後ろに置いて、ベッドにもたれた。それから少しだけベッドを寝かせた。

「あいつ、あのお前と出会った後さ。俺に告白してきたんだよ」

 なんと。やっぱり告ってたんだ。そりゃそうか。裏表ない人だもんな。

「きっぱりお断りしたけどな」

 間髪入れず先輩がそう続けた。



『どうするの? 誤解されちゃったわよ』
『え……それは……困る』
『じゃあ、誤解じゃなくすればいいわ』
『は? 何言ってんだおまえ』

『私、新条君が好きなんだよ。気付いてた?』
『また、何の冗談だよ』
『冗談じゃないわ。新条君は私じゃなくてハチ君がいいわけ? 生物上から言えば、私が負けるはずはない』

 先輩は自分の部屋の前の廊下でそう詰め寄られたらしい。佳乃さんらしいと言えばそうだが、ロマンもへたくりもないその告白に呆れたと首を振る。

『いくらおまえでも傷つけたくはないけど、そうもいかないからはっきり言うよ。俺はハチが好きだ。もう、ずっと前から、そうだな、五年越しの恋だ』


 

次回最終話!

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