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最終話 キスから始めよう
先輩が語る佳乃さんの告白を聞いた。で、ついでのように先輩の告白も聞いてしまった。
寒さに震えたあの夜と同じように一つの布団に包まっているけれど、今日は汗を掻くほど暑かった。
「おまえ、来てくれたんだな。俺が呼んだら」
「呼ばれなくても来ましたよ。ホント、教えてくれるの遅いから」
先輩は照れ隠しなのか話題を変えた。僕もそれに乗っかる。それにしても、本当に呼ぶの遅かったよ。
「まあ、そこにも誤解があったんだろうな。佳乃がいなけりゃ、神田さんでも庄司でも、おまえに連絡しただろうよ」
多分そうなんだ。先輩が倒れた時、誰もが僕を呼ぼうとしたと思う。だけど、佳乃さんがいたからためらった。結局、先輩が指示するまで教えてすらもらえなかった。
「だからさ、おまえに誰も連絡してないって聞いたときはがっかりしたよ。庄司にすぐ連絡させた。保険証忘れてて良かったよ」
「ああ、本当ですね。でも、財布忘れるなんて先輩らしくない……」
「そんなことないさ……おまえ、あれ、見ただろ?」
あれ、と言われてドキリとする。今まさにそれを思い出していた。先輩が言うのはあれしかない。財布の中に入っていた……ツーショットの写真。
「え……と……はい。見ちゃいました。すみません」
「謝ることはない。引いたかな?」
「まさか、引いたりはしません。びっくりしただけです」
隣で寝そべる僕の頭を、揺さぶるように撫でる。ぼんやりと見える天井が揺れた。頭に置かれた手が、僕の肩にと移る。それから高めに傾いていたベッドがほぼフラットに下りていった。僕の心臓が早鐘のように打っている。
「ハチ」
「はい……」
ぼんやりと見えていた天井が暗い影に変わった。先輩が僕の視界を防いだ。目が慣れてくると、愛おしそうに僕を見つめる先輩の整った顔が浮かんできた。
「キスしていいか?」
今まで、そんなこと聞いてくれたことなかったくせに。なんで今更聞くんだよ。
「いつも、聞かなかったじゃないですか」
「え? ふふ、ホントだ」
先輩がふっと笑う。息が僕の唇にかかった。自然と僕は目を閉じる。先輩の柔らかい唇が僕のそれに触れていく。少しだけ、震えているように思う。
「好きだ」
「僕も……」
病院のベッドが軋んだ音を鳴らす。最初の衝撃のキスじゃない。それでも僕を夢中にさせるほどの威力はある。
「先輩」
「どうした?」
「最初……僕にあんな衝撃的なキスをしたのは、気を引くためだったんですか?」
「ん? 知りたいか?」
先輩は片肘をついて僕の隣に再び降りる。僕はそれを追うように先輩の方に体を向けた。
「もちろん」
「そうだなあ。おまえ、全然気が付かないから。ギャルばっかり追っかけてるし」
「え……それは、だって……」
「俺は待ってたけど、待ちくたびれたんだな。もう5年経ってたし。それで荒療治した」
はああ、なるほど。僕はそれにまんまと引っかかったわけだ。
「効いたか? 荒療治」
「まんまと……忘れられなくなりましたから」
僕は自分の顔を先輩に近づけていく。おねだりをするように。
「それ……して欲しい?」
「はい」
この際、遠慮は止めておこう。折角正直になって全部本心を吐露したんだ。
先輩の両手が僕の頬を包み込む。あの日、先輩が僕に放った衝撃的なキス。全てはあれから始まった。
そのキスで、また始めよう。今まさに歩を踏み出した僕らの恋を。
本編 終わり♡♡♡
※番外編「キスから始めてみた」を次ページより続けますのでそちらも是非ご覧ください!
寒さに震えたあの夜と同じように一つの布団に包まっているけれど、今日は汗を掻くほど暑かった。
「おまえ、来てくれたんだな。俺が呼んだら」
「呼ばれなくても来ましたよ。ホント、教えてくれるの遅いから」
先輩は照れ隠しなのか話題を変えた。僕もそれに乗っかる。それにしても、本当に呼ぶの遅かったよ。
「まあ、そこにも誤解があったんだろうな。佳乃がいなけりゃ、神田さんでも庄司でも、おまえに連絡しただろうよ」
多分そうなんだ。先輩が倒れた時、誰もが僕を呼ぼうとしたと思う。だけど、佳乃さんがいたからためらった。結局、先輩が指示するまで教えてすらもらえなかった。
「だからさ、おまえに誰も連絡してないって聞いたときはがっかりしたよ。庄司にすぐ連絡させた。保険証忘れてて良かったよ」
「ああ、本当ですね。でも、財布忘れるなんて先輩らしくない……」
「そんなことないさ……おまえ、あれ、見ただろ?」
あれ、と言われてドキリとする。今まさにそれを思い出していた。先輩が言うのはあれしかない。財布の中に入っていた……ツーショットの写真。
「え……と……はい。見ちゃいました。すみません」
「謝ることはない。引いたかな?」
「まさか、引いたりはしません。びっくりしただけです」
隣で寝そべる僕の頭を、揺さぶるように撫でる。ぼんやりと見える天井が揺れた。頭に置かれた手が、僕の肩にと移る。それから高めに傾いていたベッドがほぼフラットに下りていった。僕の心臓が早鐘のように打っている。
「ハチ」
「はい……」
ぼんやりと見えていた天井が暗い影に変わった。先輩が僕の視界を防いだ。目が慣れてくると、愛おしそうに僕を見つめる先輩の整った顔が浮かんできた。
「キスしていいか?」
今まで、そんなこと聞いてくれたことなかったくせに。なんで今更聞くんだよ。
「いつも、聞かなかったじゃないですか」
「え? ふふ、ホントだ」
先輩がふっと笑う。息が僕の唇にかかった。自然と僕は目を閉じる。先輩の柔らかい唇が僕のそれに触れていく。少しだけ、震えているように思う。
「好きだ」
「僕も……」
病院のベッドが軋んだ音を鳴らす。最初の衝撃のキスじゃない。それでも僕を夢中にさせるほどの威力はある。
「先輩」
「どうした?」
「最初……僕にあんな衝撃的なキスをしたのは、気を引くためだったんですか?」
「ん? 知りたいか?」
先輩は片肘をついて僕の隣に再び降りる。僕はそれを追うように先輩の方に体を向けた。
「もちろん」
「そうだなあ。おまえ、全然気が付かないから。ギャルばっかり追っかけてるし」
「え……それは、だって……」
「俺は待ってたけど、待ちくたびれたんだな。もう5年経ってたし。それで荒療治した」
はああ、なるほど。僕はそれにまんまと引っかかったわけだ。
「効いたか? 荒療治」
「まんまと……忘れられなくなりましたから」
僕は自分の顔を先輩に近づけていく。おねだりをするように。
「それ……して欲しい?」
「はい」
この際、遠慮は止めておこう。折角正直になって全部本心を吐露したんだ。
先輩の両手が僕の頬を包み込む。あの日、先輩が僕に放った衝撃的なキス。全てはあれから始まった。
そのキスで、また始めよう。今まさに歩を踏み出した僕らの恋を。
本編 終わり♡♡♡
※番外編「キスから始めてみた」を次ページより続けますのでそちらも是非ご覧ください!
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