キスから始める恋の話

紫紺

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番外編 ~キスから始めて見た~

第3話 もっかいしてみた。

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 今週は鎌倉にワーケーションする。これもまた、次のステップに進むための経験だ。あ、仕事の話だ。まあついでと言ってはなんだけど、ハチとのことも進めたいかな。
 ということで、あいつを誘ってみた。バレンタインに重ねたのも実は計算済み。断られるにしても、どんな顔するか確かめたかった。だけど、彼女の休みが不定期なのもあって簡単にOKをもらった。肩透かしだったけど、結果オーライだな。


 しかし、こういう場所で仕事をするのは効率が上がるものの、色々準備したくなって時間はあっという間に過ぎてしまうな。思わず海に見惚れてしまうこともあるし、星を見ながらついつい長湯するってのもあって、慣れるのに時間が必要だった。
 ハチの大好物、カレーを仕込むため、水、木は深夜まで仕事をしてしまった。ま、思いのほか捗ってのめり込んだのもその理由の一つだ。やはりワーケーションは悪くないな。


「遅くなってすみません」

 コートに身を包み、キャリーバックを引きながら現れたハチ。やっぱり可愛いな。考えてみれば久しぶりに一つ屋根の下だ。やばっ。妄想で俺の色んなところが反応してる。

 俺が滞在している古民家に案内すると、キョロキョロしながら感嘆の声を上げてるハチ。和風レトロな趣でありながら、全館空調やシステムキッチンなど根幹は最新モデルだ。小高い丘に位置してるから絶景も臨める。これは明日の朝のお楽しみだが。

 俺たちはいつものようにテーブルを囲んで夕食を共にする。酒も入っていい気分だ。あいつのよく動く唇を見ていると、心臓が逸って仕方ない。なのに相変わらず無自覚なんだよな。

「そう言えば、例の彼女とはうまくいってんのか?」

 俺も自分で墓穴を掘りに行くってのはどうなんだよ。でも、実際気になってる。上手くいってるってハチの顔を見ればわかるのに俺、Mなんかな。

「キスが上手ねって言われたんですよ」

 そこに聞き捨てならない言葉がハチから放たれた。な・ん・だ・と。
 そりゃ、こいつも小学生じゃないんだ。彼女が出来ればすることするだろう。しかし、わかっていても面白くないっ。鼻の下伸ばしやがって許せんな。

「これも先輩のお陰です」

 ……俺のお陰? そう言えば、以前もそんなことを言ってたな。意味はわかってたけどあんときは知らん顔した。

「え? 俺、なんかしたっけ」

 もう一度ばっくれてみる。内心は嫉妬の炎がメラメラ燃えてる。

「え、なんかしたっけって、それは、その……」

 あれ、様子がおかしいな。頬が赤くなったのは酒のせいか? もしかして、ハチがこの話題を自ら振るのは、俺を誘っているからなんじゃ……。
 多分、これも無自覚なんだろうな。全く罪な奴だ。なんか酔っ払ったかな。思考回路をうまくコントロールできないや。キスしたら、止まらんかもな。誰もいないし、俺の倫理感も鈍ってる。それにハチも満更でないかも。

 ――――ヤっちゃおうかな……。

「あー、もしかして、アレか?」
「多分、それです」

 これを俺は了承と取る。斜め向かいのソファーに座るハチを目指して俺は体を移動させ、あいつのすぐ隣に片足を勢いよく置いた。

「え……」

 あいつが息を呑むと同時に漏れた声が聞こえた。俺はハチの顎を乱暴につかむ。心臓がヤバい。ずっと気になって仕方なかった唇にロックオンすると、そのまま俺ので塞いだ。

「んんっ」

 ハチは俺を退けようともせず、受け入れている。いや、動けないだけか?   
 いいんだ、もうそんなこと構うことない。息をするのも忘れるほど激しいキスを演出する。そのまま奴に体を預け、ソファーに押し倒した。

 ――――よし、行けるっ……ん……なんか意識が……朦朧と……。

 何故か脳内に霞が掛かっていく。眠気が俺を一挙に襲う。昔から寝不足すると、突然スイッチ切れることあるんだよ。肝心なところで何やってんだ……俺……。

 ――――ハチ、もっとこっちこい。
 ――――先輩……。

 俺はずっと思い描いていたようにハチを抱いた。あいつは艶々の頬を赤く染めて俺に付いてきてくれたのだが……。

「先輩、先輩っ!」

 束の間の甘い夢。本人に揺り起こされ、俺は現実に引き戻された。




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