54 / 59
番外編 ~キスから始めて見た~
第3話 もっかいしてみた。
しおりを挟む今週は鎌倉にワーケーションする。これもまた、次のステップに進むための経験だ。あ、仕事の話だ。まあついでと言ってはなんだけど、ハチとのことも進めたいかな。
ということで、あいつを誘ってみた。バレンタインに重ねたのも実は計算済み。断られるにしても、どんな顔するか確かめたかった。だけど、彼女の休みが不定期なのもあって簡単にOKをもらった。肩透かしだったけど、結果オーライだな。
しかし、こういう場所で仕事をするのは効率が上がるものの、色々準備したくなって時間はあっという間に過ぎてしまうな。思わず海に見惚れてしまうこともあるし、星を見ながらついつい長湯するってのもあって、慣れるのに時間が必要だった。
ハチの大好物、カレーを仕込むため、水、木は深夜まで仕事をしてしまった。ま、思いのほか捗ってのめり込んだのもその理由の一つだ。やはりワーケーションは悪くないな。
「遅くなってすみません」
コートに身を包み、キャリーバックを引きながら現れたハチ。やっぱり可愛いな。考えてみれば久しぶりに一つ屋根の下だ。やばっ。妄想で俺の色んなところが反応してる。
俺が滞在している古民家に案内すると、キョロキョロしながら感嘆の声を上げてるハチ。和風レトロな趣でありながら、全館空調やシステムキッチンなど根幹は最新モデルだ。小高い丘に位置してるから絶景も臨める。これは明日の朝のお楽しみだが。
俺たちはいつものようにテーブルを囲んで夕食を共にする。酒も入っていい気分だ。あいつのよく動く唇を見ていると、心臓が逸って仕方ない。なのに相変わらず無自覚なんだよな。
「そう言えば、例の彼女とはうまくいってんのか?」
俺も自分で墓穴を掘りに行くってのはどうなんだよ。でも、実際気になってる。上手くいってるってハチの顔を見ればわかるのに俺、Mなんかな。
「キスが上手ねって言われたんですよ」
そこに聞き捨てならない言葉がハチから放たれた。な・ん・だ・と。
そりゃ、こいつも小学生じゃないんだ。彼女が出来ればすることするだろう。しかし、わかっていても面白くないっ。鼻の下伸ばしやがって許せんな。
「これも先輩のお陰です」
……俺のお陰? そう言えば、以前もそんなことを言ってたな。意味はわかってたけどあんときは知らん顔した。
「え? 俺、なんかしたっけ」
もう一度ばっくれてみる。内心は嫉妬の炎がメラメラ燃えてる。
「え、なんかしたっけって、それは、その……」
あれ、様子がおかしいな。頬が赤くなったのは酒のせいか? もしかして、ハチがこの話題を自ら振るのは、俺を誘っているからなんじゃ……。
多分、これも無自覚なんだろうな。全く罪な奴だ。なんか酔っ払ったかな。思考回路をうまくコントロールできないや。キスしたら、止まらんかもな。誰もいないし、俺の倫理感も鈍ってる。それにハチも満更でないかも。
――――ヤっちゃおうかな……。
「あー、もしかして、アレか?」
「多分、それです」
これを俺は了承と取る。斜め向かいのソファーに座るハチを目指して俺は体を移動させ、あいつのすぐ隣に片足を勢いよく置いた。
「え……」
あいつが息を呑むと同時に漏れた声が聞こえた。俺はハチの顎を乱暴につかむ。心臓がヤバい。ずっと気になって仕方なかった唇にロックオンすると、そのまま俺ので塞いだ。
「んんっ」
ハチは俺を退けようともせず、受け入れている。いや、動けないだけか?
いいんだ、もうそんなこと構うことない。息をするのも忘れるほど激しいキスを演出する。そのまま奴に体を預け、ソファーに押し倒した。
――――よし、行けるっ……ん……なんか意識が……朦朧と……。
何故か脳内に霞が掛かっていく。眠気が俺を一挙に襲う。昔から寝不足すると、突然スイッチ切れることあるんだよ。肝心なところで何やってんだ……俺……。
――――ハチ、もっとこっちこい。
――――先輩……。
俺はずっと思い描いていたようにハチを抱いた。あいつは艶々の頬を赤く染めて俺に付いてきてくれたのだが……。
「先輩、先輩っ!」
束の間の甘い夢。本人に揺り起こされ、俺は現実に引き戻された。
12
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる