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番外編 ~キスから始めて見た~
第4話 演じてみた。
ワーケーションはやばかった。もう少しで俺はオオカミになりそうだった。てか、なった方が良かったのかな。俺も意気地がないな。だから5年も待つ羽目になったんだろう。
酔っ払ってキスしたまでは良かったが、その後激烈な眠気に襲われ、あえなくダウンしてしまった。あんときはあのまま突っ走ろうと思ったんだけどな。
ひと眠りしたらさっきに威勢はどこへやら、すっかりしぼんでしまった。
気を取り直しての翌朝、二人きりだからこそ焦りは禁物と言い聞かせた。
……なんだけど、海を見るあいつの背中についつい吸い寄せられてしまう。背中からぎゅってしたくて近寄ったんだけど、ハチは身の危険? を察知したんだろうか。
「な、なにか?」
なんて怯えた目つきで俺を見た。正直ショックだった……。これではまるで、俺は変態だ……。
――――もう少し今まで通り、『面倒見のいい先輩』を演じることにしよう。
そう考えた俺は、あいつと鎌倉の街を散策する。新しい彼女にお土産を買うというので付き合った。
なんでこんなもの、俺が選んでやらんといかんのだ。お土産とか、ホントに面倒くさいな。
――――だけど俺も出張した時、ハチに土産を買ってたな。もちろんご当地の美味しいものシリーズだが。そういうのを選ぶ時も楽しいんだよな。
ということは、ハチは彼女に土産を選ぶのが楽しいのか。なんか面白くない。よし、俺が選んでやる。あいつの楽しみを奪う(歪んだ嫉妬心だな)。
「これがいいんじゃないか?」
「あ、本当だ。やっぱり先輩は趣味がいいですね」
全く適当に選んだんだが、ハチは意外にも嬉しそうだ。こういうの、こいつは苦手なのかな。ハチも俺によく土産を買ってきてくれてるが……(もちろん、ご当地美味しいものシリーズだ)。
それなりに楽しかったワーケーションは終わった。また誘って欲しいと言ってきたので、次回も考えるか。その時はもっと積極的にやってみるかな。
「新条さん、外線です。なんか聞いたことない社名でしたけど」
「あ、ありがとう」
会社で妄想してると、後輩が怪訝な表情で俺に電話を回してくれた。職場だとこういう邪魔が入るんだよな。
「はい。お待たせしました。新条ですが……」
『お忙しいところ失礼します。〇×研究所の真鍋と申します』
「え……?」
〇×研究所? ハチの勤め先じゃないか。一体何ごとだ!?
電話の内容から察するに、かなりマズイことがハチの身に降りかかっているようだ。あいつのことだ、全力で狼狽えていることだろう。心細いに違いない。
根掘り葉掘り聞いてきた電話の主に、俺は適当に、しかし正直に返答した。終わってすぐハチにメッセージを送ったが、応答どころか既読もつかない。
――――予想以上にまずいぞこれは。
「先輩!」
俺は早めに帰宅し、夕飯のシチューを作って部屋へと向かった。あいつが帰ってきてるのはエアコンの室外機が作動していて既にわかっていた。
玄関を開けたハチは、飛びつかんばかりの表情をしている。相当追い詰められているのを一目で理解した。
「心配してても仕方ない。ネットのない生活もたまにはいいもんだ。昔のゲームでもしてたら? 本読むのもいいぞ」
どうやら会社で犯人扱いされたらしい。気持ちの優しいハチなら耐えられないだろう。優しく抱きしめてやりたいところだが、今はそれも得策じゃない。元気付けてやらなければ。
ハチが犯人じゃないこと、俺にはわかっている。こいつは性格は温和だし、人を信じやすいところもある。だが、信頼してるからと言って、職場の内情を話すような迂闊な奴じゃない。だからこそ、俺はハチにあの職場は合ってると思ったんだ。
「はい……そうします。ありがとうございます」
俺と話したことで、少しは安心できたのだろうか。来た時よりも、ずっと表情が柔らかくなっていた。
俺は翌日の作業をリモートワークに変更していた。ハチが家にいることを見越してたからだ。これであいつに目を配ることが出来る。不安定な精神状態から、おかしなことをしでかす可能性もあるからな。
けれど、事態は思わぬ方向に向かってしまった。夕刻から降り出した大雪。これは俺にとって、吉と出るのか、それとも……。
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