キスから始める恋の話

紫紺

文字の大きさ
59 / 59
番外編 ~キスから始めて見た~

最終話 それはキスから始まった

しおりを挟む


「あ、やべえ。もう面会時間終わってた。おい、ハチ、こっち来いっ」

 病院に担ぎ込まれた俺。なんてこたない寝不足だったんだけど、一晩泊まることになってしまった。でも、ハチが来てくれて……ようやくお互い素直になれた。

 面会時間が過ぎても話終わらなかった(というか、俺が帰したくなかった)ところに、看護師さんがやってきた。慌てて俺の布団に潜り込むハチ。
 布団が変に膨らまないよう。俺の体にへばりついてる。顔、にやけないように気を付けないと。

「もう出てきていいぞ」

 ちょっと残念だったけど、いつまでも布団の中に入れておくわけにもいかない。あいつは、修学旅行みたいだとか言って嬉しそうに出てきた。
 ベッドの外に出るなんて野暮なことしないよな。このまま、俺の隣にいてくれよ。

 俺の気持ちが伝わったのか、ハチは布団から頭だけ出して会話を続けてくれた。触れる指が熱い。手を握りたいけど我慢した。
 どうしてもっと早く、ちゃんと気持ちを伝えなかったんだろう。だけどハチには心の準備が必要だったんだ。
 いきなり俺に好きだと言われても、戸惑うばかりだったろうな。もしかしたら、避けられてたかもしれない。

 ――――キスしたの、間違ってなかったのかも。思えば俺も、思い切ったことしたよな。

「写真、おまえ見ただろ」

 だけど、ようやくここまで来たんだ。今こそちゃんと言わないと。俺は財布の中に忍ばせていた『ツーショット写真』の話をした。ハチは絶対に見てるはず。
 俺がこいつに財布を持ってこさせたのは、それを見せたかったからでもあるし、今の素直な態度がそれを物語ってる。

「えっと……。はい見ちゃいました」

 やっぱり……。もしかして引かれたかな。

「でも引いたりはしません。驚きましたけど……」

 俺の顔を横目で眺め、恥ずかしそうにしているハチ。なんて可愛いんだっ。
 俺はあいつの頭を撫でる。というか、揺さぶった。それから肩へと滑らしていく。
 もう無理。我慢できんっ。俺はそっとリモコンを手にし、斜めになってたベッドをフラットに落としていく。

「ハチ……」

 俺は半身を起こし、あいつの顔を眺め見る。そのくりっとした瞳は小動物のように震えてウルウルしている。頬も紅潮して、これから起こることに期待と不安を感じているのが手に取るようにわかった。

「はい……」

 ため息のように吐くその声に俺の心臓はどうにかなりそうだ。耳が痛くて仕方ないほどに打ち逸る。

「キスしていいか?」

 こんなこと、今まで聞いたことない。いつも無理矢理奪ってたから。だけど、こうして改めて聞くと、これほどに恥ずかしく感じるのだろうか。

「いつも聞かなかったじゃないですか」
「え、あは、ホントだ」

 ハチにも言われてしまった。だけど、それがまた愛おしい。俺がずっと思い続けていたこいつが俺の腕の中にいる。その事実に俺は心底震えてくるよ。
 ハチがそっと目を閉じた。長い睫毛が揺れているのは、おまえも震えているからか? 
 俺はその桃色の唇にそっと自分のそれを被せた。激しいキスではなく、許された口づけをそっと交わす。優しいキスだけど、心は嵐のように俺の全身を感動で揺さぶっている。

「好きだ」

 堰を切った感情があふれ出る。言葉にしたらたったその一言が、俺とハチを呑み込んでいく。

「僕も」

 俺は夢中でハチを抱きしめる。ベッドが軋む音が耳に届いても、俺は手を緩めることができなかった。



「先輩」
「どうした?」

 感情のまま抱きしめていたら、ハチが耳元で囁く。少しきつく抱きしめ過ぎたかと、俺はゆっくりと手を放した。
 そしてハチの隣に降り、片肘をつく。それを追いかけるようにハチがこちらを向いた。キラキラの目が俺を見つめてる。すぐそこにいるのがまだ信じられないでいた。

「最初……僕にあんな衝撃的なキスをしたのは、気を引くためだったんですか?」

 え? それ今聞く。そんなの当たり前じゃないか。だって俺は。

「おまえ、全然気が付かないから。ギャルばっかり追っかけてるし」
「え……それは……その」

 困ったような素振りをするハチの頭をもう一度撫でる。本当になんでこんなに可愛いのか。自分でわかってるんだろうか、こいつは。

「俺は待ってたけど、待ちくたびれたんだ。もう5年経ってたし。効いたかな? 荒療治」
「まんまと……忘れられなくなりましたから」

 言いながら、ハチが俺のほうに顔を近づけてくる。顎を少し上向け、まるでおねだりをするように。
 また俺の心臓がバクバクと爆発寸前になっていく。おいおい、これは反則だぞ。

「して……欲しいのか?」
「はい」

  ――――全く。おまえっていう奴は……。
 
 俺の心に火を点けて、それで終わりはないんだぞ。ここがどこであろうと、俺はもう遠慮しない。
 俺の気持ちはもう、誰にも止められないからな。

 俺はあいつのぷくりとした唇を奪う。腕のなかで身悶えしてるのがわかる。背中におかれたあいつの両腕に力が加わる。ハチの熱い想いとともに。

 ここからまた始めよう。俺達の恋愛物語は始まったばかりだ。




☆☆☆☆☆

『キスから始めてみた』 完結
応援ありがとうございました。

しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

Kia
2023.10.29 Kia

やっとハチが素直になれた(泣)
すごくいい感じの2人なので、続きの物語を期待してます!

2023.10.29 紫紺

Kia様 感想ありがとうございます!

ハチと先輩の恋物語、最期までお読みいただき感謝しかありません!
ありがとうございました。

番外編は先輩目線のストーリーになっています。
短いですが、読んでいただければ幸いです。


紫紺

解除
マリン
2023.10.14 マリン

テンポが良くて面白いです。
先輩、かっこ良さそうー。🥰

2023.10.14 紫紺

マリン様

感想ありがとうございます!
はい。先輩はカッコいいです。
これからもどんどんカッコよくなりますのでご期待ください!

解除

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。