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番外編 ~キスから始めて見た~
最終話 それはキスから始まった
しおりを挟む「あ、やべえ。もう面会時間終わってた。おい、ハチ、こっち来いっ」
病院に担ぎ込まれた俺。なんてこたない寝不足だったんだけど、一晩泊まることになってしまった。でも、ハチが来てくれて……ようやくお互い素直になれた。
面会時間が過ぎても話終わらなかった(というか、俺が帰したくなかった)ところに、看護師さんがやってきた。慌てて俺の布団に潜り込むハチ。
布団が変に膨らまないよう。俺の体にへばりついてる。顔、にやけないように気を付けないと。
「もう出てきていいぞ」
ちょっと残念だったけど、いつまでも布団の中に入れておくわけにもいかない。あいつは、修学旅行みたいだとか言って嬉しそうに出てきた。
ベッドの外に出るなんて野暮なことしないよな。このまま、俺の隣にいてくれよ。
俺の気持ちが伝わったのか、ハチは布団から頭だけ出して会話を続けてくれた。触れる指が熱い。手を握りたいけど我慢した。
どうしてもっと早く、ちゃんと気持ちを伝えなかったんだろう。だけどハチには心の準備が必要だったんだ。
いきなり俺に好きだと言われても、戸惑うばかりだったろうな。もしかしたら、避けられてたかもしれない。
――――キスしたの、間違ってなかったのかも。思えば俺も、思い切ったことしたよな。
「写真、おまえ見ただろ」
だけど、ようやくここまで来たんだ。今こそちゃんと言わないと。俺は財布の中に忍ばせていた『ツーショット写真』の話をした。ハチは絶対に見てるはず。
俺がこいつに財布を持ってこさせたのは、それを見せたかったからでもあるし、今の素直な態度がそれを物語ってる。
「えっと……。はい見ちゃいました」
やっぱり……。もしかして引かれたかな。
「でも引いたりはしません。驚きましたけど……」
俺の顔を横目で眺め、恥ずかしそうにしているハチ。なんて可愛いんだっ。
俺はあいつの頭を撫でる。というか、揺さぶった。それから肩へと滑らしていく。
もう無理。我慢できんっ。俺はそっとリモコンを手にし、斜めになってたベッドをフラットに落としていく。
「ハチ……」
俺は半身を起こし、あいつの顔を眺め見る。そのくりっとした瞳は小動物のように震えてウルウルしている。頬も紅潮して、これから起こることに期待と不安を感じているのが手に取るようにわかった。
「はい……」
ため息のように吐くその声に俺の心臓はどうにかなりそうだ。耳が痛くて仕方ないほどに打ち逸る。
「キスしていいか?」
こんなこと、今まで聞いたことない。いつも無理矢理奪ってたから。だけど、こうして改めて聞くと、これほどに恥ずかしく感じるのだろうか。
「いつも聞かなかったじゃないですか」
「え、あは、ホントだ」
ハチにも言われてしまった。だけど、それがまた愛おしい。俺がずっと思い続けていたこいつが俺の腕の中にいる。その事実に俺は心底震えてくるよ。
ハチがそっと目を閉じた。長い睫毛が揺れているのは、おまえも震えているからか?
俺はその桃色の唇にそっと自分のそれを被せた。激しいキスではなく、許された口づけをそっと交わす。優しいキスだけど、心は嵐のように俺の全身を感動で揺さぶっている。
「好きだ」
堰を切った感情があふれ出る。言葉にしたらたったその一言が、俺とハチを呑み込んでいく。
「僕も」
俺は夢中でハチを抱きしめる。ベッドが軋む音が耳に届いても、俺は手を緩めることができなかった。
「先輩」
「どうした?」
感情のまま抱きしめていたら、ハチが耳元で囁く。少しきつく抱きしめ過ぎたかと、俺はゆっくりと手を放した。
そしてハチの隣に降り、片肘をつく。それを追いかけるようにハチがこちらを向いた。キラキラの目が俺を見つめてる。すぐそこにいるのがまだ信じられないでいた。
「最初……僕にあんな衝撃的なキスをしたのは、気を引くためだったんですか?」
え? それ今聞く。そんなの当たり前じゃないか。だって俺は。
「おまえ、全然気が付かないから。ギャルばっかり追っかけてるし」
「え……それは……その」
困ったような素振りをするハチの頭をもう一度撫でる。本当になんでこんなに可愛いのか。自分でわかってるんだろうか、こいつは。
「俺は待ってたけど、待ちくたびれたんだ。もう5年経ってたし。効いたかな? 荒療治」
「まんまと……忘れられなくなりましたから」
言いながら、ハチが俺のほうに顔を近づけてくる。顎を少し上向け、まるでおねだりをするように。
また俺の心臓がバクバクと爆発寸前になっていく。おいおい、これは反則だぞ。
「して……欲しいのか?」
「はい」
――――全く。おまえっていう奴は……。
俺の心に火を点けて、それで終わりはないんだぞ。ここがどこであろうと、俺はもう遠慮しない。
俺の気持ちはもう、誰にも止められないからな。
俺はあいつのぷくりとした唇を奪う。腕のなかで身悶えしてるのがわかる。背中におかれたあいつの両腕に力が加わる。ハチの熱い想いとともに。
ここからまた始めよう。俺達の恋愛物語は始まったばかりだ。
☆☆☆☆☆
『キスから始めてみた』 完結
応援ありがとうございました。
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ハチと先輩の恋物語、最期までお読みいただき感謝しかありません!
ありがとうございました。
番外編は先輩目線のストーリーになっています。
短いですが、読んでいただければ幸いです。
紫紺
テンポが良くて面白いです。
先輩、かっこ良さそうー。🥰
マリン様
感想ありがとうございます!
はい。先輩はカッコいいです。
これからもどんどんカッコよくなりますのでご期待ください!