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Pair.5
十三番目の魔女
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アレンに付き添われ、東宮殿まで帰ってきた。
……何故か、部屋直前の廊下で使用人たちが人集りを作っている。
不審に思ったアレンが手近な使用人に訊ねた。
「何かありましたか」
「ああ、今日来たばかりの令嬢の部屋が荒らされたみたいだ」
わたしとアレンは驚くと、人集りを分け入って部屋の前まで進んだ。
「なんということ……!?」
開け放たれた扉から室内を覗くと、持ち込んだドレスは引き裂かれて散々な状態になっていた。装飾品やその収納箱もひっくり返され、備え付けの家具の類も横転している。
その部屋へ、紅茶で濡れそぼった令嬢が登場したものだから、宮殿の使用人ややじ馬たちは各々都合の良い憶測を口にしはじめた。
「見ていないで、片づけを」
即座にアレンが東宮殿の使用人に指示を出し、やじ馬を退散させる。
だが、冷静に指示をした彼も不安だったのか、アレンはおそるおそる口を開く。
「ロザリンド様……明日のお茶会はどうされますか……?」
紅茶で濡れたこのドレスと、引き裂かれた部屋のドレスはもう着れない。
つまり、挑発に乗ったお茶会に着ていくわたしのドレスはない。
打つ手なしの状況でアレンが「あっ」と言った。
「この前、採寸した店のドレスは着れませんか?」
「……あれは夜会用ですし、完成は来月です」
このままでは舞台に立つことも、壇上に名乗りを上げることすら叶わないだろう。
わたしは皇太子妃殿下の味方になると、彼女の前で宣言したというのに……!
「ロザリンド叔母様」
「!」
その名で、私を呼べる人物はひとりだけ。
荒らされた部屋の中に足を踏み入れた声の主は、わたしを見上げた。
「……カイくん、どうしてここに?」
「叔母様に会うついで。皇立研究所へ行っても良いと言われたから」
カイくんは目端でちらりとアレンを見遣った。
「東宮殿と聞いていたけれど、粗末な部屋だね。見張りもいないのは不用心だ」
小言でチクリと刺す。片づけをしている使用人たちも一時固まっていた。
「僕は叔母様に荷物の残りを渡しに来ただけだから」
カイくんが軽く手を上げると、同行の侍従が複数の長持を運び込む。
荒らされたドレスは持ち出され、入れ替わりに見覚えのあるドレスがやや形状を変えて、衣装室のハンガーラックに掛けられていく。
「カイくん、どうしてこれを……これは公爵夫人に言われて、公爵家の城に置いてきたドレスです」
「その預かっていたドレスを、部分的に仕立て直したみたいだね。母様も危惧していたんだろう。推測が当たって良かったよ、こんな手放しでは喜べない状況を」
いつになく饒舌に話すカイくんは、ふと飽きたのかサッと背を向けた。
「じゃあ。帰るよ」
風のように颯爽と現れた甥っ子が、途方に暮れるほどの難題を一瞬で解決してしまった。
「カイくん、ありがとう!」
彼は顔だけ振り向かせて、わたしが手を振るのをじっと見ると、さっさと帰っていった。
心配事が無くなると、荒らされた部屋が、最初よりもマシなものに見えてきた。
幸いにも、床にばらまかれるだけで済んでいた手書きの童話集とパパからの短剣を手に取る。
いばら姫に登場する姫に死の呪いをかけた十三番目の魔女――たとえ彼女が招かれざる客だとしても、彼女だって幸福を授けるはずの魔女だった。
皇太子妃殿下に幸福を授けるか、不幸に陥れるかは、わたしの行動次第だ。
……何故か、部屋直前の廊下で使用人たちが人集りを作っている。
不審に思ったアレンが手近な使用人に訊ねた。
「何かありましたか」
「ああ、今日来たばかりの令嬢の部屋が荒らされたみたいだ」
わたしとアレンは驚くと、人集りを分け入って部屋の前まで進んだ。
「なんということ……!?」
開け放たれた扉から室内を覗くと、持ち込んだドレスは引き裂かれて散々な状態になっていた。装飾品やその収納箱もひっくり返され、備え付けの家具の類も横転している。
その部屋へ、紅茶で濡れそぼった令嬢が登場したものだから、宮殿の使用人ややじ馬たちは各々都合の良い憶測を口にしはじめた。
「見ていないで、片づけを」
即座にアレンが東宮殿の使用人に指示を出し、やじ馬を退散させる。
だが、冷静に指示をした彼も不安だったのか、アレンはおそるおそる口を開く。
「ロザリンド様……明日のお茶会はどうされますか……?」
紅茶で濡れたこのドレスと、引き裂かれた部屋のドレスはもう着れない。
つまり、挑発に乗ったお茶会に着ていくわたしのドレスはない。
打つ手なしの状況でアレンが「あっ」と言った。
「この前、採寸した店のドレスは着れませんか?」
「……あれは夜会用ですし、完成は来月です」
このままでは舞台に立つことも、壇上に名乗りを上げることすら叶わないだろう。
わたしは皇太子妃殿下の味方になると、彼女の前で宣言したというのに……!
「ロザリンド叔母様」
「!」
その名で、私を呼べる人物はひとりだけ。
荒らされた部屋の中に足を踏み入れた声の主は、わたしを見上げた。
「……カイくん、どうしてここに?」
「叔母様に会うついで。皇立研究所へ行っても良いと言われたから」
カイくんは目端でちらりとアレンを見遣った。
「東宮殿と聞いていたけれど、粗末な部屋だね。見張りもいないのは不用心だ」
小言でチクリと刺す。片づけをしている使用人たちも一時固まっていた。
「僕は叔母様に荷物の残りを渡しに来ただけだから」
カイくんが軽く手を上げると、同行の侍従が複数の長持を運び込む。
荒らされたドレスは持ち出され、入れ替わりに見覚えのあるドレスがやや形状を変えて、衣装室のハンガーラックに掛けられていく。
「カイくん、どうしてこれを……これは公爵夫人に言われて、公爵家の城に置いてきたドレスです」
「その預かっていたドレスを、部分的に仕立て直したみたいだね。母様も危惧していたんだろう。推測が当たって良かったよ、こんな手放しでは喜べない状況を」
いつになく饒舌に話すカイくんは、ふと飽きたのかサッと背を向けた。
「じゃあ。帰るよ」
風のように颯爽と現れた甥っ子が、途方に暮れるほどの難題を一瞬で解決してしまった。
「カイくん、ありがとう!」
彼は顔だけ振り向かせて、わたしが手を振るのをじっと見ると、さっさと帰っていった。
心配事が無くなると、荒らされた部屋が、最初よりもマシなものに見えてきた。
幸いにも、床にばらまかれるだけで済んでいた手書きの童話集とパパからの短剣を手に取る。
いばら姫に登場する姫に死の呪いをかけた十三番目の魔女――たとえ彼女が招かれざる客だとしても、彼女だって幸福を授けるはずの魔女だった。
皇太子妃殿下に幸福を授けるか、不幸に陥れるかは、わたしの行動次第だ。
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