彼女に思いを伝えるまで

猫茶漬け

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高校1年目

夏休みと阿部とボーリング(3)

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斑目さんが言いたいことがわかるが、少し反応が極端じゃないかと思っていた。
それは彼女と阿部には何やら因縁があると言う事を知るのは数カ月先の事で、俺は斑目さんが阿部に対しての強い対抗意識について理解が出来なかった。
彼女は阿部の真似を止めると少し俯きながら言葉を続けた。

「ごめんなさい、登藤を巻き込んでしまって。」

俺になんで謝ってんだろうと思っていたが、その時は特に斑目さんと阿部の関係については話してくれなかった。
しかし、彼女は阿部のずる賢さを理解をして欲しかったらしく、彼女は阿部が何を考えているのかわかりやすく教えてくれた。
斑目さんは、阿部が提案した勝負に阿部が勝つこと確信していた事を示唆した。
阿部は既に斑目さんと俺が同じチームになるようにはどうすれば良いか方法を考えていて、阿部、俺、大島さんは同じぐらいのスコアを出すと仮定して、斑目さんのスコアは少し低いと考えた場合、斑目さんと一緒のチームになる事は勝てる確率を下げてしまうことになるので避けたいと思った。
そうすれば、絶対とは言え無いが50%以上の確立で勝てることを見込めていたから、そこで斑目さんを挑発することを考えた。
そうすることで、阿部と斑目さんは絶対に同じチームになる事がないことや、斑目さんが阿部についてあまり良い印象がないことや性格も理解したうえで、挑発すれば勝負に乗ってくると見込んでいた。
この時、俺と阿部が一緒のチームになる可能性もあるが、阿部から見ればこれも50%以上の確立で勝てることを見込めていた。
しかし、俺と阿部が一緒のチームで勝ったとしても、第三者に耳に入った時には耳障りが悪いだろうと思ったので、その言い訳として公平性を出す為にも、男女混合にして斑目さんと俺が同じチームになるようにした。
斑目さんの話は陰謀論のような気もするが、阿部だったら考えそうな否定も出来ないし、そう考えていてもおかしくないと思いもした。
斑目さんが阿部の挑発に乗ったことで負ける試合をさせられ、ジュースを奢らされると言う事態になった事に謝っていたとやっと理解できた。
俺はとりあえず、率直に自分の気持ちを言うことにした。

「そんなの全然気にしてないし、楽しければ良いんじゃない?」

公平で実力が拮抗した勝負ほど、白熱して楽しいのはわかるが、斑目さんが執着しすぎていると思った。
その阿部との因縁を聞くのは数カ月後なのだが、この時の俺は高校生の遊びでそこまで真剣じゃなくても良いと俺は思っていた。
しかし、その為に俺が4人分のジュース代を出していることも事実だ。

「次は公平な勝負に持ち込む特別ルールを考えたから、話だけ合わせて欲しいの。」

斑目さんはそう言うと俺の前を歩き出したので、俺はその後ろをついていくように歩き出した。
彼女はそのまま振りかえらず、彼女は俺に忠告をしてきた。

「阿部とはあんまり付き合わない方が良いよ、悪い噂しか聞かない。」

俺には阿部の黒い噂については全然知らないが、それは俺の交友関係は狭いと言うだけで、色んな所から阿部の噂がたっていると言う事だったのだろうか。
他人に付き合い方を考えた方が良いなんて言われる程、俺は阿部が悪い奴とは思えなかった。
そんなに悪評があるなら阿部は謎のコミュニティを維持出来ていないし、それはある程度の信用があるからコミュニティを維持が出来ていると思っていた。
俺はそんなことを思ったが、阿部がやっているグレーな副業については肯定するつもりはないが、ギブ&テイクだけはしっかりしている憎めない奴、この言葉が一番しっくりきた。
俺達は阿部と大島さんのところに戻り、ジュースを渡すと同時に斑目さんが先ほど話した通り、勝負のルール変更について話を始めた。
それは相手チームに倒すピン数を指定して、1フレーム毎に指定されたピン数を倒せた回数が多いチームが勝ちと言う、もうそれはボーリングではない全く違うゲームをすると言う大胆な勝負変更であった。
そして、ストライク指定の乱用を封じると言う名目で、一度指定した数は二度と使えないと言うルールも追加した。

「えぇっ、別にスコアで競うので良いんじゃないでしょうか。」

阿部はこのルール変更について否定的であったが、斑目さんはこれを飲み込ませるためにお互いの実力が釣り合っていないことを引き合いに出した。

「両チームのスコア差が40も離れている時点で、私たちのチームが勝ちが薄いのは明白、公平な勝負にするには妥当な提案です。」

それを聞いていた大島さんは興味が惹かれたらしく、純粋に面白そうと言うことでやる気になっていた。
そして、俺も同じように話を合わせると、3対1で阿部はルールの変更を受けざる得ないことになった。
ジュースを買いに行く間にこの状況を想定していたと思うと、俺は斑目さんの頭の良さに驚いた。
半ば阿部が折れる形で新しいルールで勝負が始まったが、阿部は顔色も眉一つ変化させていないし、それはそれで純粋にボーリングを楽しんでいるようだった。
阿部の事を気になっていたが、そんなことを忘れさせられるような一進一退の接戦となった。
1フレーム目は両チーム指定数通りのピンを倒すことに成功するが、2フレーム目は両チーム指定数通りに倒すのに失敗する。
ほぼ互角の取られては取り返すような過熱した勝負となっていた。
何よりも先ほどの勝負でイライラした感じだった斑目さんは、ご機嫌で笑顔でハイタッチもするほど楽しんでいた。
両チーム同点で10フレーム目を迎え、阿部が指定ピン通り倒すことが出来なかったので、ここで俺が勝敗を決する1球を投げることになった。
指定ピン数は1本、ボーリング球を持ち上げた時に目線がベンチに向いて、斑目さんと目が合った。
斑目さんの何か唇が動いているが声が周りの音にかき消されて聞こえないが、その動きで何となく言いたいことがわかった。
“ガンバレ”とそんな風に読み取れた。
斑目さんのような、男だったら誰もが羨むような美人に応援されるのは嬉しいが、俺は山城さんの事が好きだと言う気持ちから罪悪感を感じて仕舞い、何とも言えない気持ちになっていた。
目の前のピンに集中して、息を深く吸うと、今だけは全てを忘れる様に息を長く吐き出し、俺は球を投げた。
ボールは綺麗に一番右端のピンに転がり、自分で言うのもアレだが見事に1本だけピンを倒した。
俺がベンチに向かうと、斑目さんが両手を挙げていたのでハイタッチを交わした。
何か視線を感じると思ったら、阿部の何とも言えない顔でこっちを見ながら、唇をベロベロ舐め始めていた。
阿部は唇をなめるのを止めると、何やら嬉しそうにニヤニヤしながらこちらに近づき、負け惜しみに一つも言わずに気持ち悪いぐらい素直に負けを認めていた。

「いやぁ、惜しかった。約束ですし、ジュースを買いに行きますが、何がいいですか。」

阿部は特に悔しがることも無く、素直に負けを認めていたが、何か不穏な感じがしてならなかった。
阿部と大島さんがジュースを買いに行くのをベンチに座りながら見送ると、斑目さんは話しかけてきた。

「登藤は何かスポーツでもやっていたの?」

人には聞かれてたくない事の一つや二つあるが、一番触れて欲しくないところである急所を突かれた。
その言葉に一瞬ドキッとした、俺は脊椎反射の拒絶反応と言うべきか、咄嗟に嘘をついていた。

「いや、特に何もしてない。」

俺は斑目さんにこれ以上、踏み込んだ話をしてほしくないと思い、何でもいいから質問を投げかけた。

「斑目さんって美術部だよね、どんな普段は絵を描いているの?」

斑目さんはスマホを取り出すと、画面に自分が書いている絵を表示させて、絵について話を始めた。
学校では鉛筆でのスケッチやデッサンしかしていないが、家のスキャナーを使ってPCに読み込んで、ペイントソフトで絵を描いていると言う事だ。
斑目さんは俺にスマホを渡すとスライドして好きに絵を見させてくれた。
ジャンルは良くわかっていないが、油絵のようなものから水彩画にクレヨンと多種多様であるが、素人の目の俺でも絵が上手いことがわかった。
指でスライドしていく画面に、何故か不思議に一枚の絵で指が止まった。
それはキジトラ模様の猫が気持ちよさそうに、身体を三日月形に伸ばしながら寝ている絵だった。
色鉛筆で書いているような、無数の細い線が毛並みの流れや手足の輪郭を独特な流線で描いていた。
何よりもこの絵からは先ほどまで見ていた絵とは何とも言えない暖かさを感じていた。
俺の指が止まっていることに気がついたらしく、斑目さんは肩が触れるか、触れないかの距離まで体を近づけ、スマホを覗き込んだ。
女性に対する免疫が乏しい俺は、この行動にまたしても内心を掻き乱されることになった。
別に斑目さんに触れたくない訳ではないが、変に下心がある様に思われるのも心外で、下手に動けば体が触れてしまうと思うと動けなくなっていた。
何よりも接近したことで香水なのか、シャンプーなのか、甘い匂いが鼻孔を刺激して脳味噌に変な分泌液が漏れ出している。
要するに、斑目さんを異性として意識してしまっていた。
俺は胸の鼓動が高鳴るのを感じると、すぐさま呼吸を止めて、脳味噌から出ている分泌液が止まることを願った。

「これは前に飼っていた猫で、名前はモモって言うんだ。」

斑目さんはそう言うと身体の姿勢を戻してくれたので、俺は平常心を取り戻せた。
言葉の意味からすぐに猫はもう他界していないことを察した俺は、反応しずらい話題になんと言葉を返せばいいか考えた。

「いや、この絵だけなんか違うなと思った。」

考えればわかるが、例えば死んだ家族の話を楽しく話せる人はまずいない、それを話す際には必ずその時の事を思い出してしまうからだ。
とにかく、猫の話題から話を変えたい俺から出た咄嗟の一言に彼女は食いついた。

「違うって、どうして思ったの?」

斑目さんはスッと顔をこちらに向けてきたので、目が合ってしまった。
距離が近いせいか、斑目さんの容姿のせいか、なんもと言えない雰囲気に俺の中の緊張感が高まっていた。
内心、言葉の選択に失敗したと思ったが、出てしまったものは引っ込みもつかないので思ったことをそのまま言うしかなかった。

「いや、なんか、暖かいと思った。」

そう言うと、斑目さんはスマホを俺から取り上げるとその絵を見ながら何か考え始めていた。
俺は気に障る事でも言ってしまったのかと思い、別に他の絵が悪かったとかじゃないとか、偶々その絵が良かったからとか、言い訳と言うか、ご機嫌を取るような言葉を掛けたのだが殆ど聞こえてないようだった。
正直、参ったなと、思っていたところにタイミング良く阿部と大島さんが戻ってきてくれた。
それに気づいた斑目さんは、阿部からジュースを受け取ると大島さんのところに行き、スマホの画面を二人で見ながら話を始めていた。
神妙な顔の阿部からジュースを受け取ると阿部が小声で俺に話しかけてきた。

「また何かしたんですか?」

またとは、言い掛かりも良いところだと言いたいところだが、雰囲気を悪くしたくもないので阿部に頼るしかないと思った俺は、阿部に斑目さんとのやり取りを簡単に教えた。
阿部はそれを聞くと何が面白いのかわからないが、気持ち悪い笑い方をしながらスマホを取り出して大島さんと斑目さんに声を掛けた。

「ちょうどいいですから、連絡先を交換しておきません?と言っても私は斑目さんの連絡先以外は知っていますが。」

それを聞いて斑目さんは露骨に嫌な顔するのだが、阿部はそれをわかっていたかのように続けてこう言った。

「ああ、直接じゃなくても良いですよ、例えば登藤経由で連絡くれれば。」

大島さんは積極的に交換してくれたのに対し、斑目さんは何か一瞬戸惑ったが、大島さんの後押しに負けて俺と連絡先を交換した。
俺はこの連絡先を交換したことを後で後悔することになることになるとは知る由もなかった。

この後は少し休憩した後、ボーリング場を出たところで解散したが、俺は阿部の家に行くことになった。
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