彼女に思いを伝えるまで

猫茶漬け

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高校1年目

映画デート(2)

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俺は駅前の映画館に待ち合わせ時間よりもⅠ時間も早く着いていた。
 それは山城さんと言う、意中の相手との初デートとなる事もあり、二人で初めて遊んだ日となる事を考えると高揚感と緊張で落ち着いていることが出来なかったので待ち合わせ場所に先に着いてしまった。
 夏の空の下でただ突っ立っていると、熱中症になって倒れてしまいそうなので、バス停の待合席に腰を掛けていた。
 今日と言う日を迎えるまでには、大変な苦労があった。
 思い起こせば、バイト先に山城さんが来てから、映画の約束をして今日を迎えるまでの準備期間は1日しかなかった。
 それは喜ばしい事なのだが、今日、映画館で視聴する映画は長編有名作品だった為、事前知識としてこれまでのシリーズを一通り、視聴済みで知識を入れておかなくてはならなかった。
 そもそも、長編映画を途中から見たところで、前後の話がわかっていないので視聴しても面白くないのは当然だが、山城さんはどう見てもかなりのコアなファンと言う事はハッキリわかった。
 彼女と楽しく会話をするには、絶対に抑えたいのは知識と常識である。
 例えるなら、長年愛されたブランドや界隈でしか通じないローカルルールを知っておかないと大変失礼なことを言ってしまったりする可能性があった。
 日本では家に上がる際は靴を脱ぐが、英語圏では脱がないとか、日本では話を聞いている事をアピールする為に相槌を打つが、海外では相手の話を遮らないようにする為、相槌は打たないなどの文化の違いがある。
 見た目で違う国から来たとわかれば何とも思われないが、周りが全員日本人で見た目ではわからないうえ、長編映画を続編を見ていると言う事は全て視聴してきたと言う知識も常識も知っている前提で来ていると思われている。
 俺が知らぬ間に失言等をするものなら、周りから白い目で見られて、一緒にいる山城さんも恥をかいてしまうのと同時に幻滅してしまうのではと思ってしまった。
 そこで俺は、すぐにビデオレンタル店に行き、2時間半あるEP1~7を全て視聴してから、解説動画も全エピソード分を視聴して期末テストの時よりも勉強をする羽目になった。
 自分自身、徹底して準備をしていたことについては、苦痛よりも俺と山城さんの関係が進展するチャンスに興奮に近い高揚を感じていて、二人の記念日になるようなそんな夏の思い出を作りたいと思いが勝っていた。
 集合時間15分前に予定通り、阿部からドタキャンの連絡がSNSメッセージで届くと一気に緊張感が高まっていた。
 山城さんとバイト先で映画を見に行く約束をした日に、バックヤードに着替えている時に今日の計画について話を始めた。
 
 「映画を見に行く件ですが、山城さんと登藤の二人で言って来て下さい。じゃあ、これチケットです。私は適当な理由で行けなくなることを集合時間の15分前に送ります。」
 
 阿部は初めからあのラーメン屋で約束を果たす為に、わざわざ裏で準備をしていた訳だ。
 だからこそ、阿部は斑目さん達と遊ぶ件で無理矢理でも俺を連れて行くことにしたのは、全ての準備が無駄になってしまうことを防ぐためだった。
 阿部からチケットを受け取った俺は、内心は喜んでいたが心の片隅に何とも言えない気持ちがあった。
 それは山城さんを騙しているのではと思う罪悪感かも知れない。
 阿部が好意で用意した事については感謝しているが、都合良く相手にバレない様にデートに仕向けることは本当にいい事かと聞かれると後ろめたい部分があった。
 しかし、俺は手に握ったチケットを阿部に返す事は出来なかったのは、こんな事は人生で1回しかないと思える出来事を手放す勇気など全くなかったからだった。
 スマホのディスプレイには待ち合わせ時間まで後5分、色々考えるのはやめて山城さんとデートを楽しむことを考えることにした。
 それにしても待ち合わせ5分前に山城さんが来ていないので、若干不安になり周囲に目線を泳がせて山城さんの姿を探し始めていた。
 人混みの中、歩いている歩行者を追い抜き、こちらに走ってくる女性が視界に入った。
 それは間違いなく山城さんだったが走っているせいで、まるでグラビアアイドルのイメージムービーみたいに胸が上下に運動しながらこちらに向かって来ていた。
 もうそれは、健全な高校男子には刺激が強すぎて、視線が胸に吸い付くように無意識に向いてしまっていた。
 頭の中では煩悩退散と思いつつも、目が離せないまま山城さんが目の前で来た瞬間、下心を向けていたことについて急に恥ずかしくなった。
 それよりもこんな心境でどんな言葉を発すれば良いか、何とも言えない気まずさから思いつくことが出来なかった。
 
 「ハァ、ハァ、遅くなってごめんなさい。」
 
 息を切らせながら、時間ギリギリで到着したことについて、山城さんは罪悪感を感じていたのか謝っていた。

 「えぇっ、あぁ、そんな気にしないで下さい。自分もさっき来たばっかりですし...。」

 俺はフォローしつつも、頭の中には上下運動する胸の事が頭から離れないでいた。
 女性の身体的神秘と言うべきか、重力と胸の張りと言うかクーパー靭帯の張力で発生する、丸みを帯びた球体のようなものが上下に跳ねる動きを脳が覚えてしまっていた。
 少しでも自分の頭の中を胸から遠ざける為にも、俺は阿部が来れないことについて話をすることにした。

 「阿部は体調が悪いみたいで今日は来れないと、さっき連絡がありました。でも、チケットは預かってたんで映画は見に行けます。」
 
 山城さんは息を整えながら、少し残念そうな顔して一言「そうなんですか」と答えた。
 阿部がいないことに対して、悲しいと思う気持ちがある山城さんを見て、やはり騙してまで二人きりになる事に罪悪感を感じていた。
 
 「夏風邪だと思いますけど、まぁ、阿部のことだから、1日寝ていれば良くなっていると思います。」
 
 山城さんはやっと息が落ち着いてきたようで、ハンカチで額の汗を拭きながら腕時計を確認していた。

 「上映時間まで少し時間ありますが、映画館に向かいます?」

 そう言うと、山城さんは首を縦に振って頷いた。
 二人で映画館に向かい歩き始めるタイミングで、勉強してきた”宇宙銀河大戦”の話をすることにした。
 
 「実は今日の宇宙銀河対戦を見る為に、全エピソードを鑑賞してきたんですよ。」

 それを聞くと山城さんの目が徐々にこれまでとは感じたことない程の生気と言うか、熱のようなものが宿っていくのがわかった。

 「私も、全エピソード見てきたんですが、夜更かしをしてしまって遅刻してしまいそうになりました。」

 山城さんの横顔は少し恥ずかしそうだったが、楽しそうでもあって、上機嫌でニコニコと笑いが自然に溢れてしまっていた。

 「奇遇ですね。」
 
 ほぼ同時で二人でテレビの漫才みたいに声がそろっていた。
 二人で声を出して笑ってしまったが偶然とは言え、選んだ言葉も完全に一致する事なんて滅多にないことだ。
 約18時間を費やして良かったと、苦労が報われたと、今日は最高の日になると確信を得たような出来事だった。
 このまま二人で映画の後は喫茶店で談笑して、彼女を家まで送り、もっと距離が縮まるんじゃないかと甘い妄想を描いていた俺はただの阿保だった。
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