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第1章 ディアス公爵邸編
第12話 ルシアの才能
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そんなに話が聞きたいのか、それとも案内するのに飽きたのか。観光ツアーもそこそこに、私たちは裏庭に来ていた。
一応、案内らしい出来事はあった。といっても、私が物凄く高そうな壺を見つけたため、足を止めただけのことなのだ。
「どうした、今度はそれに興味があるのか?」
「違います! 壊してしまったら、どうしようかと思っただけです!」
そう、壺というのは元々壊れやすい。それなのにも拘らず、その壺は下にいくに連れて細くなっているではないか。ここで大声を出したら、振動で倒れてしまう、と思えるほどに。
そしてこういうのにはお約束がある。私が壺を割ってしまい、多額のお金を支払う羽目になるのだ。幸いにも、弁償するお金が払えずにただ働きをさせられる、という物語の主人公のような目に遭うことはないだろう。
なにせコルテス男爵家は成金。養父が一代で築き上げてきたのだ。支払えない金額ではないだろう。けれどその後は……アカデミーを辞めさせられる可能性がある、というだけのこと。
それはダメ! 絶対にダメよ! そんな未来は絶対に阻止しなくては!
私は咄嗟に手で口を塞ぐと、ルシア様は呆れた表情でその手も取った。
「気にするな。壊れたら、また新しいのを置けばいいだけのことだ」
「その理屈は分かりますが、一点物だったらどうするのですか。見るからに高そうですよ。弁償は……できますが、その後が怖いのでご遠慮させていただきたく……」
「……これは、そんな大層な物ではない」
「いえいえ、よく見てください。このタッチは、スティナー朝時代に流行った模様に似ていませんか? 色合いも綺麗ですし。特にこの紫色がいい味を出しています」
思わず熱弁を振るうと、ルシア様はため息を吐きながら、片手で顔を覆った。
「一流作家の作品と変わらぬ評価をするな。これはお……ではなく、私が作った物だ。ちょうどいいと父上が置いたに過ぎない」
「……ルシア様にそのような才能が! そちらの方面に進まれないのですか?」
「……アニタ。自分の立場を忘れていないか。私はこれでも……王子の婚約者候補だぞ、まだ」
「だからこそです。一つでも秀でたものがあれば、候補ではなく婚約者に一歩近づけると思います」
別にルシア様の取り巻きではないが、私は称賛するように言った。
元々おべっかを使うタイプではなかったから、変に思われたのだろう。ルシア様の表情は、晴れるどころか怪訝になった。
「……そうだな。しかし、アニタが気に入ったのなら……あげてもいい」
「えっ!? そんな、滅相もないです」
「何故だ?」
「それは、その……私の住まいが、ですね。一応コルテス男爵邸なのですが、アカデミーにほぼ移してしまっている状態なため……」
だからなんだ、とばかりにルシア様に睨まれた。
「つまり何が言いたいのか、といいますと、ルシア様の作品を受け取ることイコール、アカデミーに持って行くことになってしまうのです」
「その話のどこがダメだというのだ」
「先ほどの私の反応を見ましたよね」
「あぁ」
「アカデミーでも同じような反応をする人がいない、とは限りません。だから……」
見る人が見れば評価をし、さらに製作者を探すことだろう。
しかも、アカデミーに在籍している生徒ならともかく、教授たちに目をつけられたら最後。見つけるまで諦めないだろう。
そしたら私に拒否権などなく、ルシア様の名前を出す。ディアス公爵邸に教授たちが行き、迷惑をかける。そんな未来が容易に想像できた。
「なるほど……確かに面倒事になりそうだな」
「はい。遅かれ早かれ、いずれはそうなるかと思います」
説明をし終えると、納得がいったような。しかし、腑に落ちない様子だった。
もしかすると、ディアス公爵邸観光ツアーが早々に終えたのは、そんな理由だったのかもしれない。病弱はともかく、ルシア様は噂通り、我が儘だったから。聞いていた程ではないけれど。
そして現在、私たちは裏庭にあるベンチに腰を掛けていた。
綺麗に刈られた芝生。背の低い生け垣に小さな花壇。自室から見えた庭園ほどではなかったが、手入れが行き届いていた。
建物に沿うように植えられている樹木。昨夜は遅くて分からなかったが、ディアス公爵邸は首都にありながら、緑が多かった。いや、囲まれていると言っても過言ではない。
おそらくこれは、目隠しのためなのだろう。王族に次ぐ地位を持つ、ディアス公爵家。立場ばかりか、命を狙われてもおかしくはないのだ。爵位が高ければ高いほど。そして財力が多ければ多いほど、無駄に広い敷地を有していると思っていたが、そんな理由もあるのだろう。
そんなことを思いながら、目の前にある建物を見上げる。昨夜、久しぶりに木登りをしたせいか、自然とそちらにも視線が移った。
あの木は登り易そう。枝がちょうど真横に伸びて、座るにはピッタリ。ん? ピッタリ……?
さらに視線を建物に向けると、窓が見えた。下からでは中の様子までは分からない。けれど、見覚えのある場所。窓の形。カーテンの色。
ま、まさか。
私は思わず、少しだけ横にずれた。
「アニタ、どこへ行く? 授業はこれからだぞ」
冷ややかな視線で声をかけるルシア様に、私の顔は真っ青になった。
一応、案内らしい出来事はあった。といっても、私が物凄く高そうな壺を見つけたため、足を止めただけのことなのだ。
「どうした、今度はそれに興味があるのか?」
「違います! 壊してしまったら、どうしようかと思っただけです!」
そう、壺というのは元々壊れやすい。それなのにも拘らず、その壺は下にいくに連れて細くなっているではないか。ここで大声を出したら、振動で倒れてしまう、と思えるほどに。
そしてこういうのにはお約束がある。私が壺を割ってしまい、多額のお金を支払う羽目になるのだ。幸いにも、弁償するお金が払えずにただ働きをさせられる、という物語の主人公のような目に遭うことはないだろう。
なにせコルテス男爵家は成金。養父が一代で築き上げてきたのだ。支払えない金額ではないだろう。けれどその後は……アカデミーを辞めさせられる可能性がある、というだけのこと。
それはダメ! 絶対にダメよ! そんな未来は絶対に阻止しなくては!
私は咄嗟に手で口を塞ぐと、ルシア様は呆れた表情でその手も取った。
「気にするな。壊れたら、また新しいのを置けばいいだけのことだ」
「その理屈は分かりますが、一点物だったらどうするのですか。見るからに高そうですよ。弁償は……できますが、その後が怖いのでご遠慮させていただきたく……」
「……これは、そんな大層な物ではない」
「いえいえ、よく見てください。このタッチは、スティナー朝時代に流行った模様に似ていませんか? 色合いも綺麗ですし。特にこの紫色がいい味を出しています」
思わず熱弁を振るうと、ルシア様はため息を吐きながら、片手で顔を覆った。
「一流作家の作品と変わらぬ評価をするな。これはお……ではなく、私が作った物だ。ちょうどいいと父上が置いたに過ぎない」
「……ルシア様にそのような才能が! そちらの方面に進まれないのですか?」
「……アニタ。自分の立場を忘れていないか。私はこれでも……王子の婚約者候補だぞ、まだ」
「だからこそです。一つでも秀でたものがあれば、候補ではなく婚約者に一歩近づけると思います」
別にルシア様の取り巻きではないが、私は称賛するように言った。
元々おべっかを使うタイプではなかったから、変に思われたのだろう。ルシア様の表情は、晴れるどころか怪訝になった。
「……そうだな。しかし、アニタが気に入ったのなら……あげてもいい」
「えっ!? そんな、滅相もないです」
「何故だ?」
「それは、その……私の住まいが、ですね。一応コルテス男爵邸なのですが、アカデミーにほぼ移してしまっている状態なため……」
だからなんだ、とばかりにルシア様に睨まれた。
「つまり何が言いたいのか、といいますと、ルシア様の作品を受け取ることイコール、アカデミーに持って行くことになってしまうのです」
「その話のどこがダメだというのだ」
「先ほどの私の反応を見ましたよね」
「あぁ」
「アカデミーでも同じような反応をする人がいない、とは限りません。だから……」
見る人が見れば評価をし、さらに製作者を探すことだろう。
しかも、アカデミーに在籍している生徒ならともかく、教授たちに目をつけられたら最後。見つけるまで諦めないだろう。
そしたら私に拒否権などなく、ルシア様の名前を出す。ディアス公爵邸に教授たちが行き、迷惑をかける。そんな未来が容易に想像できた。
「なるほど……確かに面倒事になりそうだな」
「はい。遅かれ早かれ、いずれはそうなるかと思います」
説明をし終えると、納得がいったような。しかし、腑に落ちない様子だった。
もしかすると、ディアス公爵邸観光ツアーが早々に終えたのは、そんな理由だったのかもしれない。病弱はともかく、ルシア様は噂通り、我が儘だったから。聞いていた程ではないけれど。
そして現在、私たちは裏庭にあるベンチに腰を掛けていた。
綺麗に刈られた芝生。背の低い生け垣に小さな花壇。自室から見えた庭園ほどではなかったが、手入れが行き届いていた。
建物に沿うように植えられている樹木。昨夜は遅くて分からなかったが、ディアス公爵邸は首都にありながら、緑が多かった。いや、囲まれていると言っても過言ではない。
おそらくこれは、目隠しのためなのだろう。王族に次ぐ地位を持つ、ディアス公爵家。立場ばかりか、命を狙われてもおかしくはないのだ。爵位が高ければ高いほど。そして財力が多ければ多いほど、無駄に広い敷地を有していると思っていたが、そんな理由もあるのだろう。
そんなことを思いながら、目の前にある建物を見上げる。昨夜、久しぶりに木登りをしたせいか、自然とそちらにも視線が移った。
あの木は登り易そう。枝がちょうど真横に伸びて、座るにはピッタリ。ん? ピッタリ……?
さらに視線を建物に向けると、窓が見えた。下からでは中の様子までは分からない。けれど、見覚えのある場所。窓の形。カーテンの色。
ま、まさか。
私は思わず、少しだけ横にずれた。
「アニタ、どこへ行く? 授業はこれからだぞ」
冷ややかな視線で声をかけるルシア様に、私の顔は真っ青になった。
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