病弱な公爵令嬢(?)の家庭教師~その正体は?~

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中

文字の大きさ
30 / 35
第2章 アカデミー編

第30話 理想と現実

しおりを挟む
 渡り鳥のように春の到来を知らせる、強風。芽吹いたばかりの新緑は、負けるか! とばかりに枝から離れようとしない。
 まるでその姿は、アカデミーに居続けたいと願う私のようだと思った。

「アニタ。何を見ているの? そこからじゃ、新入生の姿は見えないわよ」

 わざわざ私の肩に頭を置いて、外を覗くリノ。窓が小さいから、というのは分かるがやめて欲しい。
 何故なら、艶やかな彼女の黒髪が、私の首にもかかるのだ。これが男ならドキッとしてしまうが、残念ながら私は女で、そんな気はない。
 それほどに、悪友ことリノ・イグレシアスは見目麗しい女性だった。

「新入生を見るために、窓の外を見ているわけじゃないからいいの」
「ふ~ん。そんなことを言って、今年の新入生のことが気になるくせに~」

 私は体をひねり、リノを引き剥がした。

「新任の教授が生徒を気にするのは当たり前でしょう」

 そう、私たちは今年、晴れてアカデミーの教授になったのだ。それも卒業と同時に。二人一緒という、これまた異例の事態が起きたのには訳がある。

「まぁね。何せ新入生の中に、私たちのパトロンがいらっしゃるのだから」
「リノ。せめて、支援とか後ろ盾とか。言葉を選んで。あと、それはザカリー様ではなく、ディアス公爵様よ」

 一年前、私とリノは、ディアス公爵邸でルシア様の家庭教師をしていた。そのご縁もあって、口添えしてもらえた、というわけなのである。

「まぁ! アニタったら細かいんだから。ここには私たちしかいないのよ! 言葉を着飾る必要なんてあるの?」

 学生時代の私とリノは、寮が同室だったけれど、卒業した今は違う。はずだったのだが、研究室……謂わば教授として宛がわれた部屋が一緒なのだ。

 色々と配慮されてのことなのは分かるけど……。

「だからこそ、言葉には気をつけるべきだとは思わないの? 私たち、アカデミー内で浮いているのよ」
「まぁね。この研究室だって、私たち二人が使うには、勿体ないくらい広~いし~」

 そう言いながら、私から離れるようにくるくると後方へ回る。憎たらしいほど、スカートを綺麗に広げて。

「しかも、ここで歌っても支障がないくらい、周りの研究室には誰もいな~い」
「避けられている。もしくは腫れ物扱いだって言って」

 それはもう見事に。お陰でリノのワンマンショーを聞かされる日々である。
 彼女は詩興しきょうの魔女なだけあって、歌うのが好き。しかも上手い! だから聞いていて飽きることは……あるわよ! 毎日毎日聞いていればそれくらい!

 一応、その歌に魔法を乗せることはしないから、室内は勿論のこと、室外にも影響はないけれど。

「ん~もう! 後ろ向きなんだから! 折角、教授になれて、アカデミーに残ることができたのよ。もっと喜ばないと!」
「私はリノほど能天気な性格じゃないの!」

 これはもう、私が思い描いていた教授生活とは雲泥の差だった。
 そう、悪友であるリノから解放された私は、同室の先生に指導を受けて、教鞭を振るい、ゆくゆくは研究に没頭するという……。

 けれどこれは序章に過ぎず、私の教授生活はどんどん理想からかけ離れて行くことになる。が、この時の私が知る由もなかった。

 星読みの魔女などと大層な通り名を持っているのに。星は何一つ教えてくれない。

 当然だ。星たちが導くのは魔女本人ではないのだから。私はただそれを代弁する。
 必要な人に、必要な言葉を。夜空に輝く満天の星たちの声を、ただ届けるだけの魔女。それが星読みの魔女なのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

処理中です...