35 / 35
第2章 アカデミー編
第35話 伏兵の存在(ザカリー視点)
しおりを挟む
「失礼しました」
研究室を出て、そのまま廊下を真っ直ぐ歩く。
歩調はいつも通りだったと思う。が、顔は物凄く深刻に見えただろう。
何せ、心境がそうなのだから。
「まさか、伏兵が沢山いたとは……」
やっぱりアカデミーに来て良かった。そう思わざるを得なかった。
「でも、あれはやり過ぎたような気がする」
いくらルシアに薦められたからといって、イエローダイヤモンドは……。
恐らく、石言葉にも気づいただろう。
「それに色も」
『お兄様はもっとアプローチすべきです! そうしないと気づいてもらえませんよ!』
ルシアの言葉が脳裏を過ぎる。会えない日々が、幼稚な独占欲を肥大させた。
さらに自分ではない、誰かからのプレゼントに頬を緩ます姿にも。
だからアピールしてしまった。中の宝石がイエローダイヤモンドであることを。少しでも自分の気持ちに気づいてほしくて。
「ルシアがここにいたら、叱咤するんだろうな」
『何を弱気なことをいうんですか!』と。
長年患っていたレルシィ病が治ると、ルシアはメキメキと元気になり、今では俺を含めた邸宅の皆がタジタジになった。
それは俺が作り出した我が儘な公爵令嬢ではない。邸宅を牛耳る女王様と化したのだ。
「アニタがそれを見たら、どう思うだろうか」
失望? 幻滅?
いや、どれも違う。アニタはルシアが好きだから。
「あぁ、早く連れて帰りたいな」
今のルシアを見せたいから? いや、違う。また、邸宅で共に過ごしたいのだ。
そんな淡い気持ちに浸りながら、寮にある自室に向かった。
***
アニタの言う通り、アカデミーは平等を謳っているが、それは表向き。当然、それは長年アカデミーに在籍し、且つ、教授となったアニタも分かっているのだろう。
何せ寮は、裏を象徴する場所だったからだ。
アカデミーはほぼ全寮制だ。それはある意味、社会の縮図を意味していた。
「おかえり。意外と早かったんだね」
同室のロナルド・クレイマン侯爵令息が、奥からわざわざやってきた。
自由時間になった途端、外に出たのが気になったらしい。余韻が、行き先を尋ねている。
「父上の用事を済ませてきただけだからな」
無視することもできたが、要らぬ詮索はされたくはない。
逆に先手を取れば、相手の返答も予測できた。
「な~んだ、つまらない」
「つまらないとは失礼だな。家長の機嫌は取っておくものだろう?」
「まぁね。良くも悪くも、従っておくに越したことはないよ」
そういうなり、ロナルドは両腕を頭の後ろにやって、再び奥に戻って行った。
まるで興味のあることにしか首を突っ込まない、猫のような男である。
公爵家ともなれば、同室ではなく個室を選ぶことができる。が、敢えてそうしなかったのは、アニタとの話題作りだった。
ずっとリノと同室だったアニタは、よくその話をルシアにしていたのだ。
『ですから、不便かと思いますが、どなたかと同室することをオススメしますわ!』
ルシアの助言を聞き入れた俺は、公爵令息でありながら、ロナルド・クレイマン侯爵令息と同じ部屋を使うことになったのだ。
そんなロナルドと初めて会ったのは二週間前。
入寮自体は入学式の一カ月前からできるのだか、ルシアに駄々を捏ねられて遅くなった。
『一人だけ、いち早くアニーに会いに行くなんて薄情です!』
どこで覚えたのか、そんな意味の分からない小芝居までして、非難してきたのだ。
そもそもルシアは、アカデミーを受験していないだろうに。しかも、入寮したからといって、一教授であり、さらに新任教授に会いに行けると思っているのがおかしい。
「入学式を終えたから行けたというのに……」
そう、ロナルドに言ったように、父上からの就任祝いを渡す名目があってこそだった。
アニタとリノは父上の推薦によって教授になれたのだ。ルシアの家庭教師では、アカデミーでの接点は弱い。が、推薦は他の教授たちの目があっても容認できるくらい、強い接点だった。
「それでもまだまだ遠い……」
後輩、就任祝い、『ベスネープショコラトリー』
「ルシアの言う通り、もっとアプローチするべきだろうな」
あの赤い紙袋を思い浮かべながら、そう決心した。
研究室を出て、そのまま廊下を真っ直ぐ歩く。
歩調はいつも通りだったと思う。が、顔は物凄く深刻に見えただろう。
何せ、心境がそうなのだから。
「まさか、伏兵が沢山いたとは……」
やっぱりアカデミーに来て良かった。そう思わざるを得なかった。
「でも、あれはやり過ぎたような気がする」
いくらルシアに薦められたからといって、イエローダイヤモンドは……。
恐らく、石言葉にも気づいただろう。
「それに色も」
『お兄様はもっとアプローチすべきです! そうしないと気づいてもらえませんよ!』
ルシアの言葉が脳裏を過ぎる。会えない日々が、幼稚な独占欲を肥大させた。
さらに自分ではない、誰かからのプレゼントに頬を緩ます姿にも。
だからアピールしてしまった。中の宝石がイエローダイヤモンドであることを。少しでも自分の気持ちに気づいてほしくて。
「ルシアがここにいたら、叱咤するんだろうな」
『何を弱気なことをいうんですか!』と。
長年患っていたレルシィ病が治ると、ルシアはメキメキと元気になり、今では俺を含めた邸宅の皆がタジタジになった。
それは俺が作り出した我が儘な公爵令嬢ではない。邸宅を牛耳る女王様と化したのだ。
「アニタがそれを見たら、どう思うだろうか」
失望? 幻滅?
いや、どれも違う。アニタはルシアが好きだから。
「あぁ、早く連れて帰りたいな」
今のルシアを見せたいから? いや、違う。また、邸宅で共に過ごしたいのだ。
そんな淡い気持ちに浸りながら、寮にある自室に向かった。
***
アニタの言う通り、アカデミーは平等を謳っているが、それは表向き。当然、それは長年アカデミーに在籍し、且つ、教授となったアニタも分かっているのだろう。
何せ寮は、裏を象徴する場所だったからだ。
アカデミーはほぼ全寮制だ。それはある意味、社会の縮図を意味していた。
「おかえり。意外と早かったんだね」
同室のロナルド・クレイマン侯爵令息が、奥からわざわざやってきた。
自由時間になった途端、外に出たのが気になったらしい。余韻が、行き先を尋ねている。
「父上の用事を済ませてきただけだからな」
無視することもできたが、要らぬ詮索はされたくはない。
逆に先手を取れば、相手の返答も予測できた。
「な~んだ、つまらない」
「つまらないとは失礼だな。家長の機嫌は取っておくものだろう?」
「まぁね。良くも悪くも、従っておくに越したことはないよ」
そういうなり、ロナルドは両腕を頭の後ろにやって、再び奥に戻って行った。
まるで興味のあることにしか首を突っ込まない、猫のような男である。
公爵家ともなれば、同室ではなく個室を選ぶことができる。が、敢えてそうしなかったのは、アニタとの話題作りだった。
ずっとリノと同室だったアニタは、よくその話をルシアにしていたのだ。
『ですから、不便かと思いますが、どなたかと同室することをオススメしますわ!』
ルシアの助言を聞き入れた俺は、公爵令息でありながら、ロナルド・クレイマン侯爵令息と同じ部屋を使うことになったのだ。
そんなロナルドと初めて会ったのは二週間前。
入寮自体は入学式の一カ月前からできるのだか、ルシアに駄々を捏ねられて遅くなった。
『一人だけ、いち早くアニーに会いに行くなんて薄情です!』
どこで覚えたのか、そんな意味の分からない小芝居までして、非難してきたのだ。
そもそもルシアは、アカデミーを受験していないだろうに。しかも、入寮したからといって、一教授であり、さらに新任教授に会いに行けると思っているのがおかしい。
「入学式を終えたから行けたというのに……」
そう、ロナルドに言ったように、父上からの就任祝いを渡す名目があってこそだった。
アニタとリノは父上の推薦によって教授になれたのだ。ルシアの家庭教師では、アカデミーでの接点は弱い。が、推薦は他の教授たちの目があっても容認できるくらい、強い接点だった。
「それでもまだまだ遠い……」
後輩、就任祝い、『ベスネープショコラトリー』
「ルシアの言う通り、もっとアプローチするべきだろうな」
あの赤い紙袋を思い浮かべながら、そう決心した。
11
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言
夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので……
短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
このお話は小説家になろう様にも掲載しています。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
第一章、別れの瞬間から二人の今後に期待大だったのですが、第二章早々に二人が距離感測ろうと必死になっているような😏
教授と生徒でもある二人、歳の差は良きですね( *´艸`)フフフ
柊さん、感想ありがとうございます!
第一章はアニタの役目も終えましたので、そこに留まる理由や引き留められるほどの力がなかったため、お別れとなりました(;´・ω・)
色々と秘密にしていたのが、最大の理由ですね(n*´ω`*n)
雇用主は父親であるディアス公爵であって、『彼』ではないので💦
ともあれ、必死に追いかけた結果が第二章の始まりになります。
『彼』の頑張りに応えたいアニタと、そんなアニタに振り向いてもらいたい『彼』です(*´艸`)
立場、歳の差など……温かく見守っていただければと思います。