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吉原、さかな臭い娘(十一話)

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 春は桜、桜は女、女は吉原って相場は決まってらあの。オラはこのごろ、魚ばっか飯のおかずにしてるのう。魚、魚と歩いて行くと、五軒目の置屋にボラに似た娘がいよる。じゃ、今日は雑魚でも喰うべかと、店に入ったんじゃ。そんで、寝床での魚談義がのう……

 オラ 「おめさんは、ボラに似た面しとる」
 安房娘「ああ、よう言われるよって」
 オラ 「ボラは臭うすけ、あれは雑魚みてでの。おめさんも、ボラ臭いぞ」
 安房娘「あいやー、ボラは雑魚じゃねえっぺ。アテんとこじゃ、ええ魚だべ。アテんかっちゃんは、安房で海女やってるけんな。こん体は、そうだいねぇ、魚で出来ちょるんや」
 オラ 「そうかそうか、オラも魚好きでの、ホッケで出来たようなもんだて」
 安房娘「いくらボラに似てたって、あっちんほうは可愛いいツボ貝じゃってほめられっぺ。あんな、アテな、おかしなこつゆうだども、男の股下んもんが魚に見えよるんよ。いままで、いろんなの見て来たべ。安房ん海と同じだっぺ。サメ、フグ、アンコウ、ブダイ、アナゴ、ゴンズイ……」
 オラ 「じゃあ、オラんのは、どげな魚に見える?」
 安房娘「おめぇーんは、イワシだっぺ」
 オラ 「イワシっ、おいおい、もちっと大きいじゃろうよ」
 安房娘「うんにゃ、アテがいっつも喰ってるぐれえだべ。だども、よう見んと一回りでけえの。アテのツボ貝が、腹いっぺえになんにはこれぐれえがええ」
 オラ 「だろ。丸呑みにしてくれっかよ?」
 安房娘「ああ、アテには海女の血が流れとるべ、どげな魚でも呑みこんだっぺ。アテんの、ぼっこすほど、くらっしぇえ。はよ、やんべぇよー」
 オラ 「ええこつ言うのう。オラのイワシとやらを、味わってのう」
 安房娘「こん生業は、魚喰い放題じゃ、がははははっは……」



 おいおい、あんツボ貝は、ちっちゃいのに凄かったのう。
 オラは丸呑みんされ、とろとろにされたわ。女の貝は、底なしよのう。
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