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吉原、鉄火姉御(三十三話)

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 江戸っ子はうるさいわな、べらんめえ調も、耳んひびくわの。また、下町ん女は、きっぷがええのが多い。さっぱりしとるというか、男勝りいうか、鉄火というんかいの。こん吉原は、ちゃきちゃきの江戸娘がごまんとおる。よし、今夜は、鉄火姉御と勝負したるか。なじみん牛太郎に聞いたろ。あいは詳しいわな。

 オラ 「牛ちゃん、築地名物の鉄火丼じゃのうて、こん吉原の鉄火姉御喰いてえて」
 牛太郎「威勢のええ女だんべ。マキだ。そうとう勝気やで。手も飛ぶかもしんねって」
 オラ 「何? 下手すんと、ピンタ喰らうってこつかや。まあ、オラん刀でとどめさしたるわな、どこん置屋や?」
 牛太郎「なんあ、ずーと先に茶屋あるっぺ、そっからまた、七軒目だ」
 オラ 「ずいぶんと先やな、勝気女のよがりもええ、よし、そこや。どうもな、牛ちゃん、ほい、駄賃や」
 牛太郎「兄ヤン、まいどどうも」

 さてと、道中の女衆見ながら、向かいまっか。
 ああ、こん店ん女もええわ。あら、あん店では、別嬪がキセル吸うとるわ。おや、二階から赤襦袢たらしとる女もいる、すごい誘いやの。まあ、そんうち、たいあげるとして、今夜ん女は鉄火姉御や。
 ……はあ、やっと着いたわ。あいかな、キツネ目の怖そな女やな。取って喰われそうやな。

 オラ「牛太郎から聞いたんだども、あんたがマキさんかえ?」
 マキ「ああ、そだよ。あんた、朝までかい? 寝れんでもしれんぞい」
 オラ「何?オラんこつ寝かせんほど腰ふるってか、願ったりや。そいわええ、夕飯はマグロやったから、力たっぷりや」
 マキ「ほな、上がり、二階の隅ん部屋で待っとれな」

 さっき、鉄火丼やったから、ちょうどええわいな。ああいう細見な女は、軽いすけ、いろんな技が試せるの。子壺こわれても知らんぜよ。

 マキ「おまっと、アイの体、早くあっためてんか。男ん肌とこすれてねえと、まいんね。つよう抱いてな」
 オラ「おまんは、男勝りじゃから、男ん気持ちが良くわかんだろう?」
 マキ「アイがもし、男ん生まれてれば、娘っ子から年増まで遊ぶわな。男ん気持ちわかるで、女をおもちゃにしたいんよな。こん世で、女ん体ほどええ遊び道具はねえからの」
 オラ「んだな、まっくそんとおりや。オラんやりてえこつ、全部やるでよ。オラは特に、松葉くずしが好きなんじゃ。おまん、細見やけん、子壺にもろにくっけど、ええんけ?」
 マキ「アテは子供作らんけん、気にせんと、好きにしたれ。こわれるぐれえが、ええんや。朝まで、兄さんもんやで」
 オラ「そん心がけや、良し。もし、オラが女に生まれてれば、同じなり。ほんに、すけべ女に勝るものは無しってか」
 マキ「ただの、アテより先に極楽いったら、ピンタやよ。せっかく吉原来て、朝までかかっても単発が多くて、困っとるんや。アテらだって、憂さ晴らしで極楽いきたいんよ。兄さん、ええかや、がまんがまんしてくれいな、そんで一緒にいこうな」
 オラ「オラなら、大丈夫じゃで。コリコリん方が心配じゃ」
 マキ「こわれてもええで。こわしてのー」



 こわしてもええってさ。
 鉄火姉御だけあって、そんじょそこらにないもん、もっちょたわ。
 こっちは、刃こぼれ覚悟で、向かったのによ。かなわんわい。
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