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潮来、あやめ舟(四十一話)
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さてさて、後ろ髪引かれる思いで、潮来を後にすんど。しかしの、常陸の色里は、イモっぽいのと、面ごとすけべ女だけかいの。そもそも、こん桃源郷には、綺麗どころはいねいんでねえけ。潮来に来たとき乗った、あやめ舟の女船頭は綺麗じゃったわ。あん女に、もう一度会いてえの。まさに、あやめのような、ええ女よ。また水郷の十二橋めぐり、それして帰ろっと。
オラ 「姉さん、オラのこつ憶えてっけ?」
あやめ姉「ああ、こん前、アイの舟に乗ってくれたの。そん時、じろじろ見てたな。にやにやしてただよ」
オラ 「綺麗だすけ、見とれてたんや。ほんに、ええ女よの。オラは花ではの、あやめ、ゆり、すみれが好きだて。姉さんのこつ、あやめ姉と呼ばせてくんしょ」
あやめ姉「あやめ舟漕いどる、あやめ姉かいな、ええで。あんさんは、あやめと、菖蒲の違いわかるんけ?」
オラ 「似てるの。やっぱ、あやめの方が品があるの」
あやめ姉「そうかいな。ほな、客はあんさん一人や、舟だすで」
潮来は水郷だらけじゃて、小舟が足がわりでわんさと出てる。橋も多い。十二橋めぐりが人気があるて。物見遊山やの。ええ女の舟、オラん貸し切りやんけ。
オラ 「あやめ姉や、こんげに綺麗だと、男が寄って来て大変だの」
あやめ姉「ふふっ、男はみんな下心があるよってな、見え見えや」
オラ 「大当たりや。男はしょうがねえの。性分やで。今まで、好いた男とは、どげなじゃったんや?」
あやめ姉「ああ、お互い好き同士での、結婚すんと思っとったんやけんどな。あん人の親がの、アイよりも銭のある家の娘に決めたんや。二人して、泣く泣く別れたんやで」
オラ 「そうかいや、親の都合かいの。こいも定めなんやろな」
あやめ姉「だけん今は、心うつつで、ゆらゆらとあやめ舟漕いどるんやで」
オラ 「ええ女やけん。もっともっと御縁があるわいな」
あやめ姉「あんさんや、あん橋の所がアイの家や。ちょっと寄っていかんけ?」
オラ 「ほな、お茶もらおうかい」
あやめ姉は、質素な暮らしをしとるのう。嫁ぎ時だというんに、前の男の影見とるんやな。忘れるこつが出来ねえんや。何かええ手はねえかいな。
あやめ姉「さあ、あがっとくれ。みんな出てるよって、気にせんといて。なんか、あんさんは、ただの女好きじゃねえの、女の味方みてえや」
オラ 「女の味方?いや何も、ただ、女が大好きなだけなんやけんど」
あやめ姉「だからよ、そいがええんじゃて。女の身も心も好きでねえてどげなする。並外れた女好きだけん、女の味方になれるんや、あんさんはなれるって。ただの、若いけん、女ん体に無中なんのはええ、そんでええ。そんうちにはな、面の違い、心の違いを知るんやで。まあ今は、あんさんは女ん体の違いを、とことん知るんや」
オラ 「女を知るには体からってこつやな。すべて知ったら、救う道かいな」
あやめ姉「そんうちに、わかるよってな。なあ、一時でええ、何もかも忘れさせてんか? アイは舟漕いどるけん、棹操るんうまいで。あん仕事やっとると腰が強くなるは、あんさんの上で漕ぎたいわ。舟の上で漕ぐんと、男ん上で漕ぐんと、なんか似とるんやな。しずしずから、ゆらゆら、くるくるからぐるぐる、そんで、ざぶーんとな」
オラ 「そんで行こう。オラん上で、好きに漕いでけろ。まかせるよって。前の男んこつ、何もかも忘れて、一心不乱にの……」
ああ、潮来を離れる時に、やっと綺麗どころと御縁を結ぶこつが出来申した。
こんで後顧の憂いなく、常陸の桃源郷を後に出来るて。
あやめ姉は、ほんのこつ、あやめような品のある、ええ女やったわ。
オラ 「姉さん、オラのこつ憶えてっけ?」
あやめ姉「ああ、こん前、アイの舟に乗ってくれたの。そん時、じろじろ見てたな。にやにやしてただよ」
オラ 「綺麗だすけ、見とれてたんや。ほんに、ええ女よの。オラは花ではの、あやめ、ゆり、すみれが好きだて。姉さんのこつ、あやめ姉と呼ばせてくんしょ」
あやめ姉「あやめ舟漕いどる、あやめ姉かいな、ええで。あんさんは、あやめと、菖蒲の違いわかるんけ?」
オラ 「似てるの。やっぱ、あやめの方が品があるの」
あやめ姉「そうかいな。ほな、客はあんさん一人や、舟だすで」
潮来は水郷だらけじゃて、小舟が足がわりでわんさと出てる。橋も多い。十二橋めぐりが人気があるて。物見遊山やの。ええ女の舟、オラん貸し切りやんけ。
オラ 「あやめ姉や、こんげに綺麗だと、男が寄って来て大変だの」
あやめ姉「ふふっ、男はみんな下心があるよってな、見え見えや」
オラ 「大当たりや。男はしょうがねえの。性分やで。今まで、好いた男とは、どげなじゃったんや?」
あやめ姉「ああ、お互い好き同士での、結婚すんと思っとったんやけんどな。あん人の親がの、アイよりも銭のある家の娘に決めたんや。二人して、泣く泣く別れたんやで」
オラ 「そうかいや、親の都合かいの。こいも定めなんやろな」
あやめ姉「だけん今は、心うつつで、ゆらゆらとあやめ舟漕いどるんやで」
オラ 「ええ女やけん。もっともっと御縁があるわいな」
あやめ姉「あんさんや、あん橋の所がアイの家や。ちょっと寄っていかんけ?」
オラ 「ほな、お茶もらおうかい」
あやめ姉は、質素な暮らしをしとるのう。嫁ぎ時だというんに、前の男の影見とるんやな。忘れるこつが出来ねえんや。何かええ手はねえかいな。
あやめ姉「さあ、あがっとくれ。みんな出てるよって、気にせんといて。なんか、あんさんは、ただの女好きじゃねえの、女の味方みてえや」
オラ 「女の味方?いや何も、ただ、女が大好きなだけなんやけんど」
あやめ姉「だからよ、そいがええんじゃて。女の身も心も好きでねえてどげなする。並外れた女好きだけん、女の味方になれるんや、あんさんはなれるって。ただの、若いけん、女ん体に無中なんのはええ、そんでええ。そんうちにはな、面の違い、心の違いを知るんやで。まあ今は、あんさんは女ん体の違いを、とことん知るんや」
オラ 「女を知るには体からってこつやな。すべて知ったら、救う道かいな」
あやめ姉「そんうちに、わかるよってな。なあ、一時でええ、何もかも忘れさせてんか? アイは舟漕いどるけん、棹操るんうまいで。あん仕事やっとると腰が強くなるは、あんさんの上で漕ぎたいわ。舟の上で漕ぐんと、男ん上で漕ぐんと、なんか似とるんやな。しずしずから、ゆらゆら、くるくるからぐるぐる、そんで、ざぶーんとな」
オラ 「そんで行こう。オラん上で、好きに漕いでけろ。まかせるよって。前の男んこつ、何もかも忘れて、一心不乱にの……」
ああ、潮来を離れる時に、やっと綺麗どころと御縁を結ぶこつが出来申した。
こんで後顧の憂いなく、常陸の桃源郷を後に出来るて。
あやめ姉は、ほんのこつ、あやめような品のある、ええ女やったわ。
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