上 下
61 / 101

品川宿、飯盛女(六十一話)

しおりを挟む
 飛脚ん仕事で、旅籠の泊まりん客まで、文を届けねばだ。入口んとこで、そん宿の飯盛女が呼び込みやってるのう。中には、力ずくで腕持って、宿に引っ張り込んでんもいる。ああやって、手前ん客んして、宿の案内、飯の上げ膳据え膳だて。そんで、あわよくば床の相手までして銭稼いどる。
 オラはそんな女衆をどけて、届けねばなんねて。なかなか激しく引っ張っとるんもいるぞい。そん中に、仕事で来とるオラにも声掛けてくる飯盛女もいる……

 飯盛女「今日はあんまこと、泊まり客来ないけんな、お前、上がらんか?」
 オラ 「おいおい仕事の身だて、オラん長屋は深川だすけ、何も泊まらんでも」
 飯盛女「旅人になったつもりで泊まれ、アテが飯ん世話や、床ん相手すんで」
 オラ 「あんたらは、旅ん男をしこたま咥えてるやろ、使い込み過ぎやでな」
 飯盛女「そりゃ、飯ん後は風呂で背中流したりして、そん流れで床ん中や。旅ん男はのう、みんな女に飢えてるぞい、飯ん前にのっかってくんのもおる。またの、飯ん間は何とか我慢して、そん後の風呂ん時に暴れんもいるで」
 オラ 「ああ、気持ちはようわかるわい。飯、風呂より、女ってもんやな。旅籠やから、国中の男ども相手しとると、お国によって抱き方違うけ?」
 飯盛女「阿保んだら、男はみんな猪突猛進や。股壊れるぐれえにな。お前、上がるんかや、上がらんかや?」
 オラ 「そやな、荒らされてん土手に、お念仏しよかいのう」
 飯盛女「馬鹿たれ、そいじゃのうて、鍛えられてんアテん土手で極楽いけ。上がれ。飯、風呂抜きで、床枕したるわい」
 オラ 「ほな、上がりますけん」

 品川の宿場は、力も股も強か飯盛女が大勢おる。客あしらいは手慣れたもんでよ。痒いとこ、よう知っておるんやけんな。なんか、勢いに押されて、宿ん中へ入ってしもうたわ。

 飯盛女「お前は旅人じゃねえから、すぐ布団敷く、そんでええな?」
 オラ 「仕事ん帰りだすけ、そうそうに帰るわいな」
 飯盛女「こん野郎、朝までいろ。そん分銭出せば、朝までかけて空っぽにしたるわ。そんで一番鳥が鳴くころ、出がらしの空砲ぶってから帰れ。アテらはのう、国中の男に仕込まれとるんや、半端は許さんでな」
 オラ 「あのう、お手柔らかにお願いしますけん、何とぞ……」
 飯盛女「お前ん玉袋、空っぽんしたる。そんかわりアテに潮吹かせてな」
 オラ 「はあ、なんとかしたいとは、思うけんど、ちと、どうか」
 飯盛女「こらっ、朝んなっても帰さんぞ。ちょん切るぞ」
 オラ 「はいはい、がんばるわーい」



 へとへと、空っぽんなって朝迎えた。
 あん飯盛女は、手前で汚した布団干しに行った。
 オラまで汚されたんで、長屋に帰ったら、さっそく風呂入んねばだて。
 空っぽんされたんはええが、えろう喰らったわい。
しおりを挟む

処理中です...