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相模の国へ、初女仕入れの旅 宿場の巻(七十八話)

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 東海道五十三次、ここは日本橋から数えて九番目の小田原宿じゃ。かつては関八州を統一した後北条氏の城下町、たいそう賑わっておる。江戸からは二十里ほど、平塚、大磯と相模ん海が広かのう。東からの旅人は次の箱根越えを控えて、ここで泊まる。西からは、やっと山越えをして来て、関東の入り口で泊まる。旅籠、飯盛り旅籠は百近くとあるそんだ。よって、飯盛り女がうようよとおる。こん前の甲州街道の旅とは大違いじゃ、女とかまぼこには困らねえ。
 きのうは、さびれた漁村でタマゆうおぼこ娘を仕入れ、旅籠に泊めてある。今日は、飯盛り旅籠に遊びに入って、江戸行きの話に乗って来た女をあたるわい。よし、女仕入れ二人目は飯盛り女や。

 あれあれ、街道を挟んで、留女が力ずくで客の取り合いをしとる。えろう体格のでか女がおる、荷物は引っ張るわ、腕つかんだら離さんでな。あげな留女は怪力で客を上げ、夜はすけべ女になって、そんで客をくたくたにさせるんや。客は大悦び、留女かねる飯盛り女も極楽行き、宿も繁盛ときた、ええとこ尽くしや。

 オラ  「おいおい、そんげに引っ張らんでくれて、オラ宿にもう泊まってらんだて」
 飯盛り女「じゃあなんだ、チョンの間遊びしとけ、ワラが相手したる」
 オラ  「こん宿場をぐるっと見て、ええ女を探しとるんや」
 飯盛り女「探すって、遊びなんやから、男は何発もぶったらええ」
 オラ  「いや、遊びのようで違うんや、生業が生業でのう、訳ありや。だすけ、何発もでのうて、こいはと目付けた女に口説きの一発するん」
 飯盛り女「ははっー、お前なあ、すけべ汁ん出し惜しみしとるんやなあ」
 オラ  「そうでのうて、阿漕な商売を大真面目にやっとるんじゃ」
 飯盛り女「ええから上がれ、ワラが朝までかけて空っぽんしたる。そん後で、おまえの訳あり話聞いたるわい、来いや」
 オラ  「わかったすけ、そんな引っ張るなて……」

 でか女に部屋に連れ込まれたけんど、まじめ旅籠に小娘を待たせてある。ここには泊まらんで、チョンの間でおさえんとのう。小田原宿の飯盛り旅籠を何軒か入って、江戸行きの話すんのが大事じゃ。よって、一人一発や。前みてえに連発でのうて、こいは仕事や。

 オラ  「さっき言ったども、泊まっとる旅籠がある。戻るでな」
 飯盛り女「そうかえ、ワラんやわ肉でもっと遊ばんでええんかえ?」
 オラ  「がまんすんど、こいから女仕入れで、何軒かまわるんや」
 飯盛り女「ええっ、女仕入れ? お前は女衒かえや、そんは見えねえど」
 オラ  「駆け出しやで、そいに買い付けでのうて、江戸行きの誘いや。まだ女の値付けがわからん。だすけ、抱いて見て話してあたるん」
 飯盛り女「なあ、ワラ江戸行って見てえ、ここには借金もねえ、いつ出てもええんや。三十路ん一人身や、今んままじゃ旅籠で足洗い婆になるしかねえ。江戸へ出れたら、六十路過ぎても夜鷹んなって稼げる」
 オラ  「うん、そこなんやなあ。観音商売の女衆は本当に大変や。何か安寧の場を作らねばなんね、オラはつくづく思うん。夜鷹んなって仕舞いでのうて、何かええ所をのう」
 飯盛り女「ワラ江戸行く、連れてってな。どっかの置屋に世話してけろや。お前、そいが仕事じゃろ、ワラに値付けてな、頼むわい」
 オラ  「そのう、まだ値の付け方わからんてな、今は味見をして仕分けしとるんや。そんでのう、兄貴に引き渡すとこまでなんや。兄貴が値付けて売るん」
 飯盛り女「じゃ、そん仕分けとやらしてくれ、ワラは力ある、男に負けん。腰も強けりゃ観音はもっと強い、まるで鉄観音や、さあ味見してんか」
 オラ  「わかった、そいが取り得やな。ではチョンの間のガチンコ勝負いくで」
 飯盛り女「思いっ切り頼むで、ぶっ壊れるぐれえにな、来いや……」




 あん女、合格。
 でかいのが難とはいえ、男んガン突きに耐えられる宝もんあり。土佐兄には、中の下とでも伝えっかいな。
 後は、土佐兄の鬼の仕込みがあるけんど、すでに東海道の旅人に仕込まれておるわ。
 名はキミと言う。三十路ん飯盛り女、江戸行きの二人目なり。
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