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純粋について

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翌日はよく晴れていた。
デート日和ってやつだ。高円寺は降りたことがなかったが。

女の子たちがダニエルは約束しても来ないとか、気が向いた時しか来ないとか言ってたから、だらだら遅く行ったらもういた。
ジーンズにジャンパー。普通の格好なのに、ゴージャスな男前だ。


「どこ行くんだ?」と聞いたら「家。」と答えた。ほんと、なんなんだ、こいつ。
まあ、もういっか。と諦め、俺はついていった。

家は普通のアパートで、家主はあきらかに若い女っぽかった。玄関に女の靴とバッグが並んでる。明るい色のカーテンにベッド、テーブルには化粧品。ダニエルの仮宿のようだ。

デートもなく、ホテルでもなく、見知らぬ女の部屋で、しかも家主の留守中にセックス。気分は最悪だ。

上着を脱いですぐに、シャワーに連れ込まれた。ダニエルが俺の身体を洗う。

俺が挿入れられんのか・・・
ってのと
あんなでかいの入るか?
ってので
最悪の気分に、恐怖が追加された。


挿入れられるのは、実は二回目だ。最初の野郎はひどかった。前戯はほぼないし、乱暴だし、クソ痛くて血がいっぱい出た。何日も痛み止めの世話になるほど。しかも早漏。いや、早くて助かったのか。ゴムをしてくれるだけ、まだまともか。
そのあと、たまたま、ほんとに偶然、その野郎とヤッたという男が俺を含めて4人集まった。
「あいつヘタクソじゃね?」と一人が言いはじめると、「早い。」と誰かが言い、「痛いし」と俺が言った。「よかった~!自分だけじゃなーい!」と分かち合えた。

話は逸れたが、とにかく初めてが散々だったから身体はどうしても萎縮する。
青ざめて緊張している俺を見て、ダニエルが言った。

「大丈夫。ぜったいに痛くしない。恐いとかダメだったらすぐやめる。」
そして俺を抱きしめてキスをした。

驚いた。思いがけない、優しい言葉。優しいキス。あたたかいシャワー。ホッと安心する。
キスは、とても気持ちよかったと思う。

彼は丁寧に洗い流しながらほぐしてくれて「あとはベッドで。」と言って浴室から先に出ていった。
裸のまま部屋に行くとダニエルが笑ってまたキスをした。ゴージャスな男の笑顔は半端ない。
「キスがうまいな。」と俺に言う。自分ではよくわからない。

「瞳の色が・・・?」と俺が不思議に見ていると「普段はグリーンだけど、時々オレンジになることがある。」と言った。
どこの出身?歳は?と聞くと、フランス、28だと答えた。

「なんで日本に来た?」と聞くと
「日本人は純粋だから。」と言う。


「お前は?お前はなんでここにいる?」


その問いには答えなかった。質問に質問で返した。
「なんで俺なんだ?」

俺はいったい、どんな顔をしていたんだろう。声も震えていたんだろうか。ダニエルが優しく言った。
「お前はとても魅力的だよ。」


それを聞いて、俺は今日はじめて笑った。 
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