不動さんと物件めぐり

雲条翔

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1軒目 メゾン・ド・マッチョ

2.死者は出てません

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 オーナーの男性は、言葉を発するたびにいちいちボディビルのポージングを取り、奇声を上げるので、そばにいるとやかましい。

「……あの、よろしくお願いします」

「じっくりィィッ! 見ていってェッ! 決めてェッ! くださいッ! サイドチェストォォッ!」

「それでは木芽さん、行きましょうか」

 気圧されながら軽く会釈する俺。
 マイペースでポージングし続けるオーナーを横目に、不動さんはまるで何事もなかったかの如く進行する。
 俺は不動さんに並んで、歩き始めた。

「あの、不動さん? 自転車置き場の脇で奇声あげながら、オーナーはまだポージングしてますけど、ほっといていいんですか」

「ふふっ、ああいう人なんですよ。私たちだけで先に行きましょう」

 にこやかに「ああいう人なんですよ」の一言で片づけられてしまった。
 さすがは不動さん、不動心だ。

 でも、実際にここに俺が住むとなると、あのマッチョで暑苦しいオーナーと、大家と店子の関係になるわけだ。
 なんかイヤだな……。

「さあ、ここが入り口です。どうぞ。開けてください」

「ん? 自動ドア、壊れてるんですか」

「自動ドアじゃなくて手動ドアです。こじ開けてください。結構重いですよ。意図的に重く設定してあるそうです。普段の暮らしの中にも…」

「運動を、がコンセプトですもんね! よっしゃ、男の俺がやりますよ! ふんぬぬぬ……本当に重い! クソ重い! 普段からこんなに重いんですかっ! 故障じゃなくて!?」

「普段からこれです」

「こんちくしょおおお!」

「あと少し! 頑張って!」

「ぬぬぬ……あの……不動さんっ……手伝ってくれないんですか……」

「住むのは木芽さんですから、これくらい毎日軽くこなしてもらわないといけません」

「ぐぐぐ……あ、開いたぁっ!」

「早く、早く入って下さい! すぐに閉まりますよ! 挟まれたらケガしますよ! 過去にも前例があります!」

「前例あるんですか!」

「安心してください。なんと………………死者は出てません!」

「溜めてまで言うことじゃないですよ!」

 三点リーダの無駄遣いだ。

 ◆

「ここが、ご案内させていただく部屋です」

 不動さんがドアを開けたそこは、六畳の和室だった。

 靴脱ぎスペース以外は、キッチンもトイレもバスもない、家具も一切ない。
 壁には押し入れなどの収納もない。

 大きな窓がある、ただの空間。新しい畳の匂いがするだけ。

「見事に空っぽですね……。あの、俺、すぐにでも住みたいので、条件は、キッチン・バス・トイレ付きって言いませんでしたっけ……」

 (続く)
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