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えかきうた
しおりを挟む会社からの帰り道、最寄りの駅下のカフェで甘いココアを飲んでひと息つくと、ため息が出た。
今日も、上手く出来なかった。
上司との関係は上手くいかないし、同期は軒並み辞めていった。後輩は後輩じゃなくて他の会社で働いていたベテランだから実質後輩じゃないし、正直なところ先輩であり、優しい人だが気を遣うところがあった。
気持ちが、休まるところがなかった。
大学の頃の友人とは、一年で数回しか会えていない。休みの曜日が異なっていたり、夜ご飯を食べるにしても職場が離れていたりして、会う時間が取れない。
そろそろ孤独感に身が詰まりそうだった。
頑張ろうとするほどに空回りして、失敗して、上司から失望されて、自分に失望して、本当に、何もかもが上手くいかない。
上司の存在がもう怖いのだ。どうか、休みの時期がずれて、1日でも多く会わない日が増えるように願うなんて馬鹿らしいことを本気で願ってる。
朝の通勤への道で足が止まりそうになったり、会社の最寄駅から会社までの道で心臓がバクバクなったり、呼吸をするのを忘れていたりする時があった。
帰り道は極度の緊張から解放されたからか、帰り道の途中で地面に座り込みかけた。
職場の人と仲良くしたいのに、なんで出来ないんだろう。もう、笑顔になろうとしても顔が引き攣って笑顔を上手く作れないし、緊張から喉が詰まって声が余計に小さくなって会話が上手くいかなかった。
「会社、変えた方がいいのかなあ」と思わず、小さな声で呟いた時、楽しそうに歌う高い声が聞こえた。
「お目目が2つ~できました~♪」
お目目が2つ??と声が聞こえた方を思わず見ると、高校生ぐらいの女子2人が制服姿で隣同士で座りながら、机に横罫線入りのA4サイズのノートを広げ、シャーペンで何かを描いていた。
女の子のうちの1人が絵を描いて、もう1人が歌っているようだ。
歌っていた子の方が耐えきれないように笑い出した。
「ふふ、まって、お目目が2つって言ったじゃん、ふっ、目、顔の外にある、ふっ、あははは、やばい、まって、お腹痛い」
歌っていた子はお腹を押さえながら、机に突っ伏しプルプル震えていた。
絵を描いてた子は心外な様子だったが、自分の絵の出来栄えを改めて見て笑いながら抗議した。
「いや、歌通りだって~~~こんな感じだったじゃん」
「違う、絶対違う、ふっ、やばい、絵描き歌って知ってるキャラクターでも直前に見ずに描くと、やばいもん出来上がるね、やばいやばい」
歌っていた子はケラケラと笑い出した。
最後は2人とも笑いすぎて机に突っ伏してプルプル震えていた。
「ふふ」とひとりでに笑ってしまって、驚いた。そういえば、いつから心の底から笑ってないのだろう。
今だけは職場のことを忘れられるようだった。
自分にもあんな風に笑い転げていた頃があったなあと思い出したら、友人に余計に会いたくなった。
「来月、いつ空いてるか連絡して聞いて、有給休暇とろう」
会いたいと思えば連絡すればよかったんだ。いつの間にか、いつも受け身になっていて、相手が誘ってくれていたんだった。
相手も自分に会いたいと思ってくれていたんだと、今更気づいた。
なんだか、そのことがジワジワと身体に染み込んでいき、心がじんわりと温かくなった。
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