カ・ル・マ! ~水の中のグラジオラス~

后 陸

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水の中のグラジオラス 三の章

策束静巡 壱 その1

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 天六てんろくのファミレスに、アイドル級のグッドルッキングガールが入って来た。

 ピンクのもこもこワンピが、前を開けた白いダッフルコート下に見えるだけで店内の男たちは喜んだ。

 魅惑。

 いちど視界に入れると、もう眼が離せない。
 言葉通り、その可愛さに釘付けになる。
 誰もが彼女のとりこになる。

 、、、あくまで、見た目。
 内面にあるヘドロのようにかたまった艶陰えんいんな悪意のかたまりを、見た目の可愛さで見事におおいかくしている。

 完璧に、カワイイ。
 魅惑のオーラ。

 ただちょっと気が緩むと、そこから内面のヘドロが流れ出し、拷問ごうもん好きのドSが顔を見せ始める。

 彼女は加虐性欲者、藤田由起。
 HNハンドルネームは、ユキオンナ。

 その彼女に、奥のテーブルから手を振る男女がいた。
 FFとモコ。

 「お~~い、こっちこっち!」

 周囲の目も気にせず手を振る姿を見ると、どうやら事故で痛めた身体は全快に近い状態まで回復しているようだ。
 そんなチンピラファッションのFFに、満面の笑みを浮かべながらユキオンナがテーブルへ向かう。
 ファミレス内の男性陣は、軒並のきなみガックシとほほ状態。

 呼ばれた時にはFFとモコは向かい合って座っていたのに、ユキオンナがテーブルへ着く前にモコがFFの横に座り直す。

 ――またや、、、

 にらみそうになる眼を、笑顔のままキープ。
 2人の前に、よどみなく座った。
 いつもの構図。
 3人で居る時は、決まってこの構図。

 ――いちいち、、、。変わんねんやったら初めっからそこ座っとけよ

 モコの何気なにげ無い行動が、何故なぜしゃくさわるようになってきたのは、微塵みじんも見せない。

 ――同じ人間と長い時間るんは、やっぱう無いな

 この仕事が終わったら、FFとモコとはちょっと離れようとユキオンナは思った。
 一緒に居る時間が長くなると、その相手の顔がゆがむのを想像してしまう。

 どんな顔で泣くのか、苦しむのか、そして、、、どんな顔で命乞いのちごいをするのか、、、。
 その時の表情を想像するだけで、興奮する。
 ほほが上気し、れてくる。

 ――ヤバい。今、から、、、ヤバい、、、

 と、考えてても、表には出さない。
 ユキオンナのカワイイは、完璧。
 FFも、いつも通りの感じで話し掛けていた。

 「なんや神戸に行ってたって聞いたけど、作戦か?」

 モコから聞いた事だ。
 自分が動けないうちから、ユキオンナが結構色々と動いていたらしい。
 暴れるだけのEG使いと思っていたら、以外にも段取りを組めるんだとFFはちょっと感心していた。

 「高野山にる坊主ん中に、使えそうなんが一人ってな、その親と繋がり作ったんや」
 「ふ~ん、使えそうなヤツって、なんかさすんか?」

 タブレットで、パフェを注文。
 この寒いのに。
 注文を終えると、FFの質問に答えるユキオンナ。

 「密秘を、ソイツに盗ます」

 コーヒーを飲む手が止まるFF。
 ユキオンナを見た。
 笑ってる。
 カップを戻す。

 「出来んの?」

 質問は、モコ。
 ユキオンナが、ゆっくりとモコに視線を合わせた。

 「そのためにわざわざ神戸まで行ってケツたたいて来てんで。やってもらわなこまるわ」

 ダッフルコートを横に置きながら、ユキオンナの口調が荒くなる。
 声が聞こえない店内の男たちには、可憐な少女がコートを横に置く愛らしい仕草に見えていた。

 「シロートが、、、出来んのんか?」

 これはFF。
 当然の疑問だ。

 「パフェ遅いなぁ。、、、ってか、正直どっちでもええねん。ホンマに取って来てくれたらラッキーぐらいにおもて。アカンかったら、ソイツ犯人になって貰うから」

 それを聞いて、FFは納得した。

 「あぁ、失敗した時の保険ね」
 「うん」

 そう返事する笑顔が、カワイイ。
 が、同時に疑問も沸く。

 「相手、高野山の坊主やろ? そう簡単に説得なんか出来そうに思えんのやけど、、、」

 FFが聞いて来た。
 モコも、続けて聞いて来る。

 「なぁなぁ、さっき言うてた親と繋がったって、どうやったん?」
 「それな、、、」

 パフェが来た。
 ロボット給仕が不愛想に愛想の良い言葉で早く取れと促す。

 「FF、取ってくれへんの?」
 「甘えんな。自分で取れや」

 ――そういうFF、好きやわ~

 ユキオンナがFFと仕事を一緒にしようと思ったのは、この理由が大きい。
 FFは自分に、全く興味が無い。
 今まで知り合った男の中で、だ。
 FFだけが、ただ一人、ユキオンナを性の対象として見ていない。

 自分で言うのもなんだが、驚いた。
 歩くたびに声を掛けられ、誰もが自分とヤりたがってると感じてた。
 下半身を服で隠しても、脳ミソが勃起してる。
 男とは、そういうモノなんだと思ってた。

 FFも初めは仲間だから気を使ってそういう風に見せないだけかと思っていたが、マジでタイプじゃ無いらしい。
 確かめた事もあった。

 ちょっと“誘惑”してみた。
 今まで、失敗したことが無い。
 必ず落としてきた。

 口を少し開け、上気させた表情で眼をうるませる。
 その顔のまま、甘えて願い事をする。
 これをすれば、男の首は縦にしか動かない。
 ところがFFは、、、。

 「オマエみたいなんがメスの顔すな! キモいねん!!」

 バッサリやられた。
 思わず声に出して、『え?』と言いそうになったのを覚えている。
 たまらない。
 全く自分に興味が湧かないなんて、堪らない。

 萌える。

 興味の無い男をこっちに向かせ、気を引き、惚れさせる。
 惚れさせたら、たっぷり時間をかけて、この細く白い指先で、
 ちょっとづつ、ちょっとづつ、死なないように、死なないように、生命いのちを、

 これは、萌える。

 おのれ生命いのちをこの指先で摘まんでやったら、FFはどんな顔で自分を見るのか?

 命乞いのちごいをする?
 それとも黙って、死んでいく?
 狂おしくにらむくらいはしてくれるだろうか、、、。

 それを想像するだけで、全身震える。
 全身鳥肌。
 それを誤魔化すように、冷たいパフェを口に入れた。

 ――生命いのちまでは、仲間、仲間、仲間、、、美味おい

 舌で上あごにアイスを押し付け、口の中に広がるように、ねっとりと溶かした。

 ――アンタらも、、、

 純粋で狂気な眼差まなざしが、FFとモコを見ていた。
 そのFFの、眉毛が一瞬引きる。

 ――魅惑?!

 ナチュラルに出るユキオンナの波動に反応。
 ペースを取り戻すため、自分から話しを振る。

 「おいおい、そんなん食ってんと、どうやったかえや」

 モコも、どうやったかは気になるところだ。
 ユキオンナ、笑顔になる。
 FFの横柄おうへいな態度が、知らずユキオンナを興奮させる。

 「依頼主のインド人が、あたしらより先に買収した坊主が高野山にるやろ」
 「あぁ、色々調べて情報くれるヤツな」

 「ソイツがまぁ色々と調べた情報で、学生坊主ん中に親が芸能プロダクションしてるヤツがってん」
 「芸能プロダクション? お笑いの?」
 「ちゃうわ!」

 モコの顔が、少し不安に曇る。
 ユキオンナが言った、依頼主のインド人。
 初めにコンタクトがあったのは、モコ、にだった。

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