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その2

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  しばらく砂浜の上を警戒しながら歩いていたが、小さな岩山が二つあっただけで目ぼしい物は何もなかった。

 その岩山には海鳥が飛んでいるくらいで平和そのものだ。

 これはピクニックかな?


 そんな気持ちで歩いていると、大きな岩山の前でアルが突然止まった。

「魔物の気配がしました……小ボスか中ボスのような気がします。レッドブッシュボアに似た感じですね」

「そうか、いたか……ボスは避けて行こうか」

「ええ、そうですね」


 ボスは島の北東側に居るようだ。

 簡単に地図を書きながら南に向かって行った。

 岩山には上らずに砂浜を南に向かって歩く。

 南の端近くでまた、アルフィーが止まって振り向いた。

「狼がいますね。ただ、魔物ではなくて獣のようです」

「そうか。じゃあ、試しに狩ってみようか」

「はい。では気をつけて行きましょう。この岩山の上に森がありそうです」

「分かった。慎重に登ろうか」

「ふふふ。そうですね」


 岩山を登って上に上がった。

 十メートルもない程の高さだ。斜面もそんなに急じゃない。

 気をつけて登ると、岩山の上は森だった。

 いかにも何か居そうだな。


「ここは狼とウサギがいるようですね。狼もそこまで多くないでしょう」

「よし、装備はどうする」

「多分これで十分ですよ。エルさんも良いですか」

「ああ、いざとなったら大槍ゴマがある」


 狼くらいなら何とでもなるだろう。

「そうですね。では行きます」

「うん」

 アルフィーを先頭に、森に入って探索した。

「……ウサギがいますね」

「どうする。剣を落とすか?」

「そうですね」

 久々だな。できるかな。

 距離は五メートル位か……。


 狙い済まして剣を落とす!

 ジャン。と音がして旅人の剣が現れた。


 ピクっとウサギが首を上げた瞬間。

 ザンッとウサギを貫いた。

「よっしゃ!」

「流石ですね」

 アルフィーがさっと近づいて確認するとこっちを見てOKサインを出した。

 一撃でちゃんと決まったようだ。

「まだまだいけるな」

「はい」

 懐紙で剣をさっと拭いて獲物を回収した。


 探索を続ける。

 その後も難なくウサギを二羽と白い鳥を一羽確保した。

「変わった鳥だな。綺麗だけど美味しいのかな」

「美味しいと思いますよ。なんとなくですけどね」

「そうだな。後で試そうか」

「はい、あっ狼が居ますよ……三匹位かな。じゃあ次は私も行きますよ。光の翼ライトウイング光の身体強化ライトハイブースト!」

 アルフィーが光り輝き薄く光る小さな翼が背中に浮かぶ。

 綺麗だな。


 目が鋭くなったアルフィーの右手がうなりを上げてブレた!

閃光の斬撃フラッシュブーム! 閃光の斬撃フラッシュブーム! 閃光の斬撃フラッシュブーム!」

 三本の閃光が森を走ると、草木とともに狼の首を切り裂いた。

 三つの首が宙を舞い、狼の体がドサッと倒れた。

 ……瞬殺だ。


 戦士の剣でも狼が一撃だった。

 間違いなくBランクの実力以上はあるだろう。

「流石だな」

 俺は素直に感心した。

「自分でもビックリですよ。この装備でも素早く連続で撃てましたからね」

「ああ、そうだよな」

 アルフィー自体もレベルアップしているようだ。


 狼を回収してさらに先へと進んでいく。

 しばらく歩くと視界が開けて明るくなった。どうやら森から出たようだ。

 木が少なくなってきたと思ったら、結構な大きさの池があった。


「池ですね、右の山から水が流れてきて自然な池が出来たようですね」

 近づいてみると水は綺麗で澄んでいるようだ。

「そうだな。飲めるのかな?」

「どうでしょうか……綺麗な気がしますね。あっ魚もいますよ、おそらく大丈夫でしょうね」


「でもやめとこうか」

「はい。水はありますからね」

 無理してリスクを取る必要は無い。

 喉も潤したかったので水筒を取り出して二人で飲んだ。以前汲んだ湧き水が旨い。


 いつの間にか夕方近くになってきていた。

 今日はどうしようかな。

「そろそろシルフィーを出すか」

「そうですね、すごく楽しかったです。エルさん、たまには二人っきりもいいですね」

「ああ、たまにはまた、二人でやろう」

 アルフィーを抱きしめてキスをする。

 二人の絆が深まった気がした。


 そしてシルフィーをその場に出した。

「あああ!! あれっ!? うん? 何よこれ……」

 シルフィーが叫んでキョロキョロした。

 まあ、突然時間が飛ぶからこうなるよな。

「あっ回収したのね、エル、大丈夫だったの?」

「大丈夫だ、色々あったけどあれから丸一日たったんだよ」


 これまでの事を説明しながらテント小屋とトイレテントを出して設置した。

 昨日の焚き火を取り出して置く。

 出来上がっているので便利だな。


「へーそんな事になってたの。じゃぁ一日二人っきりだったのね。……まあ、たまにはそういうのもいいわよね」

「はい。初めてエルさんと二人っきりでした」

「そっか。アルフィーさんはそうよね。私も、三人でいるのも久々な気がするわ。いつも人がいっぱいだもんね」

「そうだよな。俺もアルと二人で新鮮だった。たまにはいいもんだな。シル、時間が止まってるから感覚としては一瞬だし、別にいいだろ?」

「そうねぇ。でも不思議な感覚だわ。ねぇエル、私もたまには二人っきりになりたいわ」

 シルフィーが俺の腕を組んで下から甘えた顔をする。


「ふふふ。やっぱりそう思いますよね」

「まあそうだな。たまにはそうするよ。シル、一応シルフィーユを出して付近の警戒をしてくれ」

「うん。そうね」


 小妖精を呼び出してお酒を渡して警戒を頼んだ。


 さっき狩ったウサギと白い鳥を解体して串に刺す。

「あら、初めて見る鳥ね。美味しそうだわ」

 あぶっていると油がポタポタ落ちてきた。

 そろそろいいかな。

 調味料を皿に出してつけて口に入れてみる。

「うん、旨い! 赤鶏より旨い気がするぞ」

「本当、ジューシーですね。柔らかくって美味しいです」

「うん、いいわね。ドンドン焼きましょう」


 少しだけお酒も出して、ふんわりパンとシチューを並べて、夕食を楽しんだ。

 三人で食べる外の食事は懐かしい感じがして楽しかった。


――その様子を山影から二つの目が覘いていた。
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