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ELDORADO
ELDORADO-本物の肉
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闇病院の小さな厨房に、鉄と血の匂いが満ちていた。
ステンレスの台に横たわるのは――サタヌスが担いで帰った“ミュータント豚”。
フォウはゴム手袋をつけ、まるで手術のように真剣な眼差しで見つめている。
「Null、このミュータントさん……変異前は何だったんだろう?」
隣で端末を開いたNullが、眼鏡をクイッと押し上げる。
「推察……七〇パーセントの確率で、哺乳綱・鯨偶蹄目・イノシシ科」
「主要筋肉部位は安全。しかし、毒素蓄積組織を複数検出。内臓は除去を推奨」
冷たい電子音が流れ、端末に肉体の断面が3Dスキャンされていく。
Nullの手は迷いがない。
“人間の医学教本”と“現地サバイバルガイド”の両方を同時参照しながら、
解体手順をアルゴリズム的に選択していく。
フォウはその横で、目を輝かせて頷いた。
「やっぱり豚さんだったんだね~」
「ホルモンはサンプル保存……Null~、解剖手伝って」
Nullは無表情のまま頷く。
鉄と血の匂いに包まれた、闇病院の夜。
重々しい音を立てて、テーブルの上にドン!と置かれる巨大なミュータント豚の肉塊。
その“圧”は、市販ソイプロテインしか知らない闇病院の面々にとって、未知との遭遇そのものだった。
「え、ちょ、これ……本物?」
ミカはエプロンの端をぎゅっと握りしめた。
焦げた鍋と古いまな板の狭間、日常が不意に“現実”になる。
「市販プロテインじゃなくて?」
「うん、“本物”だってNullが言ってた!」フォウは無垢な声で答える。
栄養士たちは一斉にざわめく。
「加熱はどれくらい?」
「毒素検査は?」
「脂肪分は……あ、これ骨じゃない?」
「解体手順、どれ参考にすればいいんだろ……」
“命”という現実の重さが、数値にもマニュアルにも落とし込めない。
ミカは目を白黒させて厨房を見渡した。そのとき、栄養士Aが叫ぶ。
「ミカ!あなたの部屋に日本の料理雑誌あったよね!?」
「ちょっ…あれ家庭科の教科書だってば!しかも中学の!」
「でも“焼き肉”とか“すき焼き”とか載ってた気がする!!」
「それ、家庭でやる量でしょ!?このサイズ無理だって!」
調理AIの機械音声が割り込む。
「ネットワーク検索、ヒット:『豚肉の部位図解』『やわらかく焼くコツ』」
「AIのくせにレシピ検索下手すぎ!」
栄養士Aが舌打ちする。
「レトロ料理誌から画像抽出、視覚認識で照合中……」
フォウがページをめくり「“焼く”“煮る”って書いてあるよ!」と目を輝かせる。
「よし、焼いてみるか……いや、煮てから焼こうか……」
古びた家庭科教科書のページを、みんなで奪い合う。
湯気と油の混じる台の上で、全員の指先が本のレシピや部位図に群がる。
「調理AI、味付けは?」
「この部位、焼く?煮る?蒸す?」
「出てきた脂、どうするの?」
厨房は“命”と“知識”と“好奇心”の混乱で、パニックの祝祭へ変わった。
栄養士Aが肩を落としながら苦笑い。
「本物の肉を、家庭科の教科書とネットレシピで乗り切る30世紀……」
ミカが振り返る。
「笑うな!今できる最高の“ごちそう”にするの!」
フォウは澄んだ目で言った。
「うん、きっとおいしいよ!」
30世紀の闇病院厨房、“初めての本物の肉”。
それはドタバタと笑顔の中で祝祭の匂いを立ちのぼらせていた。
「ねぇ、もう少し焦がした方がおいしいかな?」
「いや、もういい!焦げたらせっかくの“肉”がもったいねぇ!」
サタヌスが横から叫ぶ。彼の頬には、珍しく子供のような笑顔が浮かんでいた。
闇病院の面々――ヴィヌス、レイス、Null、PATCH――そして数人の下層の子どもたちが、
この夜ばかりは“患者”ではなく“客”として集まっていた。
大皿の上には、ミュータント豚のトンテキ、焼きそば、スープ、餃子。
どれもフォウとサタヌスの合作。
金属臭とソースの匂いが混じるその料理を前に、皆が息を呑んだ。
最初に手を伸ばしたのは、小児科の少年だった。
あの日、枕元で「お肉が食べたい」と呟いたあの子。
フォウが優しく差し出した皿を、少年は両手で抱きしめるように受け取った。
「これ……本当に、お肉?」
「うん。みんなで頑張って作った、“本物の肉”だよ」
フォウが微笑む。少年は恐る恐る一口――そして、目を丸くした。
「……あったかい」
小さな声が、静まり返った厨房に響いた。
その言葉に、サタヌスがゆっくり立ち上がった。
「だろ? これが“命の味”だ。
金じゃ買えねぇ、努力でしか手に入らねぇ――下層の味だ」
レイスが笑う。「お前、たまに詩人だな」
ヴィヌスは静かに頷きながらスープを啜る。
「でも、確かに……これは魂の味」
扉の外。
いつもの門番が、こっそり病院の光を覗いていた。
昼間、サタヌスを止めきれなかった自責で眠れずにいた男だ。
だが、窓の向こうで見た光景に、思わず笑ってしまう。
「……あいつ、本当に帰ってきやがった」
鼻をすすり、呟く。
「クビ覚悟で止めたってのに……まったく、無茶苦茶な奴だ」
その背後では、幸福庁の監視ドローンが赤い光を点滅させていた。
《警告:下層エリアに未承認生体タンパク反応》
《即時封鎖対象》
門番はドローンの光を見つめ、そっと立ち塞がるように前に出た。
「……見逃してやれよ」
「たった一晩くらい、“人間らしく食って笑う夜”があってもいいだろ」
病院の中では、フォウが笑っていた。
「次はね、ミュータント豚の焼きそば! ソースいっぱい!」
子どもたちが歓声を上げる。
サタヌスは豪快にトンテキをひっくり返しながら笑った。
「なぁ、門番も食ってけよ! 冷める前にな!」
外で聞こえるその声に、門番は苦笑して頭を下げた。
「……バカ野郎、聞こえてるじゃねぇか」
Nullは静かにログを記録している。
「感情反応:幸福度+八。倫理コード:保留」
その瞬間――闇病院の天井に設置された監視端末が、かすかに赤く点滅した。
幸福庁のモニタールームに、電子音が鳴り響く。
“外界の肉”――それは、ナノシティが最も恐れる不浄の象徴。
だが闇病院では、そんなことはどうでもよかった。
ただ、誰もが笑っていた。
――30世紀の夜、初めて「命の味」を知った。
夜の闇病院。
ジャンク鉄板の上で、PATCHが最後の仕上げをしていた。
「よし……ミンチ、できたぞ。ジャンクミキサーだけど上出来だ」
ガタガタと音を立てる鍋の中で、ミュータント豚の肉がぐつぐつと煮えていく。
香ばしい匂いに、廊下まで子どもたちの足音が集まってきた。
「おにくのにおいだ!」
「ほら、あんたたち並びなさい。今日は特別よ」
ヴィヌスが笑って配膳皿を並べ、レイスがフォークを配る。
PATCHは鍋をかき混ぜながら肩をすくめた。
「まさか本当に肉を手に入れてくるとはな……さすがバカ勇者」
「勇者じゃねぇ、スラムのサバイバーだ」
サタヌスが笑う。その顔には、達成感と少しの誇りがあった。
フォウが静かに呟いた。
「不幸こそ、人間らしさ……って、こういうことなんだねぇ」
小児科の子どもたちが「いただきます!」と声を揃え、ミンチ鍋を食べ始める。
熱いスープ、歯ごたえのある肉片。
味付けは塩胡椒だけ、しかし涙が出るほど“おいしかった”。
「……金持ちのステーキじゃねぇ。でも、夢は叶ったな」
サタヌスはぼそりと呟く。
笑いながら鍋を分けるその姿に、子どもたちが群がった。
「サタ兄ちゃん、また魔物とってきて!」
「次はハンバーグがいい!」
「バッカやろー!命かかってんだぞ!」
豪快に笑いながら、サタヌスは鍋をすくって子どもたちに分けていく。
その光景は、幸福庁の定義からすれば“汚染”そのもの。
だがそこにあったのは、紛れもなく生きている者たちの幸福だった。
一方その頃。
ナノシティ上層――ELDORADO財閥タワー、黄金の部屋。
壁一面に貼られた金箔が反射する光の中で、女はゆっくりと口紅を引いていた。
「……市内で、“肉を分け与える”不審者発生?」
部下AIの報告に、エルドラドは眉をひそめる。
「貧民どもが、外界の獣で宴を?」
「はい。確認映像には、渦状の瞳を持つ少年が――」
「渦……」
エルドラドの口角がひくりと動いた。
「“幸福”は、選ばれた者の特権。
それを汚らしい手で模倣するなんて、許されない」
彼女は鏡に映る自分を見つめる。
完璧に整えられた髪、完璧に設計された笑顔。
だが、その奥に潜む“焦燥”が、自分でもわかっていた。
「……あのガキ、“貧民の味”で子供たちを笑わせたって?」
口紅をぐり、と塗りつぶす。
「私の“幸福”が霞むじゃない」
モニターに映るサタヌスの映像。
あの渦巻く瞳が、まっすぐにこちらを見返してくる。
笑っている。――“満たされた笑み”で。
エルドラドは一瞬だけ、息を詰めた。
「……その笑顔、気に入らないわ」
黄金の女帝がゆっくりと立ち上がる。
指先でタブレットを撫で、命令を下す。
「幸福庁警備網、下層第14区を封鎖しなさい」
「――“粛清”を始めるわ。
幸福は、上から流れるもの。
下から湧くなんて、そんなの――穢れよ」
空には、ほんのり赤く染まった夜明け雲。
“血のような朝焼け”が、次の戦いを予告していた。
ステンレスの台に横たわるのは――サタヌスが担いで帰った“ミュータント豚”。
フォウはゴム手袋をつけ、まるで手術のように真剣な眼差しで見つめている。
「Null、このミュータントさん……変異前は何だったんだろう?」
隣で端末を開いたNullが、眼鏡をクイッと押し上げる。
「推察……七〇パーセントの確率で、哺乳綱・鯨偶蹄目・イノシシ科」
「主要筋肉部位は安全。しかし、毒素蓄積組織を複数検出。内臓は除去を推奨」
冷たい電子音が流れ、端末に肉体の断面が3Dスキャンされていく。
Nullの手は迷いがない。
“人間の医学教本”と“現地サバイバルガイド”の両方を同時参照しながら、
解体手順をアルゴリズム的に選択していく。
フォウはその横で、目を輝かせて頷いた。
「やっぱり豚さんだったんだね~」
「ホルモンはサンプル保存……Null~、解剖手伝って」
Nullは無表情のまま頷く。
鉄と血の匂いに包まれた、闇病院の夜。
重々しい音を立てて、テーブルの上にドン!と置かれる巨大なミュータント豚の肉塊。
その“圧”は、市販ソイプロテインしか知らない闇病院の面々にとって、未知との遭遇そのものだった。
「え、ちょ、これ……本物?」
ミカはエプロンの端をぎゅっと握りしめた。
焦げた鍋と古いまな板の狭間、日常が不意に“現実”になる。
「市販プロテインじゃなくて?」
「うん、“本物”だってNullが言ってた!」フォウは無垢な声で答える。
栄養士たちは一斉にざわめく。
「加熱はどれくらい?」
「毒素検査は?」
「脂肪分は……あ、これ骨じゃない?」
「解体手順、どれ参考にすればいいんだろ……」
“命”という現実の重さが、数値にもマニュアルにも落とし込めない。
ミカは目を白黒させて厨房を見渡した。そのとき、栄養士Aが叫ぶ。
「ミカ!あなたの部屋に日本の料理雑誌あったよね!?」
「ちょっ…あれ家庭科の教科書だってば!しかも中学の!」
「でも“焼き肉”とか“すき焼き”とか載ってた気がする!!」
「それ、家庭でやる量でしょ!?このサイズ無理だって!」
調理AIの機械音声が割り込む。
「ネットワーク検索、ヒット:『豚肉の部位図解』『やわらかく焼くコツ』」
「AIのくせにレシピ検索下手すぎ!」
栄養士Aが舌打ちする。
「レトロ料理誌から画像抽出、視覚認識で照合中……」
フォウがページをめくり「“焼く”“煮る”って書いてあるよ!」と目を輝かせる。
「よし、焼いてみるか……いや、煮てから焼こうか……」
古びた家庭科教科書のページを、みんなで奪い合う。
湯気と油の混じる台の上で、全員の指先が本のレシピや部位図に群がる。
「調理AI、味付けは?」
「この部位、焼く?煮る?蒸す?」
「出てきた脂、どうするの?」
厨房は“命”と“知識”と“好奇心”の混乱で、パニックの祝祭へ変わった。
栄養士Aが肩を落としながら苦笑い。
「本物の肉を、家庭科の教科書とネットレシピで乗り切る30世紀……」
ミカが振り返る。
「笑うな!今できる最高の“ごちそう”にするの!」
フォウは澄んだ目で言った。
「うん、きっとおいしいよ!」
30世紀の闇病院厨房、“初めての本物の肉”。
それはドタバタと笑顔の中で祝祭の匂いを立ちのぼらせていた。
「ねぇ、もう少し焦がした方がおいしいかな?」
「いや、もういい!焦げたらせっかくの“肉”がもったいねぇ!」
サタヌスが横から叫ぶ。彼の頬には、珍しく子供のような笑顔が浮かんでいた。
闇病院の面々――ヴィヌス、レイス、Null、PATCH――そして数人の下層の子どもたちが、
この夜ばかりは“患者”ではなく“客”として集まっていた。
大皿の上には、ミュータント豚のトンテキ、焼きそば、スープ、餃子。
どれもフォウとサタヌスの合作。
金属臭とソースの匂いが混じるその料理を前に、皆が息を呑んだ。
最初に手を伸ばしたのは、小児科の少年だった。
あの日、枕元で「お肉が食べたい」と呟いたあの子。
フォウが優しく差し出した皿を、少年は両手で抱きしめるように受け取った。
「これ……本当に、お肉?」
「うん。みんなで頑張って作った、“本物の肉”だよ」
フォウが微笑む。少年は恐る恐る一口――そして、目を丸くした。
「……あったかい」
小さな声が、静まり返った厨房に響いた。
その言葉に、サタヌスがゆっくり立ち上がった。
「だろ? これが“命の味”だ。
金じゃ買えねぇ、努力でしか手に入らねぇ――下層の味だ」
レイスが笑う。「お前、たまに詩人だな」
ヴィヌスは静かに頷きながらスープを啜る。
「でも、確かに……これは魂の味」
扉の外。
いつもの門番が、こっそり病院の光を覗いていた。
昼間、サタヌスを止めきれなかった自責で眠れずにいた男だ。
だが、窓の向こうで見た光景に、思わず笑ってしまう。
「……あいつ、本当に帰ってきやがった」
鼻をすすり、呟く。
「クビ覚悟で止めたってのに……まったく、無茶苦茶な奴だ」
その背後では、幸福庁の監視ドローンが赤い光を点滅させていた。
《警告:下層エリアに未承認生体タンパク反応》
《即時封鎖対象》
門番はドローンの光を見つめ、そっと立ち塞がるように前に出た。
「……見逃してやれよ」
「たった一晩くらい、“人間らしく食って笑う夜”があってもいいだろ」
病院の中では、フォウが笑っていた。
「次はね、ミュータント豚の焼きそば! ソースいっぱい!」
子どもたちが歓声を上げる。
サタヌスは豪快にトンテキをひっくり返しながら笑った。
「なぁ、門番も食ってけよ! 冷める前にな!」
外で聞こえるその声に、門番は苦笑して頭を下げた。
「……バカ野郎、聞こえてるじゃねぇか」
Nullは静かにログを記録している。
「感情反応:幸福度+八。倫理コード:保留」
その瞬間――闇病院の天井に設置された監視端末が、かすかに赤く点滅した。
幸福庁のモニタールームに、電子音が鳴り響く。
“外界の肉”――それは、ナノシティが最も恐れる不浄の象徴。
だが闇病院では、そんなことはどうでもよかった。
ただ、誰もが笑っていた。
――30世紀の夜、初めて「命の味」を知った。
夜の闇病院。
ジャンク鉄板の上で、PATCHが最後の仕上げをしていた。
「よし……ミンチ、できたぞ。ジャンクミキサーだけど上出来だ」
ガタガタと音を立てる鍋の中で、ミュータント豚の肉がぐつぐつと煮えていく。
香ばしい匂いに、廊下まで子どもたちの足音が集まってきた。
「おにくのにおいだ!」
「ほら、あんたたち並びなさい。今日は特別よ」
ヴィヌスが笑って配膳皿を並べ、レイスがフォークを配る。
PATCHは鍋をかき混ぜながら肩をすくめた。
「まさか本当に肉を手に入れてくるとはな……さすがバカ勇者」
「勇者じゃねぇ、スラムのサバイバーだ」
サタヌスが笑う。その顔には、達成感と少しの誇りがあった。
フォウが静かに呟いた。
「不幸こそ、人間らしさ……って、こういうことなんだねぇ」
小児科の子どもたちが「いただきます!」と声を揃え、ミンチ鍋を食べ始める。
熱いスープ、歯ごたえのある肉片。
味付けは塩胡椒だけ、しかし涙が出るほど“おいしかった”。
「……金持ちのステーキじゃねぇ。でも、夢は叶ったな」
サタヌスはぼそりと呟く。
笑いながら鍋を分けるその姿に、子どもたちが群がった。
「サタ兄ちゃん、また魔物とってきて!」
「次はハンバーグがいい!」
「バッカやろー!命かかってんだぞ!」
豪快に笑いながら、サタヌスは鍋をすくって子どもたちに分けていく。
その光景は、幸福庁の定義からすれば“汚染”そのもの。
だがそこにあったのは、紛れもなく生きている者たちの幸福だった。
一方その頃。
ナノシティ上層――ELDORADO財閥タワー、黄金の部屋。
壁一面に貼られた金箔が反射する光の中で、女はゆっくりと口紅を引いていた。
「……市内で、“肉を分け与える”不審者発生?」
部下AIの報告に、エルドラドは眉をひそめる。
「貧民どもが、外界の獣で宴を?」
「はい。確認映像には、渦状の瞳を持つ少年が――」
「渦……」
エルドラドの口角がひくりと動いた。
「“幸福”は、選ばれた者の特権。
それを汚らしい手で模倣するなんて、許されない」
彼女は鏡に映る自分を見つめる。
完璧に整えられた髪、完璧に設計された笑顔。
だが、その奥に潜む“焦燥”が、自分でもわかっていた。
「……あのガキ、“貧民の味”で子供たちを笑わせたって?」
口紅をぐり、と塗りつぶす。
「私の“幸福”が霞むじゃない」
モニターに映るサタヌスの映像。
あの渦巻く瞳が、まっすぐにこちらを見返してくる。
笑っている。――“満たされた笑み”で。
エルドラドは一瞬だけ、息を詰めた。
「……その笑顔、気に入らないわ」
黄金の女帝がゆっくりと立ち上がる。
指先でタブレットを撫で、命令を下す。
「幸福庁警備網、下層第14区を封鎖しなさい」
「――“粛清”を始めるわ。
幸福は、上から流れるもの。
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