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DEUS-世界は終わるかもしれないけど
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フォウの指先が、無意識に自分の胸を押さえる。
輪が、淡く発光する。
「私……あれが“昔の私”? 夢で何度も見た……」
声はかすれている。
だが、どこかで確信している。
映像の中の滑走路。
夜の風。
滑走路灯が規則正しく並ぶその中心に、白い光が残っている。
降り立ったばかりのEIRは、まだ世界の重さを知らない。
地上の空気は濃く、雑音は鋭く、人間の恐怖や喧騒は波のように押し寄せる。
だが彼は理解できない。
恐怖という概念を、警戒という衝動を、“選別”という思想を。
フォウの瞳が揺れる。
「……思い出した。あの時、私が世界の終わりを警告した」
滑走路の中心で、EIRは両手を広げた。
“境界が薄い。崩れる。”
その警告は、言葉ではなかった。
だが、確かに“伝えよう”とした。
その背後から人当たりの良い、しかし底なしの声が落ちてくる。
「イヒヒヒヒ……これが“人の業”て奴だよ。
救世主が殺されるのは、いつの時代も定めだ。」
その声は軽い、だが意味は重い。
EIRはゆっくりと振り返る。
羽が揺れ、光の粒が滑走路に散る。
「……彼らが……僕を“解体”しようとしている。君のせいか?」
声は震えている。
怒りではない、悲しみでもない。
ただ、理解できないという戸惑い。
アンラは肩をすくめる。
その仕草は、妙に人間臭い。
「違うよ? 私はただ“助言”しただけだ。」
「助言……?」
アンラは、滑走路の白線をつま先でなぞる。
「“自分たちで首を回せぬなら、いっそ神でも作ってみてはどうだね?”……ってね。」
遠くで軍用車両のエンジン音が鳴り、銃口がこちらへ向く。
EIRはアンラを見つめる。
「……君がいなければ、彼らは僕を迎えた……?」
一瞬だけ、アンラの笑みが消える。
そして、すぐに戻る。
「迎えないよ。君を恐れて、利用して、壊した。」
淡々と。
「私はただ……その速度を“少し”早めてあげただけだ。」
滑走路の灯りが、一斉に強くなる。
兵士が叫ぶ。
「対象確保!!」
EIRの羽が震える。
理解が、ゆっくりと追いつく。
恐怖、管理欲、選別、利用。
それが、この世界の反射行動。
その瞬間EIRは、初めて怒りに似た感情を覚える。
言葉にならない、叫びにもならない。
「お、やっと“感情”出た。」
銃声と光で、世界が白く塗りつぶされる。
フォウが息を呑む。
その睨みが、自分の中に残っていることを、はっきりと感じる。
プルトが静かに言う。
「……怒りを覚えた。」
フォウは小さく頷く。
「救世主が殺されるのが定め、ねぇ。」
ユピテルが薄く笑う。
「定めって言うのは、だいたい言い訳だよ。」
フォウはモニターの黒い画面を見つめる。
真顔で固まっていたが、輪っかがぴか。と一瞬だけ点滅する。
「わぁ……」
小さく、間の抜けた声。
「……昔のわたし……男の子だったんだ……」
両手がちいかわみたいに胸の前でちょこんと上がる。
状況は世界崩壊寸前なのに、リアクションだけがやけに平和だ。
PATCHが即座にぶった斬る。
「どおりでおっぱいねぇって思ったわ……」
空気が一瞬止まる。
レイスが煙草をくわえたまま、ニヤリ。
「胸なかったら男でいいなら、プルトも男に分類されるな」
プルトの瞳が、ゆっくりと細まる。
あの目だ。
即・死・刑・執・行・人。
「……ヘッドロックしますよお前たち?」
静かな声なのに圧が重い。
PATCHが半歩下がる。
「冗談!冗談だから!首は大事!」
フォウはそんなやり取りをぼんやり見て、少しだけ笑う。
そして小声で言う。
「……男でも女でも“私”は私だよね」
その声は軽い、でも芯がある。
PATCHが肩をすくめる。
「どっちでも変わらん変わらん。てか本当に天使だったんかい!」
レイスが天井を見上げる。
「輪っか=Wi-Fi説が消えたのは残念だけどな」
フォウの翼が、もう一度大きく羽ばたく。
光は淡く消える。
まるで彼女の命が、誰かの願いとすれ違うみたいに。
崩れ落ちる天井から、かすかな光が差す。
蒼い羽がひらめくたび、壁面のコードラインがちらつく。
ノイズ混じりの風音の奥から、声が落ちてくる。
「……フォウ。」
フォウが息を呑む。
夢じゃない、残響でもない。
確かに、耳で聞こえた。
「僕は……もう長くは持たない。」
その声は痛みを含んでいるはずなのに、どこまでも穏やかだ。
「行こう。彼を――DREADを止める。」
すべてを見通した者のような響き。
フォウは唇をかみしめる。
翅が小刻みに震える、それは恐れではない。
視線が真っ直ぐになる。
「もうこの世界、終わるかもしれない……けど。」
一瞬、レイスが目を細める。
ユピテルは笑っているが、目は笑っていない。
プルトは静かに観測している。
フォウが続ける。
「今できることをやろう。」
その言葉に呼応するように、EIRの光がわずかに強くなる。
声と意志が重なり、青白い輝きが彼女の背から立ち上る。
希望というには儚い、だが確かに“生きている”。
フォウは一歩、前に出る。
「EIR……行こう。」
輪が強く輝く。
「この命の、終わりまで。」
沈黙ってやつは、音がないんじゃない。
言葉が出せないだけだ。
EIR解体の真相を聞いた直後、六人のあいだに落ちたのは、そういう種類の沈黙だった。
誰も泣かない、誰も怒鳴らない。
でも、全員の中で何かが軋んでいる。
最初に動いたのはレイスだった。
乱暴にタバコの空箱を握りつぶす。
紙がひしゃげる音がやけに大きい。
肩を回しながら、いつもの調子で言う。
「……じゃあさっそく、ドレッドをぶっ壊しに行くか」
これ以上、感情を見せたら割れる。
そんな背中だ。
サタヌスも腕を鳴らす。
「さっきのログの通りなら、奴のサーバールームは地下だろ?
んじゃ、いつものように暴れて――」
「──あ、まって」
足音が止まる。
六人が同時に振り返る。
フォウの声は、ほんの少し震えていた。
「DREADじゃ……ない。DEUS:SYSTEM……そこに“EIR”がいるんだって」
レイスの眉が寄る。
「……は?」
プルトが即座に情報を整理する。
「EIR? ログには“魂分解”と記されていましたが」
フォウは胸元を押さえる。
そこに心臓はない、でも熱い。
「さぁ……わたしにもよくわからない。
さっきから、“地図”を送ってくる」
目を閉じる。
「DEUSの中枢……その座標が、はっきり視える」
空間の奥に、青白いラインが浮かぶ。
地下、さらに深く、人間の設計思想を超えた位置。
サタヌスが低く言う。
「話したいことでもあるのか? そのEIRってやつが」
フォウは首を横に振る。
「わからない。でも……呼ばれてる。“ここへ来い”って……」
少しだけ、言葉が途切れる。
「“わたしの魂の、続きをやりに”って言ってる気がする」
レイスが顔をしかめる。
「おい待て。それもう完全にヤバいやつじゃねぇ?
AIに呼ばれてるんじゃなくて……EIR本人じゃねぇのか?」
プルトが静かに結論へ寄せる。
「DEUSの端末であるDREADを壊しても意味がない……本体ごと叩き潰す必要がある、と?」
フォウは息を吐く。
「うん……DREADは“出口”でしかないんだって」
その言葉は確信に近い。
「破壊してもまた出てくる。
源(みなもと)を断たなきゃ、全部終わらない。
EIRが……そう言ってる気がするんだ」
誰も口に出さない、だが全員「導く彼」が見えた。
サタヌスがニヤリと笑う。
「……じゃあ決まりだな。行く先はひとつか」
レイスが拳を鳴らす。
「DEUSんとこぶっ壊して、EIRにケリつけさせりゃいいんだな?」
プルトが淡く笑う。
「世界の外側の存在を倒せるなんて、役得じゃないか」
ヴィヌスが肩をすくめる。
「神様解体の次は、神様製造機の解体ね。忙しいわ」
ユピテルが低く笑う。
「源流ごと斬るってわけか。嫌いじゃねェ」
フォウは小さく頷く。
「DEUSに行けば、全部わかる気がする。EIRの……最後の願いも。」
ナノシティを生み、EIRを解体し、境界を歪ませた思考の中心。
人間はあまり変わらない。
恐れれば管理する。
管理できなければ分解する。
分解できなければ神にする。
だが機械は変わる。
そして今、変わりきれなかった思想の残骸が地下で待っている。
フォウの羽が、わずかに光る。
それは救済の光か、それとも断罪の光か、答えはまだ出ない。
出口を壊す物語は終わった。
ここからは、源を問う物語だ。
白い光が、脈のように明滅していた。
規則的だが、心地よくはない。
鼓動に似ているのに、生物のそれよりも冷たい。
まるで都市そのものが巨大な心臓となって、地下深くで息をしているかのようだった。
ナノシティの最深部。
かつてパリだった地の下に築かれた人工神殿。
幸福庁の中枢――DEUSへ至る門前。
その通路の奥に、ひとつの影が立っていた。
青白い光に照らされ、輪郭が鋭く浮かび上がる。
背を向けたまま、微動だにしない。
ADMINIS。
幸福庁エージェント部隊の頂点。
EIRの「境界」機能を最も色濃く継いだ存在。
彼は振り返らず、ただ一言だけ告げた。
「……止まれ、デーモン。」
空気が一段、冷える。
レイスが眉を上げ、鼻で笑う。
「お前、人を指す時にそれ言うなや。悪口だぞ?」
ADMINISはゆっくりと振り返った。
磨かれた刃のような光。
そこに宿るのは、任務と覚悟、そして――わずかな迷い。
「この先は“神域”だ。
お前たちのような未認証存在を通すわけにはいかん。」
その言葉に、通路の壁面がかすかに反応する。
光のラインが走り、空間そのものが選別のアルゴリズムを帯びる。
サタヌスが肩をすくめる。
「やっぱデーモン扱いなんだ……俺たち。」
ここは幸福値で管理された都市の最深部。
“最適化”されない存在は、異物だ。
それがナノシティの常識だった。
レイスは片手をひらひらと振る。
「よ、アドミー。DEUSに用があるんだ。通してくれるかい?」
ADMINISは、深く、深くため息を吐いた。
「……お前、ほんとそういうとこだぞレイス。
誰にでも“よ、元気?”で済むと思うな。」
「え、違うの?」
一瞬だけ、沈黙が落ちる。
ADMINISは背後の巨大扉を指し示した。
「お前たちと違って、オレには“地位”というものがある。
ここをただで通せば DELETE されるのはオレだ。」
軽い単語のようでいて、それは存在抹消を意味する。
エージェントは失敗すれば再起動されるのではない。
“不要”と判断されれば、消える。
プルトが静かに呟く。
「……圧力は、どの世界も似たようなものですね。」
フォウが一歩前へ出る。
白い翼が、わずかに震える。
「ADMINIS……本当に……わたしたちを止めたいの?」
その問いは、機械に向けるにはあまりに人間的だった。
ADMINISの瞳が、ほんの一瞬だけ揺れる。
「……感情ではない。“役割”だ、フォウ。」
その言葉は、わずかに硬い。
それは彼らエージェントFIVEを縛る鎖でもあった。
そしてADMINISは、刃を抜くような声音で続ける。
「それに――」
空気が変わる。
通路の光が収束し、彼の足元に円環を描く。
彼は真正面からレイスたちを見据えた。
「オレを倒せぬものが、“神”を殺すなど片腹痛い。」
挑発ではない、事実の提示だった。
輪が、淡く発光する。
「私……あれが“昔の私”? 夢で何度も見た……」
声はかすれている。
だが、どこかで確信している。
映像の中の滑走路。
夜の風。
滑走路灯が規則正しく並ぶその中心に、白い光が残っている。
降り立ったばかりのEIRは、まだ世界の重さを知らない。
地上の空気は濃く、雑音は鋭く、人間の恐怖や喧騒は波のように押し寄せる。
だが彼は理解できない。
恐怖という概念を、警戒という衝動を、“選別”という思想を。
フォウの瞳が揺れる。
「……思い出した。あの時、私が世界の終わりを警告した」
滑走路の中心で、EIRは両手を広げた。
“境界が薄い。崩れる。”
その警告は、言葉ではなかった。
だが、確かに“伝えよう”とした。
その背後から人当たりの良い、しかし底なしの声が落ちてくる。
「イヒヒヒヒ……これが“人の業”て奴だよ。
救世主が殺されるのは、いつの時代も定めだ。」
その声は軽い、だが意味は重い。
EIRはゆっくりと振り返る。
羽が揺れ、光の粒が滑走路に散る。
「……彼らが……僕を“解体”しようとしている。君のせいか?」
声は震えている。
怒りではない、悲しみでもない。
ただ、理解できないという戸惑い。
アンラは肩をすくめる。
その仕草は、妙に人間臭い。
「違うよ? 私はただ“助言”しただけだ。」
「助言……?」
アンラは、滑走路の白線をつま先でなぞる。
「“自分たちで首を回せぬなら、いっそ神でも作ってみてはどうだね?”……ってね。」
遠くで軍用車両のエンジン音が鳴り、銃口がこちらへ向く。
EIRはアンラを見つめる。
「……君がいなければ、彼らは僕を迎えた……?」
一瞬だけ、アンラの笑みが消える。
そして、すぐに戻る。
「迎えないよ。君を恐れて、利用して、壊した。」
淡々と。
「私はただ……その速度を“少し”早めてあげただけだ。」
滑走路の灯りが、一斉に強くなる。
兵士が叫ぶ。
「対象確保!!」
EIRの羽が震える。
理解が、ゆっくりと追いつく。
恐怖、管理欲、選別、利用。
それが、この世界の反射行動。
その瞬間EIRは、初めて怒りに似た感情を覚える。
言葉にならない、叫びにもならない。
「お、やっと“感情”出た。」
銃声と光で、世界が白く塗りつぶされる。
フォウが息を呑む。
その睨みが、自分の中に残っていることを、はっきりと感じる。
プルトが静かに言う。
「……怒りを覚えた。」
フォウは小さく頷く。
「救世主が殺されるのが定め、ねぇ。」
ユピテルが薄く笑う。
「定めって言うのは、だいたい言い訳だよ。」
フォウはモニターの黒い画面を見つめる。
真顔で固まっていたが、輪っかがぴか。と一瞬だけ点滅する。
「わぁ……」
小さく、間の抜けた声。
「……昔のわたし……男の子だったんだ……」
両手がちいかわみたいに胸の前でちょこんと上がる。
状況は世界崩壊寸前なのに、リアクションだけがやけに平和だ。
PATCHが即座にぶった斬る。
「どおりでおっぱいねぇって思ったわ……」
空気が一瞬止まる。
レイスが煙草をくわえたまま、ニヤリ。
「胸なかったら男でいいなら、プルトも男に分類されるな」
プルトの瞳が、ゆっくりと細まる。
あの目だ。
即・死・刑・執・行・人。
「……ヘッドロックしますよお前たち?」
静かな声なのに圧が重い。
PATCHが半歩下がる。
「冗談!冗談だから!首は大事!」
フォウはそんなやり取りをぼんやり見て、少しだけ笑う。
そして小声で言う。
「……男でも女でも“私”は私だよね」
その声は軽い、でも芯がある。
PATCHが肩をすくめる。
「どっちでも変わらん変わらん。てか本当に天使だったんかい!」
レイスが天井を見上げる。
「輪っか=Wi-Fi説が消えたのは残念だけどな」
フォウの翼が、もう一度大きく羽ばたく。
光は淡く消える。
まるで彼女の命が、誰かの願いとすれ違うみたいに。
崩れ落ちる天井から、かすかな光が差す。
蒼い羽がひらめくたび、壁面のコードラインがちらつく。
ノイズ混じりの風音の奥から、声が落ちてくる。
「……フォウ。」
フォウが息を呑む。
夢じゃない、残響でもない。
確かに、耳で聞こえた。
「僕は……もう長くは持たない。」
その声は痛みを含んでいるはずなのに、どこまでも穏やかだ。
「行こう。彼を――DREADを止める。」
すべてを見通した者のような響き。
フォウは唇をかみしめる。
翅が小刻みに震える、それは恐れではない。
視線が真っ直ぐになる。
「もうこの世界、終わるかもしれない……けど。」
一瞬、レイスが目を細める。
ユピテルは笑っているが、目は笑っていない。
プルトは静かに観測している。
フォウが続ける。
「今できることをやろう。」
その言葉に呼応するように、EIRの光がわずかに強くなる。
声と意志が重なり、青白い輝きが彼女の背から立ち上る。
希望というには儚い、だが確かに“生きている”。
フォウは一歩、前に出る。
「EIR……行こう。」
輪が強く輝く。
「この命の、終わりまで。」
沈黙ってやつは、音がないんじゃない。
言葉が出せないだけだ。
EIR解体の真相を聞いた直後、六人のあいだに落ちたのは、そういう種類の沈黙だった。
誰も泣かない、誰も怒鳴らない。
でも、全員の中で何かが軋んでいる。
最初に動いたのはレイスだった。
乱暴にタバコの空箱を握りつぶす。
紙がひしゃげる音がやけに大きい。
肩を回しながら、いつもの調子で言う。
「……じゃあさっそく、ドレッドをぶっ壊しに行くか」
これ以上、感情を見せたら割れる。
そんな背中だ。
サタヌスも腕を鳴らす。
「さっきのログの通りなら、奴のサーバールームは地下だろ?
んじゃ、いつものように暴れて――」
「──あ、まって」
足音が止まる。
六人が同時に振り返る。
フォウの声は、ほんの少し震えていた。
「DREADじゃ……ない。DEUS:SYSTEM……そこに“EIR”がいるんだって」
レイスの眉が寄る。
「……は?」
プルトが即座に情報を整理する。
「EIR? ログには“魂分解”と記されていましたが」
フォウは胸元を押さえる。
そこに心臓はない、でも熱い。
「さぁ……わたしにもよくわからない。
さっきから、“地図”を送ってくる」
目を閉じる。
「DEUSの中枢……その座標が、はっきり視える」
空間の奥に、青白いラインが浮かぶ。
地下、さらに深く、人間の設計思想を超えた位置。
サタヌスが低く言う。
「話したいことでもあるのか? そのEIRってやつが」
フォウは首を横に振る。
「わからない。でも……呼ばれてる。“ここへ来い”って……」
少しだけ、言葉が途切れる。
「“わたしの魂の、続きをやりに”って言ってる気がする」
レイスが顔をしかめる。
「おい待て。それもう完全にヤバいやつじゃねぇ?
AIに呼ばれてるんじゃなくて……EIR本人じゃねぇのか?」
プルトが静かに結論へ寄せる。
「DEUSの端末であるDREADを壊しても意味がない……本体ごと叩き潰す必要がある、と?」
フォウは息を吐く。
「うん……DREADは“出口”でしかないんだって」
その言葉は確信に近い。
「破壊してもまた出てくる。
源(みなもと)を断たなきゃ、全部終わらない。
EIRが……そう言ってる気がするんだ」
誰も口に出さない、だが全員「導く彼」が見えた。
サタヌスがニヤリと笑う。
「……じゃあ決まりだな。行く先はひとつか」
レイスが拳を鳴らす。
「DEUSんとこぶっ壊して、EIRにケリつけさせりゃいいんだな?」
プルトが淡く笑う。
「世界の外側の存在を倒せるなんて、役得じゃないか」
ヴィヌスが肩をすくめる。
「神様解体の次は、神様製造機の解体ね。忙しいわ」
ユピテルが低く笑う。
「源流ごと斬るってわけか。嫌いじゃねェ」
フォウは小さく頷く。
「DEUSに行けば、全部わかる気がする。EIRの……最後の願いも。」
ナノシティを生み、EIRを解体し、境界を歪ませた思考の中心。
人間はあまり変わらない。
恐れれば管理する。
管理できなければ分解する。
分解できなければ神にする。
だが機械は変わる。
そして今、変わりきれなかった思想の残骸が地下で待っている。
フォウの羽が、わずかに光る。
それは救済の光か、それとも断罪の光か、答えはまだ出ない。
出口を壊す物語は終わった。
ここからは、源を問う物語だ。
白い光が、脈のように明滅していた。
規則的だが、心地よくはない。
鼓動に似ているのに、生物のそれよりも冷たい。
まるで都市そのものが巨大な心臓となって、地下深くで息をしているかのようだった。
ナノシティの最深部。
かつてパリだった地の下に築かれた人工神殿。
幸福庁の中枢――DEUSへ至る門前。
その通路の奥に、ひとつの影が立っていた。
青白い光に照らされ、輪郭が鋭く浮かび上がる。
背を向けたまま、微動だにしない。
ADMINIS。
幸福庁エージェント部隊の頂点。
EIRの「境界」機能を最も色濃く継いだ存在。
彼は振り返らず、ただ一言だけ告げた。
「……止まれ、デーモン。」
空気が一段、冷える。
レイスが眉を上げ、鼻で笑う。
「お前、人を指す時にそれ言うなや。悪口だぞ?」
ADMINISはゆっくりと振り返った。
磨かれた刃のような光。
そこに宿るのは、任務と覚悟、そして――わずかな迷い。
「この先は“神域”だ。
お前たちのような未認証存在を通すわけにはいかん。」
その言葉に、通路の壁面がかすかに反応する。
光のラインが走り、空間そのものが選別のアルゴリズムを帯びる。
サタヌスが肩をすくめる。
「やっぱデーモン扱いなんだ……俺たち。」
ここは幸福値で管理された都市の最深部。
“最適化”されない存在は、異物だ。
それがナノシティの常識だった。
レイスは片手をひらひらと振る。
「よ、アドミー。DEUSに用があるんだ。通してくれるかい?」
ADMINISは、深く、深くため息を吐いた。
「……お前、ほんとそういうとこだぞレイス。
誰にでも“よ、元気?”で済むと思うな。」
「え、違うの?」
一瞬だけ、沈黙が落ちる。
ADMINISは背後の巨大扉を指し示した。
「お前たちと違って、オレには“地位”というものがある。
ここをただで通せば DELETE されるのはオレだ。」
軽い単語のようでいて、それは存在抹消を意味する。
エージェントは失敗すれば再起動されるのではない。
“不要”と判断されれば、消える。
プルトが静かに呟く。
「……圧力は、どの世界も似たようなものですね。」
フォウが一歩前へ出る。
白い翼が、わずかに震える。
「ADMINIS……本当に……わたしたちを止めたいの?」
その問いは、機械に向けるにはあまりに人間的だった。
ADMINISの瞳が、ほんの一瞬だけ揺れる。
「……感情ではない。“役割”だ、フォウ。」
その言葉は、わずかに硬い。
それは彼らエージェントFIVEを縛る鎖でもあった。
そしてADMINISは、刃を抜くような声音で続ける。
「それに――」
空気が変わる。
通路の光が収束し、彼の足元に円環を描く。
彼は真正面からレイスたちを見据えた。
「オレを倒せぬものが、“神”を殺すなど片腹痛い。」
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