嫉妬帝国エンヴィニア

兜坂嵐

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エンディングは終わらない

斬れぬのは時だけ

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 崩壊するエンヴィニア城下。
 空間は歪み、アンラ・マンユの「言葉の劇場」が螺旋の世界を引き裂いていた。
 ページのようにめくれ落ちていく大地、その下からは神の“手”が無数に伸び。
 全ての者を舞台装置の一部に変えようと蠢いている。
 しかし、クロノチームの足は止まらなかった。
 ユピテルが先頭を駆ける。
「ウラヌスぅ!!重力操作ァ!!!」
 叫びながら手を振り上げると、足元に紫の魔法陣が光を放つ。
 ウラヌスは、いつもの調子で指を鳴らした。
「はぁい♪今だけ月面仕様~。重力:6分の1!反重力エリア展開~~!!」

 瞬間、重力が緩む。
 世界の重みが消え、チーム全員の身体がフワリと浮き上がる。
 背後では神の“手”が壁を突き破り。
 空間はノイズ混じりに捻じれていく――だが、もう振り向く者はいない。
 踏切台へ――雷のエフェクト、氷の滑走路。
 全員が“滑る”ように踏み切り、神の手の包囲をギリギリでかわし。
 一気に中庭の空へと跳躍した。

 空間がねじれ、音が消え、全てが“劇場のページ”のように薄れていく中。
 クロノチームの心は奇妙なほど静かだった。

 ジャンプの最中、レイスが叫ぶ。
「王女ぉー!博士えぇぇ!!!」
 その叫びは沈みゆく城の屋根にこだまし。
 サタヌスは、ふわふわとした浮遊感に思わず笑いが漏れる。
「フワッフワで楽しいぜこれぇ!!日常これにしてぇ!!」
 カリストは滑空しながら、冷静に着地位置を計算している。
「着地位置……計算完了。接触角度13度。皆さん、膝を軽く曲げてください」
 ユピテルは、背後の壊れゆく劇場を振り返りもせず。
「ンだよこのノリ、最高かよ。次はあの“てっぺん”までぶっ飛ぶぜぇ!!」
 と、勝者のような声をあげる。

 アンラ・マンユは――高みから舞台を見下ろし。
「――あははははッ!逃げ延びた!イイネ!アドリブが本当に多いチームだ!」
「次の幕間で、“重力違反”って脚本に書いておこうか?」
 と、嬉しそうに“ページ”を破りながら、手を振って見送っている。

 舞台装置は崩壊し、世界はもう元に戻らない。
 それでも、彼らだけは“物語の外”へと跳び出していく。
 神を背にして、まだ終わらぬ螺旋の先へ。
 終幕を拒絶し続ける物語。
 このジャンプこそ、彼らが世界を選び取る意志だった。

 氷の滑走から“神域”へ――クロノチームは見事、螺旋城の中庭へ着地した。
 ユピテルが真っ先に両足で床を強く叩きつける。
「っだぁ!!」
 爆ぜるように、足元から蒼いマナの残滓が四方へと飛び散った。
「ここもアノマリーだらけか……!予想はしてたぜッ!!」
 彼は既に剣を抜き、獲物を睨む獣の目で周囲を見据えている。

 壁も、床もあちこちが傷だらけなのに、不気味なほど倒壊せず保たれていた。
 空気が重く、外界の音はまるで水中に沈んだかのように遠い。
 だが、違和感はさらにその先にあった。
 噴水の縁――そこに、例の黒スーツ姿の男が胡坐で座っている。
 アンラ・マンユ。
 片手に紅茶カップ、もう片手はスマホを弄る仕草。
 まるで平日の昼下がりにくつろぐサラリーマンのようだった。

 彼の周囲には、どこかおぞましく歪んだ異形たちが蠢いている。
 全て、アノマリー――“未処理の影”。
 アンラが顎を上げ、にやにやと心底楽しげな笑みを浮かべた。
「やぁやぁやぁ……ようこそ、壊れるべきなのに壊れなかった舞台へ」
「このアノマリーたちは私の影」
 その声に呼応するように、無数の“目”が一斉にクロノチームを見つめる。
「さあ、“イレギュラー達”。エンディングが近いよ」
 満面の、純粋すぎて逆に怖いほどの笑顔だった。

 ウラヌスはキレ気味にスマホを握りしめる。
「まっっっったく変わらない笑い方してんじゃんこの神!!」
 サタヌスは呆れたように首を傾げる。
「え、なんであの人くつろいでんの?しかもスマホ使ってる?」
 レイスはフードを半分外しながら、煙草を咥えてにやりと笑う。
「“脚本の主”気取りか……こっちだって最後のページに筆入れてんだよ」
 カリストは冷静な声で全員に告げる。
「アノマリーの密度、過去最大……時間干渉も限界です。早急にコアへ到達を」
 螺旋城の空間は、いまや“理”の外にあった。
 だが――舞台の“主”と“イレギュラー達”は、最後の一幕へ向け。
 確実にページをめくろうとしていた。

 アンラ・マンユが指を鳴らす、その瞬間――ユピテルが動いた。
「……俺は役者やってるつもりねぇ!!」
 空気が震える。
 ユピテルの動きはもはや視認できず、居合刀“舞雷”が光と雷鳴をまとい、空間ごと真横に断つ。
 青白い閃光。
 その一閃は、アンラ・マンユの黒スーツごと、空間すら両断した。
 時間が止まる――いや、止まったように思えるほど、あまりにも鮮烈な斬撃。
 その場に残る静寂を、サタヌスの呟きが破る。

「っ……すげぇ、舞雷……」
「邪神を一撃で斬るとか、もう聖剣超えたろこれ……」
 ユピテルは刀を軽く持ち上げる。
 その手元では“舞雷”がビリビリと悦びの光を溢れさせている。
 剣が、まるで「当然だ」と言いたげに――誇り高く光っていた。
「舞雷が斬れねぇのは“時”だけ」
(ふっと落とす視線、時元斬の記憶が脳裏を過る)

「……あ?もう斬ってたな」
 ニヤリと口元が緩む。
 あの時の余韻――今も身体を駆け巡る。
 だが――両断されたはずのアンラ・マンユ。
 ふたつに裂けたシルエットのまま、にやにやと笑い残る。
 黒スーツが裂け、影が崩れながらも、その顔は狂喜と興奮で満ちていた。

「あああああ……!ブラボォオオ……!!!」
「最高だよぉ!まさか“私自身”をカットするとはねェ!!」
「いやあ……これはもう……再演不可避だねぇ♡」
 断面から異様な光と影が溢れ、拍手の音が割れた空間に木霊する。
 まさかの“斬られて大歓喜”。
 その様子に、逆にぞっとするクロノチームだった。

 螺旋城・中庭。
 先ほどまで空間を切り裂いていた戦火の煙が、ようやく薄れていく。
 アンラ・マンユの残滓が宙を裂き、彼の断末魔は、遠く消えていった。

 静寂が舞い戻るその中心で、ユピテルは刀“舞雷”をさっと振り払う。
 わずかな残光と血飛沫が地を染め。
 静かに、床にカツンッと響く。
 彼は余裕の笑顔で、振り向いた。
「……あンま気安くさわるなよ?べっぴんさン、俺しか握れねぇンだ」
 愛刀に語りかける。
「前。学者どもに電圧測らせたらよ――“1億ボルト”だとよ?」
 その笑顔は、完全に人間やめた“害獣”のそれ。

 即、横でウラヌスが崩壊する。
「いwちwおwくwwwwwwww」
「もう雷魔法ですらねぇぇえええ!!!自然現象じゃん!!!!!」
 両手を空に放り投げ、全力で芝居がかったスローモーション倒れ!
 サタヌスは腹を抱え、拍手しながら大笑い。
「それもう“宿してる”んじゃなくて――雷が刀の形してるだけじゃねぇかよ!!」
「最高だよ舞雷!!もっとやれ!!」
 ユピテルはもう全力自画自賛モード突入。
「ハハハハハ!!!もっと讃えろ!!!!」
「“神鳴り”と書いてユピテル様!!神だぞオラァァ!!!!」
「ハーハッハッハッハ!!!!!」
 さっきまで晴れていた空に、雷雲が生成され始める始末。

 カリストは最早恒例リアクション芸人と化した。
 地面に崩れ落ちて頭を抱え、土下座寸前で叫ぶ。
「ウワアアアアア!!!ユピテル様が偉大すぎるううううううう!!!!」
 サタヌスは背中をバンバン叩きながら爆笑。
「出た出たまた焼かれた!!!毎度おなじみリアクション地雷マン!!」
「お前マジで耐電性能鍛えとけよ!!」
 後方では、レイスがポテチ片手に苦笑。

「決戦後にこのノリ……マジで“いつものクロノチーム”で草」
 ウラヌスは大急ぎでスマホを構え、録画ボタンを押す。
「タイトルは《神鳴り様と雷被災貴公子》に決定~!」
「タグは【#焼け跪き】【#尊い感電】【#1億ボルトの愛】でバズらせよ!」
 ユピテルはドヤ顔でキメポーズ。
「感電しながら愛でてろ。これが、俺さンの――アフターバトルモードだァ!」
 嵐が去っても、クロノチームだけは“普通”だった。
 これぞ、世界の終末にあってなお消えない“日常”の、最高のバカ騒ぎ。
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