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古代帝国の目覚め
教えて神官様
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朝-いつもの気怠い一日が始まる。しかし今日は少しだけ違った。
珍しいことに、DMが来ていたのである。
「……DM?」
送り主:@KERINN_official
《こんにちは!突然すみません!
昨日の動画で使用した画像、もしかしてアナタが撮ったものでしょうか?
もしよければお話を──》
画面を見つめたレイスは、しばし無言のままソファに座り込む。
やがて、ぽつりと呟く。
「……悪ィ。俺、そういう話には乗れない」
だがそのあと、指は止まらなかった。
数秒の逡巡の後、もう一行だけ打ち込む。
「でも、あんたの声好き。よく寝られる」
《送信完了》
数分後。
画面が、明るく弾けた。
《え!?俺の声、寝れる!?》
《ありがとう!本題じゃないけどそれだけで生きられるレベル!》
絵文字は乱舞、テンションは跳ね上がり、最後の行にはこう書かれていた。
《もしよかったら、寝落ち用ラジオもやってるんで聞いてね!》
レイスはふっと笑って、スマホを伏せる。
言葉に出さず、ただ一言。
「……ほんと、喋るの向いてんなあんた」
それは小さなやり取りだった。
だけどその朝、KERINNはたぶん本気で世界一テンションが高かった。
朝食を準備しながら、アモンがふと振り返る。
そこにはスマホを見つめ、へにゃっと笑う寝ぐせだらけのレイスの姿。
その表情を見た瞬間、アモンの時間が止まった。
「かわい……ちょっと……ちょっと待って……可愛すぎて心臓掴まれた……」
エプロン姿のまま、アモンはテーブルに倒れこむように崩れる。
その背中から、小さく、しかし確信に満ちた声が漏れる。
「いい?これは私が断言するけど」
「パンダも、動物の赤ちゃんも、この世のどんな愛らしい存在も」
「うちの弟子の笑顔には、敵わないわよ」
セエレがジュースを持ちながら、ドン引きした顔で一言。
「師匠、朝から情緒ぶっ壊れてません?」
アモンは地を這うような声で返す。
「うるさい……今の笑顔は……年に数回しか見られない……奇跡の表情なのよ……」
レイスは何も知らず、そのまま動画を再生しながら二度寝しようとしていた。
朝の日差しがダラけたカーテンを透けて部屋に差し込む。
食卓にはパン、マーガリン、ジャム、そして昨日の残り物。
レイスは半目で食パンを持ち上げ、ほぼ無心でマーガリンを塗っている。
アモンは隣でジャムをのんびり広げながら、まるで近所のニュースのように言った。
「あの写真、すごかったのね~」
「動画とかもバズってたじゃない。あの子、KERINNだっけ?」
レイスはぺたり、とパンにマーガリンを増量しながら呟く。
「へぇ。マジですごかったんですね~」
「……って言いながら俺が撮ったんだけどな~」
セエレはスプーンをくるくる回しながら言った。
「気になるなら、神官に聞いたらどうっすか?」
「神官様、非常勤で魔導院にも出てるらしいですよ~?」
レイスは一瞬手を止めた。
その顔に、“完全に起きてないのに何かに引っかかった”時特有の無表情。
「……メルクリ?」
セエレはコーンスープをすすりながら軽く頷いた。
「この前の魔導理論講座のアーカイブ見たら、エンヴィニアの地層分析とかしてましたよ」
「“あの国の詩人は、空間に言葉を彫った”とか意味わかんないこと言ってたっすけど」
アモンはジャムのフタを閉めながら、ふんわりと言う。
「言葉を彫ったって、素敵じゃない?」
「……あんたも、ちょっと気になってきたんじゃない?」
レイスは何も言わず、黙ってパンを口に運んだ。
だが次の瞬間、ガタッと椅子を引く音だけが響いた。
その背に、静かな決意がにじんでいた。
こうして、レイスは神官の講義へ向かう。
日常の隙間から、またひとつ“扉”が開かれる。
セエレはリビングでFPSを起動しながら、スマホをポンと放り投げる。
「じゃ兄弟子、気をつけて。寝たら起こさないっすよ」
レイスは服の裾を整えながら返す。
「大丈夫だ、あの糸目神官─寝落ちくらいじゃ怒らねぇ」
「寝ること前提かよ!!」
外に出ると、朝の光がまぶしい。
レイスは近くの公園を抜けて魔導院へ向かう途中─ちょうど、よく見知った連中とすれ違った。
ヴィヌスがサングラスをくいっと上げる。
「最近やたら緑が流行ってるし、まぁ“エンヴィニア”のブームでしょ。行くわよ、魔導院」
ガイウスが腕を組みながら付け加える。
「遅れて行ったらダサいしな。俺も行く」
そして。
数分後、髪型を整えてきたサタヌスが息を切らしながら合流。
「おーい!待てって!暇だし俺も行くー!!」
レイスは苦笑しつつ、肩をすくめる。
「なーんか賑やかになってきたな……」
こうして“たまたま道が同じだった”だけの連中が。
かつて文明が滅んだ場所の話を聞くために、肩を並べて歩き出した。
その先にあるのは“悲劇の講義”。
だけど今はまだ、笑い声が街角に残っている。
──魔導院・講義室
「ヤベッ、もう始まってる」
「走れー!お前が言い出したんだろコレ!!」
「ヒールで走るのやだ!!この靴6万したのよ!!」
全員がバタバタと講義室に滑り込み、
ドアを開けた瞬間、レイス以外の勇者たちが――フリーズした。
「…………は?????」
滑り込むように飛び込んだ教室の空気が、ほんの一瞬で変質した。
─理解できない。
いや、視覚情報は正しい。だが、認識が追いつかない。
視界が揺れる。脳が、停止した。
魔王軍と一緒に、机を並べて“授業”を受けるという“この現実”が。
勇者の脳内ロジックを完膚なきまでに破壊していた。
これは、もはや戦場だ。
剣よりも恐ろしい“平和”という名の暴力が。
ガイウスの勇者脳を容赦なく焼き尽くしていく。
扉を開けた瞬間、視界が歪んだ。
ガイウスの目に飛び込んできたのは。
ユピテル・ケラヴノス。雷を纏う魔王軍の筆頭が、教室最前列でポッキーを食べていた。
隣には、沈黙の死神と呼ばれるプルト・スキアが。
無表情のままノートに何かを記している。
思考が止まった。
立ち尽くすガイウスの喉から、かすれた声が漏れる。
「……なんで六将がいるんだよ……」
「先生~、講義中ポッキー食べていい~?」
「いいよ。乱闘はダメ」
メルクリウスの返答が脳内にゆっくりと流れ込む。
教室内の空気は、あまりに日常的だった。
その異常さに、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「ほら!! あんたデカいから後ろ! 行くわよ!」
ヴィヌスがヒールで床を鳴らしながら、躊躇なくガイウスの背中を連打する。
「イッテ! 叩くなよ!!」
「文句言わない、座る!」
「壊れた家電の直し方かよ……」
サタヌスがくっくと笑いながら後ろの席に滑り込む。
「高性能だけどすぐフリーズすんのよ、この勇者」
「冷却ファン死んでんだろ」
「熱暴走。つまりバカ」
「お前ら……帰ったら絶対覚えてろよ……」
そのやり取りの間にも、ポッキーを咥えたユピテルはくつろぎながら空を見上げている。
プルトはノートに“勇者、起動”とだけ殴り書いていた。
講義開始の鐘が、控えめに鳴った。
メルクリウスは黒板に背を向け、ホログラム投影機をゆるやかに起動した。
静かに、けれど確かな声が教室中に響く。
「エンヴィニアは魔界黎明期最大の国家だった」
「いや、最大“級”ではなく、文字通り“最大”そのものだったことが分かってきたんだ」
ユピテルがポッキーを咥えたまま、ぼんやりと尋ねる。
「へぇ……オスマン帝国みたいなモン?」
メルクリは首を横に振る。
静かに、しかし迷いなく。
その瞬間、天井から映し出されたのは“パンゲア大陸”の地図だった。
「いい質問だ、ユピテルくん。……だが違う」
「エンヴィニアは、魔界が7つに分離する前─まだ大陸が1つだった時代の国家だ」
指で示されたのはパンゲアの“ユーラシア”にあたる区域全体。
「その領域を、ほぼすべて領土としていた」
一瞬、教室の空気が止まる。
「…………でっけぇ!!!!?」
ユピテルの声に重なるように、後列のガイウス、サタヌス、モブ生徒全員が揃って叫んだ。
ヴィヌスがやや鼻で笑う。
「冗談でしょ……大陸ひとつ分って、地図に描けるサイズじゃないわよ」
レイスが眉ひとつ動かさずに呟く。
「そりゃ滅びたら跡形も残んねぇわけだ」
プルトは黙ってノートに一言だけ記す。
《魔界版・パンゲア。規模が狂っている》
教室に沈黙が流れたまま、ホログラムに映る緑の大地だけが静かに息づいている。
「……なぁヴィヌス、これ正気か?」
ガイウスに視線を向けられたヴィヌスは、頬に手を当て、軽く肩をすくめる。
話しかけられたことでホッと吐息をもらし、笑うように、少しだけ震える声で続けた。
「……デリンクォーラ大陸が可愛く見えてきたわ。
“ソラル最大”って聞いたときはもう驚いたのに」
「へぇ、それどの辺が“最大”だったんですかね~」
「いやマジで、比率でいったら“赤子”じゃん!?
あれだよな、赤ん坊が“俺世界一強いし!”って言ってたみたいなやつだよな!」
「所詮は比喩。“真のスケール”を見たとき、人は沈黙する」
プルトの言葉にメルクリウスはやわらかく頷く。そして、静かに告げた。
「エンヴィニアは、規模の話だけではないんだよ。
“忘れられた理由”こそが、本日の講義の核心だ」
そして、メルクリウスは静かに笑った。
「今日は、君たちが“何かを忘れていた理由”について話していく。
エンヴィニアは大きかった。だが存在しない」
講義は、始まったばかりだ。
珍しいことに、DMが来ていたのである。
「……DM?」
送り主:@KERINN_official
《こんにちは!突然すみません!
昨日の動画で使用した画像、もしかしてアナタが撮ったものでしょうか?
もしよければお話を──》
画面を見つめたレイスは、しばし無言のままソファに座り込む。
やがて、ぽつりと呟く。
「……悪ィ。俺、そういう話には乗れない」
だがそのあと、指は止まらなかった。
数秒の逡巡の後、もう一行だけ打ち込む。
「でも、あんたの声好き。よく寝られる」
《送信完了》
数分後。
画面が、明るく弾けた。
《え!?俺の声、寝れる!?》
《ありがとう!本題じゃないけどそれだけで生きられるレベル!》
絵文字は乱舞、テンションは跳ね上がり、最後の行にはこう書かれていた。
《もしよかったら、寝落ち用ラジオもやってるんで聞いてね!》
レイスはふっと笑って、スマホを伏せる。
言葉に出さず、ただ一言。
「……ほんと、喋るの向いてんなあんた」
それは小さなやり取りだった。
だけどその朝、KERINNはたぶん本気で世界一テンションが高かった。
朝食を準備しながら、アモンがふと振り返る。
そこにはスマホを見つめ、へにゃっと笑う寝ぐせだらけのレイスの姿。
その表情を見た瞬間、アモンの時間が止まった。
「かわい……ちょっと……ちょっと待って……可愛すぎて心臓掴まれた……」
エプロン姿のまま、アモンはテーブルに倒れこむように崩れる。
その背中から、小さく、しかし確信に満ちた声が漏れる。
「いい?これは私が断言するけど」
「パンダも、動物の赤ちゃんも、この世のどんな愛らしい存在も」
「うちの弟子の笑顔には、敵わないわよ」
セエレがジュースを持ちながら、ドン引きした顔で一言。
「師匠、朝から情緒ぶっ壊れてません?」
アモンは地を這うような声で返す。
「うるさい……今の笑顔は……年に数回しか見られない……奇跡の表情なのよ……」
レイスは何も知らず、そのまま動画を再生しながら二度寝しようとしていた。
朝の日差しがダラけたカーテンを透けて部屋に差し込む。
食卓にはパン、マーガリン、ジャム、そして昨日の残り物。
レイスは半目で食パンを持ち上げ、ほぼ無心でマーガリンを塗っている。
アモンは隣でジャムをのんびり広げながら、まるで近所のニュースのように言った。
「あの写真、すごかったのね~」
「動画とかもバズってたじゃない。あの子、KERINNだっけ?」
レイスはぺたり、とパンにマーガリンを増量しながら呟く。
「へぇ。マジですごかったんですね~」
「……って言いながら俺が撮ったんだけどな~」
セエレはスプーンをくるくる回しながら言った。
「気になるなら、神官に聞いたらどうっすか?」
「神官様、非常勤で魔導院にも出てるらしいですよ~?」
レイスは一瞬手を止めた。
その顔に、“完全に起きてないのに何かに引っかかった”時特有の無表情。
「……メルクリ?」
セエレはコーンスープをすすりながら軽く頷いた。
「この前の魔導理論講座のアーカイブ見たら、エンヴィニアの地層分析とかしてましたよ」
「“あの国の詩人は、空間に言葉を彫った”とか意味わかんないこと言ってたっすけど」
アモンはジャムのフタを閉めながら、ふんわりと言う。
「言葉を彫ったって、素敵じゃない?」
「……あんたも、ちょっと気になってきたんじゃない?」
レイスは何も言わず、黙ってパンを口に運んだ。
だが次の瞬間、ガタッと椅子を引く音だけが響いた。
その背に、静かな決意がにじんでいた。
こうして、レイスは神官の講義へ向かう。
日常の隙間から、またひとつ“扉”が開かれる。
セエレはリビングでFPSを起動しながら、スマホをポンと放り投げる。
「じゃ兄弟子、気をつけて。寝たら起こさないっすよ」
レイスは服の裾を整えながら返す。
「大丈夫だ、あの糸目神官─寝落ちくらいじゃ怒らねぇ」
「寝ること前提かよ!!」
外に出ると、朝の光がまぶしい。
レイスは近くの公園を抜けて魔導院へ向かう途中─ちょうど、よく見知った連中とすれ違った。
ヴィヌスがサングラスをくいっと上げる。
「最近やたら緑が流行ってるし、まぁ“エンヴィニア”のブームでしょ。行くわよ、魔導院」
ガイウスが腕を組みながら付け加える。
「遅れて行ったらダサいしな。俺も行く」
そして。
数分後、髪型を整えてきたサタヌスが息を切らしながら合流。
「おーい!待てって!暇だし俺も行くー!!」
レイスは苦笑しつつ、肩をすくめる。
「なーんか賑やかになってきたな……」
こうして“たまたま道が同じだった”だけの連中が。
かつて文明が滅んだ場所の話を聞くために、肩を並べて歩き出した。
その先にあるのは“悲劇の講義”。
だけど今はまだ、笑い声が街角に残っている。
──魔導院・講義室
「ヤベッ、もう始まってる」
「走れー!お前が言い出したんだろコレ!!」
「ヒールで走るのやだ!!この靴6万したのよ!!」
全員がバタバタと講義室に滑り込み、
ドアを開けた瞬間、レイス以外の勇者たちが――フリーズした。
「…………は?????」
滑り込むように飛び込んだ教室の空気が、ほんの一瞬で変質した。
─理解できない。
いや、視覚情報は正しい。だが、認識が追いつかない。
視界が揺れる。脳が、停止した。
魔王軍と一緒に、机を並べて“授業”を受けるという“この現実”が。
勇者の脳内ロジックを完膚なきまでに破壊していた。
これは、もはや戦場だ。
剣よりも恐ろしい“平和”という名の暴力が。
ガイウスの勇者脳を容赦なく焼き尽くしていく。
扉を開けた瞬間、視界が歪んだ。
ガイウスの目に飛び込んできたのは。
ユピテル・ケラヴノス。雷を纏う魔王軍の筆頭が、教室最前列でポッキーを食べていた。
隣には、沈黙の死神と呼ばれるプルト・スキアが。
無表情のままノートに何かを記している。
思考が止まった。
立ち尽くすガイウスの喉から、かすれた声が漏れる。
「……なんで六将がいるんだよ……」
「先生~、講義中ポッキー食べていい~?」
「いいよ。乱闘はダメ」
メルクリウスの返答が脳内にゆっくりと流れ込む。
教室内の空気は、あまりに日常的だった。
その異常さに、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「ほら!! あんたデカいから後ろ! 行くわよ!」
ヴィヌスがヒールで床を鳴らしながら、躊躇なくガイウスの背中を連打する。
「イッテ! 叩くなよ!!」
「文句言わない、座る!」
「壊れた家電の直し方かよ……」
サタヌスがくっくと笑いながら後ろの席に滑り込む。
「高性能だけどすぐフリーズすんのよ、この勇者」
「冷却ファン死んでんだろ」
「熱暴走。つまりバカ」
「お前ら……帰ったら絶対覚えてろよ……」
そのやり取りの間にも、ポッキーを咥えたユピテルはくつろぎながら空を見上げている。
プルトはノートに“勇者、起動”とだけ殴り書いていた。
講義開始の鐘が、控えめに鳴った。
メルクリウスは黒板に背を向け、ホログラム投影機をゆるやかに起動した。
静かに、けれど確かな声が教室中に響く。
「エンヴィニアは魔界黎明期最大の国家だった」
「いや、最大“級”ではなく、文字通り“最大”そのものだったことが分かってきたんだ」
ユピテルがポッキーを咥えたまま、ぼんやりと尋ねる。
「へぇ……オスマン帝国みたいなモン?」
メルクリは首を横に振る。
静かに、しかし迷いなく。
その瞬間、天井から映し出されたのは“パンゲア大陸”の地図だった。
「いい質問だ、ユピテルくん。……だが違う」
「エンヴィニアは、魔界が7つに分離する前─まだ大陸が1つだった時代の国家だ」
指で示されたのはパンゲアの“ユーラシア”にあたる区域全体。
「その領域を、ほぼすべて領土としていた」
一瞬、教室の空気が止まる。
「…………でっけぇ!!!!?」
ユピテルの声に重なるように、後列のガイウス、サタヌス、モブ生徒全員が揃って叫んだ。
ヴィヌスがやや鼻で笑う。
「冗談でしょ……大陸ひとつ分って、地図に描けるサイズじゃないわよ」
レイスが眉ひとつ動かさずに呟く。
「そりゃ滅びたら跡形も残んねぇわけだ」
プルトは黙ってノートに一言だけ記す。
《魔界版・パンゲア。規模が狂っている》
教室に沈黙が流れたまま、ホログラムに映る緑の大地だけが静かに息づいている。
「……なぁヴィヌス、これ正気か?」
ガイウスに視線を向けられたヴィヌスは、頬に手を当て、軽く肩をすくめる。
話しかけられたことでホッと吐息をもらし、笑うように、少しだけ震える声で続けた。
「……デリンクォーラ大陸が可愛く見えてきたわ。
“ソラル最大”って聞いたときはもう驚いたのに」
「へぇ、それどの辺が“最大”だったんですかね~」
「いやマジで、比率でいったら“赤子”じゃん!?
あれだよな、赤ん坊が“俺世界一強いし!”って言ってたみたいなやつだよな!」
「所詮は比喩。“真のスケール”を見たとき、人は沈黙する」
プルトの言葉にメルクリウスはやわらかく頷く。そして、静かに告げた。
「エンヴィニアは、規模の話だけではないんだよ。
“忘れられた理由”こそが、本日の講義の核心だ」
そして、メルクリウスは静かに笑った。
「今日は、君たちが“何かを忘れていた理由”について話していく。
エンヴィニアは大きかった。だが存在しない」
講義は、始まったばかりだ。
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追記2:ひとまず完結しました!
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