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chapter2_05
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「やぁ、鷹取くん。今回は一度もキャンセルせずに来れたね。何かあったのかい? ずいぶん元気そうだ」
いつもの朗らかな挨拶と共に、烏丸が尋ねる。
鷹取は予定がある日、明け方に薬物を摂取し、外出する気力を得るようになっていた。
「神様に会えたんです」
「はは、まだ寝てるのかい? でも気分が安定しているのなら、向精神薬はいらないかな?」
「はい」
「じゃあ今回は鎮痛剤だけ出しておくけど、一時的なものかもしれないから、またメンタルが悪化したらすぐに言うんだよ」
「はい……あの……いつもありがとうございます」
心が軽くなり恋愛をする余裕ができたのか、鷹取は受診のたびに自身を気にかけてくれる烏丸に好意が芽生えていた。戒律に背かぬようその気持ちには蓋をしていたが、感謝の気持ちを示すくらいはいいだろう。
「はは、どういたしまして」
少しはにかみながら礼を言う鷹取を見て、烏丸はにこやかに返す。
「あの……今度……」
「うん、今度の診察も再来月で大丈夫だよ。それじゃあお大事にね」
「え、あ……はい」
今度食事でも――そう言いかけた鷹取の言葉は、次回の診察予約となった。
鷹取は売人の男から毎度同じ薬物を買っていたが、最も望む効果――神との邂逅は、あの日以来叶わずにいた。
都度気分は軽くなれど、そもそも幻覚症状が得られないこともあり、鷹取は有効成分の含有量が問題ではないかと考えるようになった。
「もっと強いヤツはないのか?」
「ブラザー、残念だけど俺はこれしか持ってねぇんだよ。やけに品揃えがいい奴が知り合いにいるから、そいつから買えばいい」
「商売敵じゃないのかよ」
「持ちつ持たれつってやつ? 色々あんのよ」
聞けば薬物で興奮状態になった買い手が、価格を安くしろとナイフで脅してきた事があったらしい。拳銃を所持しているその同業者が割って入り、脅し返して追い払ったとの事だった。
「治安悪……」
「よくある話よ。ラリッてる奴に何言っても聞かねえしよ。護身用に持ってんだとよ」
売人同士の事情を買い手に話すほど、男は鷹取を良質の客だと思っているようだ。
「恩返しってわけ? 意外と律儀なんだな」
「借りはさっさと返したほうがいいからな」
男は肩を竦める。
「ふうん、まあいいけど。そいつ、紹介してくれよ」
「忙しいヤツだから捕まるかわかんねえけどな。ちょっと待ってな」
男はスマートフォンを取り出し、恩人だという売人に電話をかけ始めた。隠語まみれの会話をいくつか交わし、通話を終えた男が鷹取に言う。
「運がいいな。今日はこの辺にいるらしい。行こうぜ」
男が親指で進行方向を指し、二人は並んで歩き出した。
「……アンタはなんで売人やってんの?」
無言が気まずくなり、鷹取が問う。
鷹取を騙した詫びに値引きした事といい、どこか情に厚いこの男に、少し興味が湧いたのもあった。
「あー、俺ん家は親もじいちゃんもずっとこのスラムで生まれてきたからよ、他に金の稼ぎ方を知らねえ。でもよ、見て見ろよ。同じ区の中にあんなでっけえマンションが建ってて、俺らの生活を見下ろしてる。悔しいけどよ、クスリで儲けてああいうバカ高いマンションに家族で住むのが俺の夢ってわけよ」
男が視線を投げた先には、BEAKの中でも特に富裕層が住む高層マンション群があった。
「俺がここから出れば俺のベビーはいい学校に行けるし、ベビーが普通の仕事に就けば、もうその後の代は安泰だろ?」
男の恋人の腹の中には、既に小さな命が芽生えていた。
いつもの朗らかな挨拶と共に、烏丸が尋ねる。
鷹取は予定がある日、明け方に薬物を摂取し、外出する気力を得るようになっていた。
「神様に会えたんです」
「はは、まだ寝てるのかい? でも気分が安定しているのなら、向精神薬はいらないかな?」
「はい」
「じゃあ今回は鎮痛剤だけ出しておくけど、一時的なものかもしれないから、またメンタルが悪化したらすぐに言うんだよ」
「はい……あの……いつもありがとうございます」
心が軽くなり恋愛をする余裕ができたのか、鷹取は受診のたびに自身を気にかけてくれる烏丸に好意が芽生えていた。戒律に背かぬようその気持ちには蓋をしていたが、感謝の気持ちを示すくらいはいいだろう。
「はは、どういたしまして」
少しはにかみながら礼を言う鷹取を見て、烏丸はにこやかに返す。
「あの……今度……」
「うん、今度の診察も再来月で大丈夫だよ。それじゃあお大事にね」
「え、あ……はい」
今度食事でも――そう言いかけた鷹取の言葉は、次回の診察予約となった。
鷹取は売人の男から毎度同じ薬物を買っていたが、最も望む効果――神との邂逅は、あの日以来叶わずにいた。
都度気分は軽くなれど、そもそも幻覚症状が得られないこともあり、鷹取は有効成分の含有量が問題ではないかと考えるようになった。
「もっと強いヤツはないのか?」
「ブラザー、残念だけど俺はこれしか持ってねぇんだよ。やけに品揃えがいい奴が知り合いにいるから、そいつから買えばいい」
「商売敵じゃないのかよ」
「持ちつ持たれつってやつ? 色々あんのよ」
聞けば薬物で興奮状態になった買い手が、価格を安くしろとナイフで脅してきた事があったらしい。拳銃を所持しているその同業者が割って入り、脅し返して追い払ったとの事だった。
「治安悪……」
「よくある話よ。ラリッてる奴に何言っても聞かねえしよ。護身用に持ってんだとよ」
売人同士の事情を買い手に話すほど、男は鷹取を良質の客だと思っているようだ。
「恩返しってわけ? 意外と律儀なんだな」
「借りはさっさと返したほうがいいからな」
男は肩を竦める。
「ふうん、まあいいけど。そいつ、紹介してくれよ」
「忙しいヤツだから捕まるかわかんねえけどな。ちょっと待ってな」
男はスマートフォンを取り出し、恩人だという売人に電話をかけ始めた。隠語まみれの会話をいくつか交わし、通話を終えた男が鷹取に言う。
「運がいいな。今日はこの辺にいるらしい。行こうぜ」
男が親指で進行方向を指し、二人は並んで歩き出した。
「……アンタはなんで売人やってんの?」
無言が気まずくなり、鷹取が問う。
鷹取を騙した詫びに値引きした事といい、どこか情に厚いこの男に、少し興味が湧いたのもあった。
「あー、俺ん家は親もじいちゃんもずっとこのスラムで生まれてきたからよ、他に金の稼ぎ方を知らねえ。でもよ、見て見ろよ。同じ区の中にあんなでっけえマンションが建ってて、俺らの生活を見下ろしてる。悔しいけどよ、クスリで儲けてああいうバカ高いマンションに家族で住むのが俺の夢ってわけよ」
男が視線を投げた先には、BEAKの中でも特に富裕層が住む高層マンション群があった。
「俺がここから出れば俺のベビーはいい学校に行けるし、ベビーが普通の仕事に就けば、もうその後の代は安泰だろ?」
男の恋人の腹の中には、既に小さな命が芽生えていた。
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