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ファンタジー

『異世界転生、しない』(不問1 朗読)

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《不慮の事故って世の中に沢山潜んでいるよね》

《中でもね 交通殺人がちょっと死因として多すぎてね》

《その実に6割がソローネの仕業なんだけれど》

《そう 君も見たでしょう》

《目だらけの車輪のやつね》

《これがまあ 世界中の道路を走り回っているわけ》


《何故こんな話をしているかというとね》

《ソローネが引き起こす殺人は総て》

《被害者の″魂の筋書″に反してるんだよね》

《生まれてくるときに魂が持っていく運命を記した書ね》

《今 君の手に持っている本だよ そう》


《困ってるんだほんと 状況が一向に良くならない》

《この世のより善い発展のために影響値の高い人間や》

《高位になりうる運命書をもつ人間が》

《優先して狙われてるわけよ》


《それで ソローネに魂を食われた生命はね》

《ソローネを創造した神の星へ召喚されるんだけど》

《え? ああ 量子テレポート的な感じらしいよ》

《次元が違うからその星では魂が物質なんだって》

《どれだけ身体が大破していようと》

《ソローネに食われれば魂は最善の状態になる》


《難しい? そう? ならまあ一旦置いといて》

《ソローネの創造した神の世界ってのがね》

《まあ幸せで楽しくて素晴らしい世界なんだわ》

《そりゃそうだよね》

《この世のより善い発展のために影響値の高い人間》

《そんな魂ばっかり根こそぎ持っていかれちゃあ》



《それで 君の選べる選択肢は3つだ》


《ひとつめは》

《ここに留まってソローネがまた来るのを待って》

《彼岸の幸せでエキサイティングな世界へ転生する》

《最近の若者はだいたいがこれを選ぶよね》


《ふたつめは》

《この星で正当な手続きに則ってこの星で転生しなおす》

《ちょっと時空ラグが出ちゃうのが傷だね》

《過去に転生とか 知らない土地に転生とかあるから》

《でもご家族とか小さい子とか女性に人気だな》

《人の絆の縁はきらきらと光って導いてくれるから》

《大切な人とまた会える可能性がとても高いんだ》

《決して″同じ人″ではないけれどね》


《みっつめは》

《え? 蘇生?》

《それはもう無理だ 現代医学で蘇生できる技術点を》

《君の肉体は越えてしまったから》

《私? 私はさっきみたいに》

《ソローネを爆散させることしかできない》

《本当に すまない》

《君が殺される前に間に合わなくて》

《申し開く言葉も用意できない》

《すまない》



《みっつめは 私の同類になること》

《神の使徒に対抗する存在として》

《先程 私がやったようにソローネを狩って》

《この世の交通殺人をひとつでも多く防ぐこと》

《救えなかった場合は》

《被害者にこうして選択肢を提示すること》

《ソローネのやってることは拉致に等しいからね》


《この仕事は若者から中高年まで一定数ってところ》

《外見が10歳に満たない先輩もいるけどね》

《現世を生きている人の為に働く意味合いが強いね》


《自分の遺してしまった人たちを見るのが辛くて》

《地元以外で活躍する人と》

《心配だから敢えて地元を希望する人と》

《2パターンにわかれるかな 因みに私は前者だ》


《配属転勤は希望すれば大概叶うよ》

《転生しなおすのも希望すればいつでもできる》

《この星でも 彼岸でもだ》

《ソローネに負ければ食われてしまうしね》


《一通り説明できたけれど》

《さて 君は どうする?》



───



《そうかい ありがたいよ》

《特大ソローネに選ばれることはある》

《ええ? そりゃでかいよ でかかったでしょ?》

《そこに転がっているダンプを》

《縦にしたぐらいだったでしょうよ》

《大きいやつは見つけやすいんだけど》

《とにかく堅いんだ》

《だから確実に手に入れたい人間を狙ってくるんだよね》


《でも反対に極小ソローネも厄介でね》

《巧妙なんだ 拉致の手際が雑じゃない》

《どうしようもない不慮の事故を演出する》

《そして一度に沢山の命を拐っていく》

《複数で連携して狩りをする様子も報告されてる》

《一般的な乗用車のタイヤと変わらないサイズだから》

《どうしても我々の発見も遅れる》


《そうして引き起こされてしまった痛ましい出来事が》

《嘆き 憎しみ 誹謗中傷が世を満たし》

《この世の善なる発展は停滞する》

《ソローネを創造した神はこの世を憎んだ元人間だとか》

《この星の創造神の敵対神だとか噂されてるよ》

《マドカヤマ? なんだいそれ? 横綱の名前かなにか?》

《──え? 違う?》






《そうこうしている間に着いたね はい お疲れ様》

《身体中痛いだろうに無理させてごめんね》

《ここが我々のホームだよ》

《魂を癒してから 我々を管轄する神との謁見だ》

《挨拶がすんだら 君に適した狩猟武器を選んで》

《訓練ののち 私の元で実地研修を終えたら》

《独り立ちって流れだよ》


《では 教えてくれるかな》

《──君の名前を》
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