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8章 二人の不調と乗っ取り

コレットの書~不調・6~

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 で、何で2人が私の部屋にいるんだろう?
 ……状況がまったくつかめない……。

「……私は……一体……?」

「ふむ、だいぶ顔色も良くなっているし……少しは落ち着いたみたいだな。解熱と栄養剤の注射が効いてきたようだ」

「っスね」

 えっ? 注射?
 私の体に一体何があったの?

「お前は、すごい熱を出して倒れたんだよ」

 そういえばあの時、急に目の前が歪んで……え~と、それから……その先の記憶がまったくない。

「それで急いで街に戻って、マークはコレットをこの部屋に運び込んで、俺は知り合いの医者を呼びに行ったんだ」

「そう……だったんですか……」

「でだ、診断は疲労で体が弱って風邪をひいたんだと。とりあえず、処置として解熱と栄養剤の注射を打ってもらった。薬は明日俺が症状に合わせて調合したのを貰って来てやるから」

「……はい……ご迷惑を……おかけします」

 う~ん……今朝のだるさは、疲れかなとは思っていたけど……風邪までひいていたなんて。
 いや、貯水槽に落ちて水浸しになっちゃったから当然かも。

「……その顔は自覚症状があったみたいだな。まったく体調の管理も冒険者として大事な事だぞ、休む時はちゃんと休む事! 今日みたいに倒れたら意味ないだろう」

 ……まさに仰るとおりです。

「……うう……すみません……」

 結局、それで2人に迷惑をかけちゃった。
 これは反省をしないと……。

「まぁこれ以上、病人に説教するのもあれか……。とりえず起きたんだ、食べ物を口にできそうか?」

 グレイさんがパンと干し肉を出してくれたけど……。
 う~ん、今は胃が受け付けない感じ……と言うか病人にその二つを出すのもどうなのさ。

「……すみません……それは……ちょっと……」

「そうか……かと言って、このままなのもな……もう市場は終わっているから果物とかは買えないし……」

 そうだよね……何か食べた方がいいのはわかるんだけど……。
 出きれば軟らかい物か、飲み物みたいなのが……あ、そうだ。

「……すみません……そっちの袋の中に……漢方薬が……あるんですけど……神父様が……それには……栄養もあると……」

 そう、補充し忘れていた奴が……。

「結局、漢方薬かよ! まぁいいや、栄養があるなら何も口にしないよりかはましか。マーク、悪いがその中から出してくれ」

「うっス、この袋の中っスね? ――えーと……」

「……大きめのビンに……入っている……茶色の奴……です」

 そう、補充し忘れていた奴が。
 今更補充しても意味ないけどね。
 
「これっスかね? ……ん? ちょっといいっスか、コレットさん」

「……? なんですか?」

「これ、蓋の所に肩こり腰痛用って書いてあるんっスけど……」

「……………………えっ?」

 肩こり腰痛用……?

「……ほっ……他には……?」

「他? これ以外にそんな物はないっスよ?」

 えっウソでしょ?

「……あの……そっちの……袋の中は……?」

「ん? これか? ――いや、この袋は薬どころか服しか入っていないぞ?」

「……………………」

 ……となると……もしかして……私――。



 ◇◆同日同刻・コレットの村、教会内◇◆

「あたたた……」

 肩と腰が悲鳴を上げている。

「まったく、普段していないのに肉体労働をするからですよ」

「そうだよ、屋根の修理なら俺が帰ってきてからやったのに」

 昨日の嵐は酷かった、幸い負傷者はいなかったものの、村の集会所が壊れてしまった。
 この教会は屋根が少し壊れた程度で済んだのが奇跡だ……主のおかげかな?

「そうは言うが、ヘンリーは集会所の修理を手伝いに行ってヘトヘトだろう。屋根の上に登るんだからマルシアやマリー、ブレンにやってもらう訳にもいかん。それにいつ雨が降るかわからんのから放っとけん……」

 そもそも、この程度で体に痛みが来るとは思わなかったんだ。
 本当に歳は取りたくないな……まぁいい、私にはあれがある。

「マルシア、すまんが肩こり腰痛用の薬を持って来てくれないか?」

「はいはい、ちょっと待っていてくださいね」

 あの薬を飲めばだいぶ楽になるからな。

「――あれ?」

 どうしたんだ、マルシアが固まっているようだが。

「シスター?」

 ヘンリーも不思議そうな顔をしている。

「おい、どうし――」

「あなた! これを!」

 何だ、目の前に出してきたのは薬の入ったビンだが……。
 ん? 蓋に漢方薬と書いてあるな。

「これはコレットに持って行くように言った漢方薬じゃないか……まったく持っていくのを忘れていたのか? はぁ……別に漢方薬を持っていかなかったくらいで死にはせん、そんな大声を出さなくても――」

「この漢方薬があって、肩こり腰痛用の薬がないんです! あの娘、間違えて持って行っちゃったみたいです!」

「――――――――っ」

「――プッ! あははは! 姉さんらしいや!」

 コレットよ、そのおっちょこちょいを直さないと本当に命に関わるぞ。
 と言うか、私のこの肩と腰の痛みはどうしたらいいんだ!? あの馬鹿娘が!!



 ◇◆同日同刻・リリクスの宿、コレットの部屋◇◆

 漢方薬と肩こり腰痛用を間違えて持ってきちゃったわけ!?
 ああ、やっちゃった……神父様怒ってなければいいけど……。

「コレット……まさか間違えて持ってきたのか?」

「……みたい……です……」

「で、この肩こり腰痛用を飲んで、今日を乗り越えようと?」

「………………みたい……です……」

 漢方薬とばかり思っていたし、どっちも苦いから何の違和感も……思い込みって怖い。
 と言う事は何? 肩こりでも腰痛でもないのに、それを倍にして飲んでいた訳?
 そりゃ色んなの効果はないわけだよ!!

「……えーと……その……ド、ドンマイっス! コレットさん」

「あーなんだ……今日はもう寝ろ……な? 俺らも引き上げるから……」

 2人の励ましと優しさが妙に心に刺さる。

「……あい……そうします……」

 本当に何やってんのよ! 私!!
 ああ……また熱が上がりそうだわ……。
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