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8章 生活の強化

5、ろ過装置

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 すりつぶした汁、まさに濁ったドブの川の色。
 臭い、見た目からに絶対に体に良くない奴だ。
 何があっても口にしない様に注意しないとな。

「で~汁を、枝の先につけて……」

 アリサはすりつぶした汁を、何本かの木の枝の先に塗り始めた。

「後はこの辺りの、周辺に刺しておけば、獣よけの完成よ」

 枝を地面に刺して設置完了か。
 だとすればだ……。

「か、風向き次第で拠点の方に臭いがくるよね?」

「そうね」

「その場合……どうしたら?」

「そりゃ~、我慢するしか、ないわ」

 やっぱり、それしかないですか。

「荒らされるよりマシ、と思うしかないわね」

「ううっ」

 そうだけど……かといって、この臭いが襲ってくるのも辛いよ。
 食事の時に、臭いが襲ってこない様に祈るしかない。
 じゃないと、その時に襲って来たら確実にリバースする自信がある。

「じゃあ、刺してくるね」

「よ、よろしく」

 アリサは拠点から少し離れた場所に行き枝を刺し始めた。
 てか、見ているだけじゃなくて僕も手伝うか。
 僕は上がってきそうな胃液を抑える為に、水を飲もうとビンを手に取った。

「ん?」

 水の中に何か浮いているぞ。
 虫……じゃないか、この島だといないと思っていいだろうし。
 となると、葉の欠片が中に入ってしまったのかな。
 取り除けば、特に問題は無いとは思うけど……ちょっと警戒してしまうな。

「あ、そうだ」

 炭も作ったんだし、ろ過装置を作ってしまおう。
 よし、まだ日も沈まないからささっと必要な材料を集めてこよう。

「ア、アリサ……さん、その作業が終わったらやってほしい事があるんだけどいいかな?」

「ん? な~に~?」

「こ、このバムムの中に入れた炭を、枝で突いてある程度細かく砕いておいてほしいんだ」

「いいけど、リョーは、何かするの?」

「う、うん。水のろ過装置を作ろうと思うから、その材料を集めてこようと思って」

「水の、ろ過装置? リョーって、そんな物も作れるんだ。わかった、やっとく~」

「あ、ありがとう。じゃあ行って来るね」

 僕は立ち上がり、材料の調達の為に砂浜へと向かった。



 ろ過装置に必要な物は。
 ・布
 ・炭
 ・砂
 ・小石
 の4種類。

 ただ布が無いから、葉っぱで代用するしかない。
 動画で見たのは針葉樹の葉っぱ使っていて、確かこの辺りに……。

「あったあった」

 松の葉っぱみたいに生えている植物。
 代用の代用で大丈夫なのかちょっと不安だけど、これでやるしかないから回収っと。

 次に砂。
 これは簡単、砂浜の砂を拾うだけ。
 ビンの半分くらい回収すればいいかな。

 最後は小石。
 これは沢で簡単に回収できる。
 さっき来たところなのに、また沢に行く羽目になるとはな……。

 まぁろ過装置に使う材料は全部綺麗に洗っておかない。
 汚れたままだと、ろ過装置に水を入れても汚れたままになってしまうからな。
 だから、どの道になるか。

 葉っぱは千切れない様に気を付けて洗って、小石は手のひらに包んで小石と小石をこすり合わせて洗う。
 砂はビンの中に水を入れてよく振る。
 そして、砂が出ない様に気を付けながら水を捨てる。
 これを何回か繰り返して、水が透明になったら完了っと。
 で、濡れたままだと使いにくいから乾かさないといけない。
 満遍なく広げて天日干しだとなると時間がかかるから、土器の中に入れて火であぶって水分を飛ばしてしまおう。
 量が多いと無理だけど、ビンの半分くらいの量ならそれで行けるはずだ。

「よし、拠点に戻るとするか」



「あ、おかえり~」

「た、ただいま……」

 臭いのおかげで、すぐ拠点の場所が分かった。
 そして、同時に近づきたくない気持ちにもなってしまった。
 これなら獣よけとして効果は十分ありそうだ。

「炭、こんな感じで、いいかな?」

 バムムの中を覗き込むと、大きさに多少のばらつきはあるものの炭は綺麗に砕かれていた。
 炭が大きいと入れた時に隙間が出来て、そこから汚れた水が流れてしまってうまくろ過が出来ない。
 でも、この大きさなら問題ないだろう。

「う、うん。これで良いよ」

 僕もさっさと砂を乾かすとしよう。
 土器に洗った砂を入れて……かまどの上に置いてっと……。

「えっ! 夕御飯、砂なの!? うち、遠慮しとく……」

「へ? あっ! たっ食べないよ! 砂を早く乾かせる為に、火であぶって水分を飛ばそうしているんだよ」

「そう、いう事か~うちは、てっきり……ん? ねぇねぇ、今日の夕ご飯って、ミースルの汁だったよね?」

「の、予定だけど……?」

「砂をいれた、その土器で、作るの?」

「……あっ」

 砂を乾かす事で頭がいっぱいだったから、それを考えていなかった。
 とはいえ、砂を入れちゃったからもうどうしようもないぞ。

「……だ、大丈夫! この砂は綺麗に洗ったから! ちゃんと土器は洗うから!」

「うん……わかった」

 これは失敗した。
 思った以上に、土器の使い道が多いな。
 今回は仕方ないけど、これからはちゃんと用途に分けて使わなければ。

 砂の水分を飛ばし終えたら、土器から出して粗熱をとる。
 その間に、ろ過装置の器作りっと。
 まずは、いつもの様にバムムの下に葉っぱを被せて底を作る。
 で、葉っぱの中心辺りに小さな穴を空ける。
 この穴からろ過された水が流れ出てくるわけだ。

 器が出来たら、その中に材料を順番に詰め込んでいく。
 1番目は布。
 ……は無いので、松の様な葉っぱを多めに入れて敷き詰める。
 2番目は小石。
 出来る限り小さ目の小石を敷き詰める。
 3番目は砕いた炭。
 炭はろ過において重要だから多めに入れて、ギュウギュウに詰める。
 4番目は砂。
 砂も同様に隙間なく詰め込む。
 5番目は松の様な葉っぱ。
 砂を蓋するような感じで敷き詰める。
 6番目は小石。
 2番目より大きいサイズを入れて重石にする。

 気を付けないといけないのが、入れた水が溜まる様に上の部分の隙間を空けておく事だ。
 でないと、水が溢れてろ過できないからな。

「最後に吊るせるように、器に蔓を結べば……完成!」

「……」

 あれ、なんかアリサの反応がいまいちだな。

「これで、本当に水、綺麗になるの?」

 なるほど、疑っているわけね。
 そう思うのも仕方がないか。
 正直、僕も初めて作ったから自信が無いし。

「じ、実験をしてみようか」

 僕はろ過器を低い位置にある枝に吊るし、その下に空き瓶を置いた。
 そして、土を入れて泥水にした水をろ過装置へゆっくりと流し込んだ。

「………………? 水、出てこないよ」

「す、すぐには出てこないよ、もう少し待てば出て……おっ!」

 空けた穴からポタポタと水が出てきた。
 ちゃんとろ過されているかな。

 しばらくたつと、空き瓶の中に水が溜まって来た。
 透明とは言えないけれど、最初に入れた泥水よりははるかに綺麗になっているぞ。

「お~……確かに、綺麗には、なっているけど……まだ、濁っているね」

「い、1回じゃ駄目なんだ。3~4回ほどすれば綺麗になるよ」

「ふ~ん……なんか、時間もかかるし、面倒だね」

「うっ……」

 僕もそう思った……いや、そうじゃないだろ僕!

「き、綺麗な水は生きる為に重要なんだから、この位の事で根を上げてどうするのさ」

 そう! サバイバルにおいて水は必要不可欠。
 それも綺麗な水ほどよい。
 だから、この程度の事は我慢が必要だ。

「確かに、そうだけど……今まで、普通に沢の水、飲んでいたから、説得力ないよ?」

「…………」

 僕は聞こえないフリをして、黙ってろ過装置に泥水を入れ続けるのだった。
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