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第2章 無人島の日々

15・温泉

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 うーん……罠1つだけだと捕獲の確率はかなり低いよな。
 他の所にも仕掛けた方がいいか。
 よし、ここは手分けして他の足跡を探そう。

「ここ以外にも罠を設置したいと思いますので、二手に分かれて足跡を探しましょうか」

「そうですね」

「は~い。ベルル姐さん、トモヒロ、うちらはあっちに見に行ってみよう」

「うん、いいわよぉ」

『ウホッ』

 ユキネさんとベルルさんは西の方へと入って行った。
 なら、俺等は2人とは反対側に行くとするか。

「じゃあ、私達はこっちに行ってみましょ」

「はい」

 足跡もそうだけど、他に新しい発見があればいいな。



「ふぅ~」

 足元を見つつ、森の中を進むのは楽じゃない。

「お嬢様、お疲れのようならわたくしがおぶりますが……」

 そうしてもらおうかな。
 ……いやいや、無人島生活は体力が必要になる。
 この位で根を上げてどうする。
 これも筋トレのうちだ。

「ありがとう。でも、大丈夫よ」

「そう……ですか……」

 ケイトが悲しそうな顔をしている。
 なぜそうなのかは察しがつくが……。

「……ん?」

 地面からうっすらと煙が出ている場所があるぞ。
 火事って感じでもないし……どういう事だろう。
 俺は恐る恐る煙が出ている所へと近寄った。

「……これは……」

 地面からじゃない、水たまりから煙が出ているぞ。
 ……水たまり……煙……あっこれって、もしかして!
 俺は人差し指を水たまりの中へと入れてみた。

「やっぱり!」

 水たまりはほんのりと温かかった。
 俺の思った通りだ。

「? お嬢様、その水たまりがどうかしましたか?」

「これ、お湯よ」

「お湯……っ温泉ですか!?」

 俺もびっくりだ。
 まさか、こんなところで温泉が湧いているなんて思いもしなかった。
 という事は、あの山って火山だったのか。
 俺達がいる間に噴火とか絶対にやめてくれよ。

 まぁそれは置いておいてだ。
 温泉が湧いているという事はやる事は1つ!

「ケイト! みんなをここに呼ぶわよ!」

「はい!」



「本当だぁ~お水が温かいわぁ」

「この島って暖かいけど、水浴びは辛かったんよ……お湯を浴びれるなんて夢みたいやわ!」

「一々お湯をすくって体にかけるというのは時間がかかるので、トモヒロに穴を掘ってもらって溜めてその中に入るというのでいいですかね?」

「異議はありません」

「うちもそれでええで」

「わたしもぉ」

「それじゃあ……このくらいの幅でいいかな?」

 温泉が湧いている部分を中心として、1畳分より少し小さいくらいの円を地面に描いた。
 温泉は大量に出ているわけでもなくしみ出す程度だ。
 大きい穴だと溜めるのに時間がかかってしまう。
 けど、このくらいの穴ならそこまで時間はかからないだろう。

「トモヒロ、この円の内側を掘ってくれる?」

『ウホッ!』

 トモヒロが地面を掘ると変わらずお湯が染み出してきている。
 これなら問題はなさそうだな。

「じゃあ私達は大き目の石を探しましょうか」

「石? 何に使うん?」

「穴の周りに積んで、お湯を逃げにくくしようと思います」

「なるほど、じゃあ沢に行くんやな?」

「はい。トモヒロ、後はよろしくね」

『ウホッ』

 俺達は沢と温泉の場所を何回か往復して石を運び、トモヒロが掘ってくれた穴の周りに積んでいった。
 ただ俺はというと体力が無さ過ぎて、途中でぶっ倒れる醜態をさらしてしまったが……。



「よいしょっと……このくらいでいいんじゃないでしょうか」

 みんなの頑張りで小さいながらもお湯に浸かれるほどの温泉場所が作れた。

「うん、みんなありがとう。石の準備も出来たし、後はお湯が溜まるのを待つだけね」

 休憩していた俺は焚き火をおこし、その中に拳より大き目の石を5個焼いていた。

「石を焼いてぇどうするのぉ?」

「溜まった温泉の中に入れます。ぬるかったので、焼けた石を入れてお湯の温度を上げるという訳です」

 こういった直火が出来ない状態の時に使う方法の1つだ。
 石焼き鍋だったかな?
 現実世界でも鍋の中に焼けた石を入れて作る料理も存在する。

 しばらく待っていると、下半身入浴が出来るくらいの量が溜まって来た。
 みんなで入ると丁度いいくらいの量になりそうだ。
 まぁ泥でだいぶ濁っているけど、泥湯温泉っていうのもあるし大丈夫だろう……タブン。

「火傷をしない様に焼けた石を入れて……」

 焼けた石をお湯の中に入れると、ジュウワアと蒸気と音を立てて温泉を温め始めた。
 手を温泉の中に入れてみると、まだちょっとぬるい気もするけどこれで十分だろう。

「……よし、みんなで入りましょうか」

「はい!」

「やった~!」

「お湯、楽しみだわぁ~」

 俺は服を脱ごうと手をかけ……止めた。

「…………?」

 なんだ、この突き刺すような視線は……?
 ふとケイトの方を見るとジーっと睨みつけていた。
 横にいたベルルさんも同じように睨みつけている。
 その睨みつけている視線を追うと、鼻の下を伸ばすトモヒロの姿があった。

『ウホォォォ……』

 視線の主はお前かよ。
 いやさ、俺も中身は男だからお前の気持ちはわかる。
 が流石にそんな堂々とこっちを見るなよ。

「3人ともどないしたん? 早く入ろうや」

 ユキネさんは躊躇いも無く服を脱ぎ始めた。

「ユキネ様、ちょっと待って下さい! 今服を脱いではいけません!」

「え? なして?」

 ユキネさんが不思議そうな顔をしている。
 なんでって、トモヒロの顔を見れば……まさか……。

「もしかして、ユキネさんってトモヒロと一緒にお風呂に入っているんですか?」

「? そやけど……」

 やっぱりか。

「そうだったのぉ……でもぉトモヒロちゃんとは今は駄目よぉ」

「え? なんでトモヒロはあかん……」

「駄目なものは駄目なのッ!!」

 ベルルさんが大声をあげて目を見開き、ユキネさんの両肩を掴んだ。

「ヒッ!」

 ユキネさんがめちゃくちゃ怯えちゃっているよ。
 こればかりは仕方ないな。

「……トモヒロ、ちょっとだけ我慢してね……」

 俺は布を、ケイトは無言で蔓を手に取った。

『ウホッ! ウホウホ!』

 それを見たトモヒロは何をされるのか即理解した様で、ユキネさんに救いを求める様な声をあげた。

「……ううう……ごめんな……トモヒロ……」

 ユキネさんがトモヒロから目を逸らし、顔を下に向けた。
 トモヒロの絆より恐怖の方が勝ったようだ。

『ウホッ!? ウホオオオオオオオオオ!』



 あー……やっぱり温泉に入るのは気持ちいい。
 泥の感触がちょっと気になるけど些細な事だな。

「ん~……気持ちいいわねぇ」

「そうですね~」

「はい、生き返るようです」

「……」

 ん? ユキネさんがベルルさんを睨んでいるぞ。
 トモヒロがあの状態にされて怒っているのかな。

『モガモガモガ!』

 トモヒロは布で目隠しと猿ぐつわをされ、木に蔓でぐるぐる巻きに縛られている。
 可愛そうではあるが……仕方がない事だからユキネさんに声をかけておくか。

「あのユキネさん、そんなに怒…………むっ?」

 よく見たら睨んでいるのはベルルさん自身じゃない。
 湯にプカプカと浮いているベルルさんの2個の小玉メロンに対してだ。
 ユキネさんって俺と同じくらいの大きさだし、あの睨んでいる時の眼を考えると……。

「……ん? アンちゃん、今なんか言うた?」

「あっいえ……なんでもないです」

 これに関して触れないでおこう。
 その方がいい……絶対に……。

 女性陣の楽しげな声とトモヒロの悲しそうなうめき声が森の中を響き渡り、この日は終わっていくのだった。
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