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3章 虚構の偶像

説得

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「ジョージ、情報は確かなんでしょうね?」
「ああ、俺をビリーブしろミーカ」

 ジョージとミーカ
 第8等星パーチ出身の貧乏シーフ二人組は、ひょんなことから解放軍トップクラスの整備士カルーセと出会い、オンボロであったクライドンの改造と引き換えにヱラウルフ奪還を命じられていた。

 だが、奪還しようと砂漠に降り立った所でジャルールにコテンパンにやられたのを切っ掛けに、カルーセ指示のもと、ジョージの乗る改造クライドン『ロード』の性能向上のため、資金調達を兼ねた海賊業を再会させていたのである。

 この日、ジョージとミーカはファイゴ宙域から抜けた間抜けな商人を相手にしようと、近宙域をうろついていたところに、微かではあるがジャルールの回線から通話が漏れてきたのである。
 ジャルールと直接交戦したジョージだけが『ロード』からその会話を盗み聞く事が出来た。
 現在、大急ぎで再度ミュールの砂漠地帯へ向かっている最中である。

「随分と機械っぽいボイスだったが、俺は確かにリッスンしたんだ」

 ジョージの言うところによると、ヱラウルフとジャルールは模擬戦の最中に盛り上がった結果お互いに中破してしまったらしい。
 緊急でメンテナンスをしているが、今、敵に襲われるのは非常に不味いという独り言のような内容だったようだ。

「それが本当なら、私達、幸運の女神がついてるわね」
「ああ、日頃のムーブが良かったんだろうな」

 ジョージもミーカもニヤけ顔が止まることはない。
 最高級の素材がほぼノーリスクで手に入れられるゲームなど、現実では滅多にないからである。

「オープン回線で自分のピンチをひけらかすなんて、とんだプア野郎だぜ」

 とどめとばかりに、ジョージはジャルールのパイロットを侮辱し自身を高揚させた。

 そうこう言っている内に、砂漠地帯が目下に拡がりはじめた。
 2人はピラミッド付近の映像をズームする、すると確かにコックピットが中破しているヱラウルフがモニターに映し出された。

「ジョージ、対象が見えたわ。それにしてもジャルールが見つからないわね」
「俺もロケーション出来ないな、ただ反応はあるし、ひょっとしたら砂漠に埋もれてるのかもな」

 マナの屈折率を変え、透明に近い状態のジャルールが既に背後に回っているのを彼等はまだ知らなかった。

「ジョージ、ピラミッドのお宝も回収したら何したい?」
「そうだなぁ、久しぶりにファイゴにある『ヨコハマホーム』のヌードルでも食いに行くか!」

「良いわね! 私は煮卵もトッピングしようかしら」
「グレイト、じゃあ俺は大盛りで小ライスセットだ!」

「餃子と半チャーハンも捨てがたいよな」

「「そうそうそうそう! …………はえ?」」

 突然会話に参加した知らない声の主を確認すべく、ジョージ達は間抜けな声を出して振り向く。
 そこにはジャルールが仁王立ちし、既にマナを剣状態にして無数にジョージ達へと突きつけられていた。
 ジョージ達の装備では、既にどうあがいてもチェックメイトなのは明白であった。

「盛り上がってる所悪いが、従って貰う。怪我をさせるつもりはない」

「……OK。降参だ」
「もうッ!!」

 冷たい声で命令を下すサンドに対し、抵抗の無駄さを察した2人は大人しくそれに従う。
 彼等がご馳走を食べられる日を、サンドはほんのちょっぴりだけ願うことで労った。

ーーーーーーーーーー

「というわけで、お前等は捕まったわけだが」

「シット! ミーカには手を出すなよ」
「ふん、覚えてなさいよ!」

 ピラミッド付近に着陸後、ジャルールから出てきたのが少年だったので驚いたジョージは、チャンスとばかりに反撃に出ようとした。
 しかし少年のが発する言葉に全身が強制されるのと、無数の奴隷達に取り囲まれた事で再度抵抗の意思をなくしたのであった。
 現在彼等は後ろ手に縛られ、ピラミッド内部の集会所の地面に座らされている。
 目の前にはサンドとクリス、そしてチャムがいる。

「宇宙船ノ調達アリガトウゴザイマス」
「その声は……シット! 全部そのおもちゃの仕業かよ!」

 何故ジャルールが動いているのか?
 何故自分の無線に通信が都合よく入ったのか?
 おおよその予想がついたジョージは思わず舌打ちをする。

「卑怯よ! 全くフェアじゃないわ」
「まさかマミー取りがマミーになっちまうなんてな」
「騙サレルホウガ悪ナノダ……フハハハハハ」

「チャム、どっちが悪人か分からないわよ」

 クリスはノリノリのチャムに突っ込みを入れる。
 おおよそ呪詛に近い暴言をジョージ達から浴びせられるが、ある程度落ち着いた所でジョージは本題に入る。

「俺達に何をする気だ?」
「宇宙船をちょっぴり借りるだけよ」

「信用出来ないわ」
「別に私は信用されなくても構わないわよ」

 こういった自分が優位な場合の交渉ごとに関しては、大人達に囲まれジャルールやジェイZを完成させたクリスに一日の長があった。
 すっかりクリスのペースで話は進んでいく。

「交換条件って程じゃあないけど、私達に協力したらあのクライドンの改造を手伝ってあげるわよ」
「おい、それはリアリーか?」

「本当よ、あのジャルールは私が作ったんだから」
「信用出来ないわ」

「はぁ? これ以上何を望むのよ?」
「貴方の言ってることは本当でしょうね。でも私は嫌なのよ」

 ミーカの感情丸出しの全拒否にクリスは辟易する。
 クリスは技術者や科学者などのタイプであればその天才性から有無を言わさず論破出来るが、感情論だけで生きている者には通用しないのである。

 するとそこに、モニター越しであるがフェルミナが参戦してきた。

「お兄さんお姉さん、お話聞いてほしいです」
「おいおい、子供がいるのか?」
「あらかわいいお嬢さんね」

 そしてフェルミナは語った。
 自身の境遇、そしてこの砂漠で行われていた惨劇、自分達に取り付けられた爆弾を取り除くにはジョージ達の協力が必要不可欠であると拙いながらも一生懸命に説明をした。

 最初は眉唾に話を聞いていた2人だが、そこから聞こえる話に涙ぐむクリスやウノ、ブローノの様子に次第にこの現実離れした話が本当のことだったのだと知り、じっくりとフェルミナの話に耳を傾けた。

「ーーというわけなのです。お兄さん、お姉さん、助けてほしい。です」

 フェルミナが言い終えると、ジョージとミーカは向き合い、ゆっくりと頷く。
 そして、サンドの方に目線を配った。

「少年、いやサンド、縄を解いてくれないか」

 危険は承知であるが、サンドには二人がここから抵抗をするとは考えにくかったため、言われるがまま縄を解いた。
 ジョージとミーカは互いに自由を確かめると、再度サンドへ向き直した。

「俺はジョージ、んでこっちはミーカだ。で、俺達は何をすればいい?」

 この勝負、フェルミナの一人勝ちであった。
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