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4章 轗軻不遇の輪舞曲
緊急家族会議
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「聞いてもらいたい事がある」
ファラクはリビングに家族を集め、全員が揃ったと同時に立ったまま自身に注目を寄せた。
カタリナ、アリサ、ビッキーにレオはそのファラクの様子に只事では無いであろうと言う事実だけを察し、ファラクの次句をじっと待っていた。
「──と言う訳だ。私はロバートを助けたいと思っている。全国放送で私が罪を被るつもりだ」
ファラクは全員に経緯と解決策を報告した。
ロバートと言う聞き慣れない人物の名前が出た事で、カタリナ以外の面子は頭上に『?』を浮かべてしまっている。
一方カタリナは、少し難しい顔をしてファラクをじっと見据えていた。
「ファラク様、その、ロバート様? という方は知りませんが、私達に何が出来るのでしょうか?」
アリサが先頭だってファラクに質問をぶつける。
ファラクはアリサの目を見つめ、心苦しい様子で息を整えていた。
「私以外の全員、他の星に移住して貰いたい」
「え? それはどういう?」
ファラクの発言に、アリサ、ビッキー、レオは思わず目を丸くし、今自分達が聞いた発言が信じられないという表情でファラクを見返した。
カタリナは少しだけ首を振り、ただ無言で少し目を瞑っていた。
「言った通りだ。ロバートの罪は元は私の罪でもある。私がケジメをつけなくちゃならんのでな」
「それでも、他の星に移住ならばファラク様もご一緒に……」
「いいや、私は逃げては行けない。きっと私は警察に身柄を拘束されるだろう。それに、家族に迷惑はかけれない」
「そんな……」
ファラクは全ての罪を自分で被るつもりでいた。
これが1番良い解決方法だと確信していたのである。
ただ、残された家族に迷惑はかけまいと移住を提案した。
それが、ファラクのケジメであり覚悟だった。
そこに、無言を貫いていたカタリナがとうとう喋りだした。
「ふむ、移住したとして、家族である証拠は覆せない。つまりそれは離婚しろと言う事か?」
「そうだ。形式的とは言え、縁を切らないといけないと思っている」
「ファラクはそれで良いのか?」
「……すまないと思っている」
ファラクの返答は、会話としては成立していなかった。
ただその苦しそうなファラクの表情で、カタリナ達はその返答を答えとして受け取ったのである。
直後、カタリナは少し口元を緩ませながら席を立った。
「ふむ、ファラクよ。その提案は受け入れられないな」
「カタリナ、分かってくれ」
「だが断る」
カタリナは何故か満足そうな顔でファラクに言い放った。
きっと、人生で一度は言ってみたかった台詞なのだろう。
「ファラク、何か勘違いしてるようだが、私がファラクを残して離れる訳ないだろう? 馬鹿にしてるのか?」
「違うんだカタリナ。そうしないと、犯罪者の家族として見られてしまう。私はそれを望んではいない!」
「うるさい。しつこい。嫌なものは嫌だと言うのだ」
「わ、私も嫌です!」
「ウチも嫌ニャの」
「レオも嫌なの」
「うう……」
カタリナ達の拒否を超えた何かを真っ直ぐに受け止めたファラクは、言葉にならない呻きを挙げる以外のボキャブラリーを持っていなかった。
それは極めて喜びに近い感情であるが、同時に自分の愚かな行動に家族を巻き込む事を戸惑うものであった。
絶妙な沈黙がファラク邸を包み込む中、意外な人物の登場で事態は再度動き出す。
「先生、その話詳しく聞かせて貰えませんか?」
「!! ステブか? どうしてここに?」
「ふむ、不法侵入だが、まぁ許そう」
突然現れたステブにファラクは驚きの声を挙げる。
カタリナは誰かが来た事は察していたが、敵意が感じられなかったので放置していたのである。
ステブはカタリナに簡単な謝罪をし、カタリナがそれを受け入れると、再度ファラクと向き合った。
「先生、罪を被るおつもりで?」
「ああ、これが最善……とは思わないだろうが、私はやるつもりだ」
「すみませんが、俺には理解出来ません!」
「だろうな。だがやるんだ」
こういった所は夫婦そっくりだなと、率直にステブは感想を抱いた。
自分の尊敬する人物がこれ程の覚悟を決めているのである。
従う以外にステブは取る行動は無かった。
「分かりました。先生の意見を尊重します。ただ、かなりきな臭い状況であると言う事は分かってください?」
「どういう事だ?」
「知り合いの新聞記者が行方不明なんです。何でも、『とんでもないスクープを手に入れた』と喜んだ直後にです」
「今回のロバートはその記者が?」
「すみません、それは分かりません。が、そこまで大きくないこの孤島で行方不明と言うのは何か嫌な予感がします。それに──」
ステブはちらりとアリサを流し見た。
それはアリサに対する些細な配慮であったが、アリサはいつにも増して真剣な表情を浮かべていたため、子供扱いをするのをステブはやめる事にした。
「アリサを買ったライアンという男ですが、奴は昨日酒場で『でかい案件をやる』と周囲に宣っていたという話を情報筋から貰いました」
「ライアンはSAMPなのか?」
「恐らくは……」
ステブはそこまで言い終えると、ファラクに「それでもロバートを助けますか?」と問いかけたが、一瞬の沈黙の後、ファラクはそれでも助けるとの意思表示をした。
「ふむ、そんな雑魚などどうでも良いだろう。さっさと実行に移すぞ。ま、何をするかは分からんがな。ハハハ!」
「そうニャ。姉さまは奥様以外には負けないニャ」
カタリナとビッキーの脳天気ぶりに、その場の空気は少しだが和む結果となった。
緊張の糸が解れる前にステブはファラクに向き合い、問題を煮詰める事にした。
「ところで先生、放送というのは何処でやるんですか?」
「まだ結論は出していないが、SAMPが関わる危険性がある以上、ここでやるしか無いとは思っている」
「でしたら伝説広場で行いましょう。あそこであれば見通しも良く何かあっても対応出来ます」
「ふむ、ステブ中々良いぞ。グッドアイデアだ」
カタリナが太鼓判を押した事で、この案で進むことが決定した。
「ふむ、ではビッキー、レオ。ファラクを守ってくれ。私とアリサはここに残る」
「分かったニャ。泥舟に乗ったつもりで任せるニャ」
「ビッキー、ベタすぎるなの」
ビッキーとレオは元気良く返事を返すが、居残り組に指名されたアリサは少し解せない表情をした。
「あのー、奥様は広場に行かれないのですか?」
「私はシチューでも作って待ってるさ。この家は任せておけ。万が一があってもアリサはあのゼロージでどうにか出来るだろう?」
カタリナの意見に全員が納得したところで、この緊急家族会議はお開きとなった。
「では先生。私はツテを頼って伝説広場に簡易ですが会場を設置します。昼前には出来るかと」
「何から何まですまない。本当にありがとう」
それぞれに散った家族を見たファラクは、失いたくない物を遠くで見るような錯覚に陥っていた。
『失いたくない……か』
自分に後悔は無い。あるのは自分の我儘で家族に迷惑をかけてしまっている罪悪感であるとファラクは考えていた。
『俺も、かっこつけなきゃな』
何があっても、誇れる自分を見せることが家族への贖罪であるとファラクは信じ、その時を待った。
──────────────
「もしもし。ジンバか?」
「ああ、先生はどうだった?」
ファラク邸を後にしたステブは、鼠獣人のジンバへと連絡を取った。
ステブはファラクの『覚悟』と、広場での演説を指示すると、ジンバは了解と準備を手伝う事を了承した。
「ところでステブ、今のSAMPの頭領が分かったぜ」
「本当か!?」
「そうだ。兎獣人のジョシュてのがそれだ」
「なぜそれを?」
「新聞記者のカレンちゃんが消えたのは知ってるな?」
「あいつが取引してた相手がミゴールって奴なんだが、何かにつけてジョシュって人物を褒めてたらしい」
「それでは決定打にかけないか?」
「まぁ最後まで聞けや。ジョシュってのを調べたんだがよ。やっぱり誰も知らねえし引っかからねえんだ。一人を除いてな」
「誰か割ったのか?」
「ライアンだよ。あの馬鹿にしこたま酒飲ませたら、割ったんだ。信憑性はあると思うぜ」
「でかしたジンバ。後はこっちで何とかする」
「すまねえな。こんな事しか出来なくてよ」
ジンバとの会話を終えたステブは、準備を進める間に自分も家族と話す機会を得なければならないと考えた。
『俺も覚悟を決めるか』
ステブは手にじわりと滲んだ汗を拭い、一旦自宅へと戻った。
ファラクはリビングに家族を集め、全員が揃ったと同時に立ったまま自身に注目を寄せた。
カタリナ、アリサ、ビッキーにレオはそのファラクの様子に只事では無いであろうと言う事実だけを察し、ファラクの次句をじっと待っていた。
「──と言う訳だ。私はロバートを助けたいと思っている。全国放送で私が罪を被るつもりだ」
ファラクは全員に経緯と解決策を報告した。
ロバートと言う聞き慣れない人物の名前が出た事で、カタリナ以外の面子は頭上に『?』を浮かべてしまっている。
一方カタリナは、少し難しい顔をしてファラクをじっと見据えていた。
「ファラク様、その、ロバート様? という方は知りませんが、私達に何が出来るのでしょうか?」
アリサが先頭だってファラクに質問をぶつける。
ファラクはアリサの目を見つめ、心苦しい様子で息を整えていた。
「私以外の全員、他の星に移住して貰いたい」
「え? それはどういう?」
ファラクの発言に、アリサ、ビッキー、レオは思わず目を丸くし、今自分達が聞いた発言が信じられないという表情でファラクを見返した。
カタリナは少しだけ首を振り、ただ無言で少し目を瞑っていた。
「言った通りだ。ロバートの罪は元は私の罪でもある。私がケジメをつけなくちゃならんのでな」
「それでも、他の星に移住ならばファラク様もご一緒に……」
「いいや、私は逃げては行けない。きっと私は警察に身柄を拘束されるだろう。それに、家族に迷惑はかけれない」
「そんな……」
ファラクは全ての罪を自分で被るつもりでいた。
これが1番良い解決方法だと確信していたのである。
ただ、残された家族に迷惑はかけまいと移住を提案した。
それが、ファラクのケジメであり覚悟だった。
そこに、無言を貫いていたカタリナがとうとう喋りだした。
「ふむ、移住したとして、家族である証拠は覆せない。つまりそれは離婚しろと言う事か?」
「そうだ。形式的とは言え、縁を切らないといけないと思っている」
「ファラクはそれで良いのか?」
「……すまないと思っている」
ファラクの返答は、会話としては成立していなかった。
ただその苦しそうなファラクの表情で、カタリナ達はその返答を答えとして受け取ったのである。
直後、カタリナは少し口元を緩ませながら席を立った。
「ふむ、ファラクよ。その提案は受け入れられないな」
「カタリナ、分かってくれ」
「だが断る」
カタリナは何故か満足そうな顔でファラクに言い放った。
きっと、人生で一度は言ってみたかった台詞なのだろう。
「ファラク、何か勘違いしてるようだが、私がファラクを残して離れる訳ないだろう? 馬鹿にしてるのか?」
「違うんだカタリナ。そうしないと、犯罪者の家族として見られてしまう。私はそれを望んではいない!」
「うるさい。しつこい。嫌なものは嫌だと言うのだ」
「わ、私も嫌です!」
「ウチも嫌ニャの」
「レオも嫌なの」
「うう……」
カタリナ達の拒否を超えた何かを真っ直ぐに受け止めたファラクは、言葉にならない呻きを挙げる以外のボキャブラリーを持っていなかった。
それは極めて喜びに近い感情であるが、同時に自分の愚かな行動に家族を巻き込む事を戸惑うものであった。
絶妙な沈黙がファラク邸を包み込む中、意外な人物の登場で事態は再度動き出す。
「先生、その話詳しく聞かせて貰えませんか?」
「!! ステブか? どうしてここに?」
「ふむ、不法侵入だが、まぁ許そう」
突然現れたステブにファラクは驚きの声を挙げる。
カタリナは誰かが来た事は察していたが、敵意が感じられなかったので放置していたのである。
ステブはカタリナに簡単な謝罪をし、カタリナがそれを受け入れると、再度ファラクと向き合った。
「先生、罪を被るおつもりで?」
「ああ、これが最善……とは思わないだろうが、私はやるつもりだ」
「すみませんが、俺には理解出来ません!」
「だろうな。だがやるんだ」
こういった所は夫婦そっくりだなと、率直にステブは感想を抱いた。
自分の尊敬する人物がこれ程の覚悟を決めているのである。
従う以外にステブは取る行動は無かった。
「分かりました。先生の意見を尊重します。ただ、かなりきな臭い状況であると言う事は分かってください?」
「どういう事だ?」
「知り合いの新聞記者が行方不明なんです。何でも、『とんでもないスクープを手に入れた』と喜んだ直後にです」
「今回のロバートはその記者が?」
「すみません、それは分かりません。が、そこまで大きくないこの孤島で行方不明と言うのは何か嫌な予感がします。それに──」
ステブはちらりとアリサを流し見た。
それはアリサに対する些細な配慮であったが、アリサはいつにも増して真剣な表情を浮かべていたため、子供扱いをするのをステブはやめる事にした。
「アリサを買ったライアンという男ですが、奴は昨日酒場で『でかい案件をやる』と周囲に宣っていたという話を情報筋から貰いました」
「ライアンはSAMPなのか?」
「恐らくは……」
ステブはそこまで言い終えると、ファラクに「それでもロバートを助けますか?」と問いかけたが、一瞬の沈黙の後、ファラクはそれでも助けるとの意思表示をした。
「ふむ、そんな雑魚などどうでも良いだろう。さっさと実行に移すぞ。ま、何をするかは分からんがな。ハハハ!」
「そうニャ。姉さまは奥様以外には負けないニャ」
カタリナとビッキーの脳天気ぶりに、その場の空気は少しだが和む結果となった。
緊張の糸が解れる前にステブはファラクに向き合い、問題を煮詰める事にした。
「ところで先生、放送というのは何処でやるんですか?」
「まだ結論は出していないが、SAMPが関わる危険性がある以上、ここでやるしか無いとは思っている」
「でしたら伝説広場で行いましょう。あそこであれば見通しも良く何かあっても対応出来ます」
「ふむ、ステブ中々良いぞ。グッドアイデアだ」
カタリナが太鼓判を押した事で、この案で進むことが決定した。
「ふむ、ではビッキー、レオ。ファラクを守ってくれ。私とアリサはここに残る」
「分かったニャ。泥舟に乗ったつもりで任せるニャ」
「ビッキー、ベタすぎるなの」
ビッキーとレオは元気良く返事を返すが、居残り組に指名されたアリサは少し解せない表情をした。
「あのー、奥様は広場に行かれないのですか?」
「私はシチューでも作って待ってるさ。この家は任せておけ。万が一があってもアリサはあのゼロージでどうにか出来るだろう?」
カタリナの意見に全員が納得したところで、この緊急家族会議はお開きとなった。
「では先生。私はツテを頼って伝説広場に簡易ですが会場を設置します。昼前には出来るかと」
「何から何まですまない。本当にありがとう」
それぞれに散った家族を見たファラクは、失いたくない物を遠くで見るような錯覚に陥っていた。
『失いたくない……か』
自分に後悔は無い。あるのは自分の我儘で家族に迷惑をかけてしまっている罪悪感であるとファラクは考えていた。
『俺も、かっこつけなきゃな』
何があっても、誇れる自分を見せることが家族への贖罪であるとファラクは信じ、その時を待った。
──────────────
「もしもし。ジンバか?」
「ああ、先生はどうだった?」
ファラク邸を後にしたステブは、鼠獣人のジンバへと連絡を取った。
ステブはファラクの『覚悟』と、広場での演説を指示すると、ジンバは了解と準備を手伝う事を了承した。
「ところでステブ、今のSAMPの頭領が分かったぜ」
「本当か!?」
「そうだ。兎獣人のジョシュてのがそれだ」
「なぜそれを?」
「新聞記者のカレンちゃんが消えたのは知ってるな?」
「あいつが取引してた相手がミゴールって奴なんだが、何かにつけてジョシュって人物を褒めてたらしい」
「それでは決定打にかけないか?」
「まぁ最後まで聞けや。ジョシュってのを調べたんだがよ。やっぱり誰も知らねえし引っかからねえんだ。一人を除いてな」
「誰か割ったのか?」
「ライアンだよ。あの馬鹿にしこたま酒飲ませたら、割ったんだ。信憑性はあると思うぜ」
「でかしたジンバ。後はこっちで何とかする」
「すまねえな。こんな事しか出来なくてよ」
ジンバとの会話を終えたステブは、準備を進める間に自分も家族と話す機会を得なければならないと考えた。
『俺も覚悟を決めるか』
ステブは手にじわりと滲んだ汗を拭い、一旦自宅へと戻った。
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