聖女を巡る乙女ゲームに、いないキャラクターの神子(私)がいる。

木村 巴

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神子は三度目覚める

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 私が目覚めた時の衝撃は一言では言い表せない……



 まずに目覚めたのは、真っ白な部屋だった。私以外に人は居ない白い空間にいて、そこで私は何年間か過ごしていた。

 数年か数十年かは、わからない。長い時間そこで身体を回復している様だった。意識がはっきりしてから、自分の姿を確認した時は本当に神様っているんだわ! と泣いて喜んだ。


 年は17~18歳くらい。黒い髪は胸の下まであり、まっすぐストレート。何年間も、ただ寝ていてお手入れもしていないのにも関わらず艶々していた。瞳も同じく真っ黒で、黒目部分が大きく可愛いらしい。黒目がちな分、実年齢より少し幼く見えてしまう感じだろう。そして、透き通る程の白い肌に、そこそこの胸。唇は小さくぷるんと赤い。鼻は小ぶりで形がよかった。

 美少女である事以外は、私の理想通りの容姿だった。


 以前の私は日本人の父親とヨーロッパ系の母親を持つハーフだった。そのため私自身は、日本生まれ日本育ちの完全な日本人のつもりだったけれど、容姿は完全に外国人だった。

 髪はブロンドで波打ち、瞳は薄いブルー。肌は白く周りが驚く程のお人形の様な美少女だった。

 今思えば、あの男の子達は私の事が好きだったのだろう。子供特有の『好きな女の子には意地悪したくなる』というやつだ。しかし、外人だとか気持ち悪いだとか、言われ続けた私は傷ついて泣いてばかりいた。
 更に悪い事に人形の様な容姿に、小学生にして既に胸はEカップはあった私は、変態やストーカーにつけ回される様になっていた。

 そう変態でなくとも、知らない人に勝手にスマホで写真をとられる事も多くなっていたため、怖くて外に一人では出られなくなってしまっていた。
 出かける際に毎回、父や母に付き添って貰わなければならない事も、だんだん私の心に負担になっていた。
 外出するたびに集まる他人の視線。
 そして異性からの性的な視線。
 同性からの意地悪な視線。


 中学校にはほとんど行けず、私は引きこもりになっていた。唯一の友人には残念美少女と呼ばれていた。私もそう思う。


 だから私は、普通になりたかったのだ。


 黒髪、黒目で普通の皆と同じ女の子に憧れていた。そして、学校に通ってお友達と遊んで、勉強したり、部活をしたり、恋をしたり……それが夢だった。


 実際は学校にも行けず、外にも行けず、家でゲームしたり、本を読んだり、友人はネットの中で交流するだけ。そんな17歳になっていた。

 そんな私の夢を叶えてくれるのは、乙女ゲームだけだった。普通の女子高校生が異世界転移して、イケメンと恋に落ちたりするのが好きだった。そんな時は私も普通の女子高校生になれたから。


 でも一番好きだったのは、やはり一番最初にハマった初期の乙女ゲーム。ライバルと聖女を目指して頑張る中で、王子様や騎士様に手伝って貰ううちに恋が芽生えるというものだ。今の流行りの様に、悪役令嬢がいたり断罪したりフルボイスだったりしないけれど、最初にハマったせいか大好きだった。リメイクして、フルボイスでスチル増やして欲しい。ただ、昨今の流行りではないから、諦めてはいたけれど……ね。


 この際、美少女なのはしょうがないけれど、普通の美少女になれた! と、とても嬉しかったのに……





 に目覚めたのは、私のうっかりによってか、女神様によってなのかは、はっきりわからないが……この世界に降りてきた時だった。

 ただ私は女神様に会ったことはないが、一度目の白い部屋に居るときに女神様の存在は
 そして勝手に、女神様を今世での母親の様に思っていた。会った事も見た事も、ましてや話した事も無いのにだ。


 しかしそれよりも衝撃を受ける事があったのだ!


 それはこの世界で目覚めて、カラフルな髪の毛や瞳の人達を見た時の、私の絶望が誰かにわかって貰えるだろうか! いやない!


 むしろ、以前の私の容姿の方が美人の侍女くらいのレベルで目立たなかったんじゃないか。私は何度生まれ変わっても、その世界でなんだろうかと、ショックでその日は眠れなかった。


 周りの人達はこの世界に突然おりてきて混乱していると思った様だが、まだ他の世界に降りたという実感もなくただ、「私」という異分子に私自身が馴染めずにひとりで狼狽えていただけだ。

 今、私の周りにいるのはこの世界の美形ばかりであるが、とにかく色が派手過ぎて目がチカチカする。様々な色があっても黒髪・黒目は居ないらしく、黒髪・黒目は神子の特徴らしい。過去に降りてきた神子の血をひいていても、どちらかの特徴しか持って生まれないらしいのだ。
 最初に会ったが黒髪だったから、そんな世界だと気づかなかった。私も彼も異質なのだ。



 そして乙女ゲームだと気づき失神して、に目覚めた。


「ああ! 良かった!! 神子様! 目覚められたのですね!」


 目覚めた私に慌てて近寄ってきたのは、この世界で私の身の回りの世話をしてくれている侍女のベロニカだ。

 20歳くらいに見えるが、17歳の同じ年だ。萌葱色の髪をきっちり編み上げていて、濃い茶色の瞳は強い意思を感じる。大人っぽく、とても親切で……なにより同じ年だとわかってからは、周りに人がいなければ友達の様に接してくれる大切な人だ。


「ベロニカ心配をかけてごめんなさい。今はまだ話せないけれど、考える事が出来て混乱しただけなの。」



 とにかく今はひとりでゆっくり、この世界について考える時間が欲しかった。




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