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番外編 聖女の場合7
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「やだ、もう来た。早すぎる……」
と言う私の心からの嘆きは、二人には通じないようだ。
神官長様はやはりニコニコしていて、ヘンリー様を止める気は無いようだ。
朝日が眩し過ぎる……爽やかな風も、眠い私の身体に刺さるようだ。目覚ましにはなったけどね。
いったい、どこへ連れて行かれるのかと思っていたが『祈りの間』だった。
複数人で入るのは初めてだったので驚いた。そしてどんな理由があろうとも『祈りの間』に他人と入るのを皆嫌がるのだ。
私の表情に出てしまっていたのか、ヘンリー様は少し困った様な表情をして言った。
「私は新人神官の教育担当もしていますので慣れているので平気ですよ」
そんな訳無い事くらい、私ですら分かる。
基本的に祈りの間には申請した一人でしか入らない。それは地方の神殿でも王都の神殿でも同じだった。女神様との心の会話というか、自分の心の中に入られる様な感覚だと思う。平気な人はいないんじゃないかな……。
今回の申請者はヘンリー様だ。
だから、私達はヘンリー様の心の中をむやみに覗いている事になる。でも、それだけ何か伝えたいんだと、静かに頷いてからその様子を見ていた。
「それでは始めます」
ヘンリー様の神力が部屋に充ちる。神力も本人の気配が色濃く出るんだなぁ~なんて思っていたら、あの例の光の珠が二~三個くるくる周りながら、降りて来た。すごい! ヘンリー様自在にあの珠を呼べるんだな~なんて感心して見ていた。
「すごいじゃろ? アレは神官何人かで同時に祈り、ひとつ召喚出来るか出来ないかじゃ。神官一人で呼べるのは今はリオンとヘンリーと儂くらいじゃろなぁ~」
この三人は神官の中でトップクラスだ。特にリオン様は五~六個は余裕でいけるらしい。あれ? 神子様って無数の珠に囲まれてたよね? すごっ!
「では、昨日の裏庭に移動しましょう」
くるくるまわる光の珠を纏うヘンリー様が振り向く。うん。綺麗。なんか、光を纏って美しさが増してる。でもあれ? 前に見たリオン様の祈りの後の姿はあんなに色っぽかったのにな~祈りの後がみんな色っぽい訳じゃないのか。残念~。
「また何かおかしな事を考えていますね」
はぁ~とため息をつきながら、歩き出していた。
……ヤバいバレてる。何故だ。
裏庭に着くと今度は光の珠に向かって浄化の祈りを捧げる。しばらくすると浄化の光が辺り一面に広がって……消えた。
すごい事をしてるのは、私でも分かる。かなり神力を使うのか、流石のヘンリー様も辛そうだ。肩で息をして、話す事も出来ない。
代わりに神官長が説明してくれた。
浄化の仕事はまずベテラン神官二~五人で光の珠を召喚して、皆で交代しながら光の珠を維持して森へ向かう。
障気のある場所まで数日かかる時もあり、珠を維持する神力が足りなくなると困るので、それに合わせて神官の人数も増えて行くらしい。
そして、やはり全員で神力を合わせて浄化をする。
神力が無くなると動けなくなる神官もいるため、何人もの護衛が必要な事。
そもそも障気の森は危険なので、神官を守る護衛がたくさん必要な事。
そう。昨日の説明で、私がちゃんと分かってなかった為に見せてくれたのだ。これがどれだけ大変な事かを。
今ヘンリー様がした事を、何人もの神官で呼び出し、何人も護衛がつき、護られ移動して神力で珠を維持して、浄化する。
そう。説明されても、どれだけ大変でどれだけ危険なのか、私にはよく分かってなかった。
だから、ヘンリー様にこんな大変な事をさせてしまった……本当に私は分かってない。でも、やっとわかった!
「わかりました! 私! 珠に浄化の力を込めて打ってみたらいいんですよね!」
すると二人に、初めて本当の笑顔で頷いて貰った。
ただ……そこからは地獄だった。
昨日は初回特典(?)だったのか、今日はボール打ちたいと言っても珠は現れてはくれなかった。
『祈りの間』で祈り、二~三個の珠を身体に纏い、そこから維持するのも神力が思った以上に必要だった。
初めての時は、裏庭に行く途中で維持出来ずにひとつの珠は消えていた。
そして浄化の力を込めて打つのは更に難しかった。初日は力を込めて打てずに終わっただけでなく、その後に動けなくなって医務室まで運ばれてしまった……
そこから毎日が特訓だった。
だんだん神力のコントロールも体力もつき、召喚出来る光の珠の数も増えて浄化の力を打ち込む事が出来る様になっていった。
更に他の神官が召喚した珠も打てる事に気づくと、浄化の力を込めて打つ事にだけに集中する方が効率良いと気づいて、ヘンリー様や他の神官達と王都近くの森に向かって打ち込む練習を続けた。
私の浄化には、ベテラン神官のカイル様と若いが神力の強めなライアン様がついてくれる事が多くなった。二人は神官にしては体育会系で、珠を上手くボール出ししてくれる。打ちやすいのだ。
成功率が上がったので、森の規模が比較的小さい東の森で実践を行う事になった。ヘンリー様とカイル様とライル様の四人で行く事に決まった。
森に入らないので、護衛も一人だけ。
東の森に一番近い街の神殿で祈り、珠の召喚を果たすとすぐに街の外へ出て、森に向かって浄化を打ち込む。
最近はかなりの確率で浄化の力を込める事が出来ていた。小さな森はあっという間に浄化が終わり、危険も感じる事なく初めての実践を終えた。
これには街や神殿だけでなく、国をあげて喜ばれた。
私はこの半年間、毎日この訓練に明け暮れていた。毎日修行に明け暮れている私を、神官のみんなが応援してくれたり、召喚に付き合ってくれたり……とっても充実していた。
浄化が上手く行えるようになると、何人かとパーティーを組んで国中の森へ浄化に向かった。
もちろん、森の奥へは踏み入れられないので、森の奥や障気が魔障になってしまっている所は、神子様やリオン殿下にお願いしていたが……私達でやれる所は浄化してまわる事が出来ていた。
街でも、みんなに声をかけられる様になった。こん棒の聖女と子供に言われる事もあったけど、それすらも誇らしく感じていた。
一番嬉しかったのは、生まれ故郷の村の近くに来た時だ。小高い丘の上から、森の奥へ届く様に浄化を行っていた。丘の上から、私の故郷が見えた。私があの村の役にたつ事ができたと、喜びを感じた。
浄化が終わった頃に、私の両親と兄、弟が丘の近くまで来てくれていた。……母は、村でも仕事もせず怠惰な私が聖女に成れなくて泣いて帰ってくるんだと思っていたらしい。うん。あのままなら、確実にそうだよね。
私は……この世界の家族の暖かさを感じた。いままで何で分からなかったんだろう。当たり前に愛情を受けすぎて、気づけなかった。
私は立派な聖女になるよ。
そう家族に告げると、一番最初に父が泣いた。
困って振り向くと、いつも怖い顔のヘンリー様が見たことの無い笑顔で頷いてくれた。
その後は、もちろん私もイザベラも聖女になって、毎日忙しくも充実した日々を送っている。
私は国中を浄化して回っていて、この世界を見てまわる事がとても楽しくて、満足だ。
……? 恋愛? ……どうかな? あはは。私は、もちろん高確率で一緒に浄化に同行してくれるヘンリー様に私が落ちたけど……
ヘンリー様は、どうなのかな? 元々の印象が悪すぎるから(自業自得だけど)分からない。でも、ヤンキーが子猫ちゃんを助けたりするとキュンとしちゃうみたいに、印象最悪な私にキュンとしてくれないかな~なんて……期待してもいる。
でもそれだけじゃない。
私は毎日ここで歩いている。
と言う私の心からの嘆きは、二人には通じないようだ。
神官長様はやはりニコニコしていて、ヘンリー様を止める気は無いようだ。
朝日が眩し過ぎる……爽やかな風も、眠い私の身体に刺さるようだ。目覚ましにはなったけどね。
いったい、どこへ連れて行かれるのかと思っていたが『祈りの間』だった。
複数人で入るのは初めてだったので驚いた。そしてどんな理由があろうとも『祈りの間』に他人と入るのを皆嫌がるのだ。
私の表情に出てしまっていたのか、ヘンリー様は少し困った様な表情をして言った。
「私は新人神官の教育担当もしていますので慣れているので平気ですよ」
そんな訳無い事くらい、私ですら分かる。
基本的に祈りの間には申請した一人でしか入らない。それは地方の神殿でも王都の神殿でも同じだった。女神様との心の会話というか、自分の心の中に入られる様な感覚だと思う。平気な人はいないんじゃないかな……。
今回の申請者はヘンリー様だ。
だから、私達はヘンリー様の心の中をむやみに覗いている事になる。でも、それだけ何か伝えたいんだと、静かに頷いてからその様子を見ていた。
「それでは始めます」
ヘンリー様の神力が部屋に充ちる。神力も本人の気配が色濃く出るんだなぁ~なんて思っていたら、あの例の光の珠が二~三個くるくる周りながら、降りて来た。すごい! ヘンリー様自在にあの珠を呼べるんだな~なんて感心して見ていた。
「すごいじゃろ? アレは神官何人かで同時に祈り、ひとつ召喚出来るか出来ないかじゃ。神官一人で呼べるのは今はリオンとヘンリーと儂くらいじゃろなぁ~」
この三人は神官の中でトップクラスだ。特にリオン様は五~六個は余裕でいけるらしい。あれ? 神子様って無数の珠に囲まれてたよね? すごっ!
「では、昨日の裏庭に移動しましょう」
くるくるまわる光の珠を纏うヘンリー様が振り向く。うん。綺麗。なんか、光を纏って美しさが増してる。でもあれ? 前に見たリオン様の祈りの後の姿はあんなに色っぽかったのにな~祈りの後がみんな色っぽい訳じゃないのか。残念~。
「また何かおかしな事を考えていますね」
はぁ~とため息をつきながら、歩き出していた。
……ヤバいバレてる。何故だ。
裏庭に着くと今度は光の珠に向かって浄化の祈りを捧げる。しばらくすると浄化の光が辺り一面に広がって……消えた。
すごい事をしてるのは、私でも分かる。かなり神力を使うのか、流石のヘンリー様も辛そうだ。肩で息をして、話す事も出来ない。
代わりに神官長が説明してくれた。
浄化の仕事はまずベテラン神官二~五人で光の珠を召喚して、皆で交代しながら光の珠を維持して森へ向かう。
障気のある場所まで数日かかる時もあり、珠を維持する神力が足りなくなると困るので、それに合わせて神官の人数も増えて行くらしい。
そして、やはり全員で神力を合わせて浄化をする。
神力が無くなると動けなくなる神官もいるため、何人もの護衛が必要な事。
そもそも障気の森は危険なので、神官を守る護衛がたくさん必要な事。
そう。昨日の説明で、私がちゃんと分かってなかった為に見せてくれたのだ。これがどれだけ大変な事かを。
今ヘンリー様がした事を、何人もの神官で呼び出し、何人も護衛がつき、護られ移動して神力で珠を維持して、浄化する。
そう。説明されても、どれだけ大変でどれだけ危険なのか、私にはよく分かってなかった。
だから、ヘンリー様にこんな大変な事をさせてしまった……本当に私は分かってない。でも、やっとわかった!
「わかりました! 私! 珠に浄化の力を込めて打ってみたらいいんですよね!」
すると二人に、初めて本当の笑顔で頷いて貰った。
ただ……そこからは地獄だった。
昨日は初回特典(?)だったのか、今日はボール打ちたいと言っても珠は現れてはくれなかった。
『祈りの間』で祈り、二~三個の珠を身体に纏い、そこから維持するのも神力が思った以上に必要だった。
初めての時は、裏庭に行く途中で維持出来ずにひとつの珠は消えていた。
そして浄化の力を込めて打つのは更に難しかった。初日は力を込めて打てずに終わっただけでなく、その後に動けなくなって医務室まで運ばれてしまった……
そこから毎日が特訓だった。
だんだん神力のコントロールも体力もつき、召喚出来る光の珠の数も増えて浄化の力を打ち込む事が出来る様になっていった。
更に他の神官が召喚した珠も打てる事に気づくと、浄化の力を込めて打つ事にだけに集中する方が効率良いと気づいて、ヘンリー様や他の神官達と王都近くの森に向かって打ち込む練習を続けた。
私の浄化には、ベテラン神官のカイル様と若いが神力の強めなライアン様がついてくれる事が多くなった。二人は神官にしては体育会系で、珠を上手くボール出ししてくれる。打ちやすいのだ。
成功率が上がったので、森の規模が比較的小さい東の森で実践を行う事になった。ヘンリー様とカイル様とライル様の四人で行く事に決まった。
森に入らないので、護衛も一人だけ。
東の森に一番近い街の神殿で祈り、珠の召喚を果たすとすぐに街の外へ出て、森に向かって浄化を打ち込む。
最近はかなりの確率で浄化の力を込める事が出来ていた。小さな森はあっという間に浄化が終わり、危険も感じる事なく初めての実践を終えた。
これには街や神殿だけでなく、国をあげて喜ばれた。
私はこの半年間、毎日この訓練に明け暮れていた。毎日修行に明け暮れている私を、神官のみんなが応援してくれたり、召喚に付き合ってくれたり……とっても充実していた。
浄化が上手く行えるようになると、何人かとパーティーを組んで国中の森へ浄化に向かった。
もちろん、森の奥へは踏み入れられないので、森の奥や障気が魔障になってしまっている所は、神子様やリオン殿下にお願いしていたが……私達でやれる所は浄化してまわる事が出来ていた。
街でも、みんなに声をかけられる様になった。こん棒の聖女と子供に言われる事もあったけど、それすらも誇らしく感じていた。
一番嬉しかったのは、生まれ故郷の村の近くに来た時だ。小高い丘の上から、森の奥へ届く様に浄化を行っていた。丘の上から、私の故郷が見えた。私があの村の役にたつ事ができたと、喜びを感じた。
浄化が終わった頃に、私の両親と兄、弟が丘の近くまで来てくれていた。……母は、村でも仕事もせず怠惰な私が聖女に成れなくて泣いて帰ってくるんだと思っていたらしい。うん。あのままなら、確実にそうだよね。
私は……この世界の家族の暖かさを感じた。いままで何で分からなかったんだろう。当たり前に愛情を受けすぎて、気づけなかった。
私は立派な聖女になるよ。
そう家族に告げると、一番最初に父が泣いた。
困って振り向くと、いつも怖い顔のヘンリー様が見たことの無い笑顔で頷いてくれた。
その後は、もちろん私もイザベラも聖女になって、毎日忙しくも充実した日々を送っている。
私は国中を浄化して回っていて、この世界を見てまわる事がとても楽しくて、満足だ。
……? 恋愛? ……どうかな? あはは。私は、もちろん高確率で一緒に浄化に同行してくれるヘンリー様に私が落ちたけど……
ヘンリー様は、どうなのかな? 元々の印象が悪すぎるから(自業自得だけど)分からない。でも、ヤンキーが子猫ちゃんを助けたりするとキュンとしちゃうみたいに、印象最悪な私にキュンとしてくれないかな~なんて……期待してもいる。
でもそれだけじゃない。
私は毎日ここで歩いている。
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