花咲姫のしあわせ〜国から棄てられる?こっちが棄ててやるんだから!〜

木村 巴

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 バルバドスの使者・前 アレックス

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 未だ雪の積もる庭園の植栽から、ドサリと音をたてて雪が落ちた。外は寒さ厳しいが、確かに日差しは春を感じさせる。厳しい冬の時期が終わったのだ。

 鍛錬でまだ汗ばむ身体をタオルで拭い、着替えを手に窓へ近寄って外を眺めた。


 今年も何とか冬を越えた。越す事が出来て安堵する気持ちと、越す事が出来なかったであろう民達の事を考えると辛い気持ちがごちゃ混ぜになる。


 これから、各地域から死者数やその他の被害状況の報告があがってくるだろう。
 春の訪れが嬉しいのと同時に苦しくもあった。実際に国王である父はいつでも苦しそうだ。

 国全体の事は父に任せて、自分の仕事をしなくては。これ以上、国を疲弊させる訳にはいかない。春は魔獣の動きも活発になってくる。
 軍を編成し、今後の魔獣の動きをみて討伐隊を組んでいかねばならないだろう。姉を含む兄弟達全てが各々軍を編成し国の為に戦っているのだから。



 朝の鍛錬が終わり、今から今年度の国営会議が入っているので気が重い。といっても、今日の会議は地方領主などはおらず、王を始めとする家族が中心で伯父である宰相や軍関係者という、いわば身内同然の者達で、ある程度今年の方針を決めていくというものだ。

 毎年憂鬱だ。ここで兄弟の割振りが決まるのだから……

 帝国軍との共同討伐は気を使うのでなるべく避けたい。まぁ、俺には不向きだから回ってこないとは思うが……。
 後は国外魔獣討担当と国内魔獣討伐担当、そして一番避けたい各国への食料支援対策担当だ。

 ここ数年は姉が引き受けてくれていたが、そろそろ姉の我慢も限界だろう。交渉帰りの姉が「あ”ー暴れたい!」と笑顔で鍛錬場に現れる時は、死を覚悟した時と似たような恐怖を毎回味わう。
 実際に鍛錬に付き合わされ、ひどい目にあった。姉はキングデビルか何かの生まれ変わりだろう。

 ちなみに昨年は、姉が食料支援対策担当で、兄が国外魔獣討伐担当。俺が国内魔獣討伐担当で弟が帝国軍共同討伐担当だった。



 憂鬱だとばかり言ってはいられないので、気合いを入れて軍服に着替え会議室に急いだ。


 会議室には既に、ほとんどの出席者が揃っていた。
 身内ばかりなので、変に気を使わなくていいのが助かる。自分の席に座ると横の兄さんがクシャリと笑う。

「なんだアレックス、ギリギリまで鍛錬か。今日は俺達だけだから気負うな」
「……いや、そんなんじゃない」

 確かに他の領主達が来ていると、気を使うが流石に今日は大丈夫だろ。ただ担当決めが嫌なだけだ。向かいの席から姉さんが机に肘をついたまま、ニヤニヤしている。


「そうよ~疲れてたら私の相手が居なくなるじゃない。あんた、後でまた鍛錬に付き合いなさいよ~あ、兄さんでもいいよ?」
「はは、今日の担当決め次第だな」
「あー私はもう、支援担当は無理! また担当なら兄さん変わってよ」
「いや、こればっかりは王の判断だからな……流石に今年は俺かバスティンになるだろう」
「ええー僕ですか? 去年の帝国相手も嫌だったけど、支援担当が一番いやだ。あー今年は僕なのかな~」

「俺が担当する訳にいかないからな。すまん」
「まぁ小兄が悪い訳じゃないけどさーただ嫌なだけー」

 両腕を後ろに組んで、チェッとふて腐れたポーズだけをとる弟は、横に座る姉に揶揄われている。


 奥の扉から宰相を伴った王が入室すると、例え家族ばかりとはいえピリッとした空気が流れる。
 全員がサッと立ち上がり最敬礼で王を迎える。


「皆、楽にせい。厳しい冬を乗り越え、春を祝おう」

 我国で一般的な新年の挨拶を終えた後は、皆一気にくつろいで話し始める。力を合わせないと生きていけない環境にあるせいか、わが王族はみな仲が良い。
 父王と伯父である宰相が二言三言話した後、俺に向かって話しかけた。


「夏にあった、東の領土にある穀物地帯の魔獣被害があったのを覚えているか」
「はい、私が討伐に向かったのでよく覚えています。例年にない程のヘルハウンドの群れが大量発生した案件ですよね?」

 あのままいけば、ケルベロスまで出現していたかもしれないと思うと、本当に肝を冷やした案件なので、よく覚えていた。
 スタンピードとかでは無くて本当に良かった。

「ああ、アレクサンダーがかなり力を入れて討伐をしてくれていたから、領民に大きな被害もなく収束したな。だが、時期が悪かった。
 東のあの一帯は我国でも数少ない農作物の作れる地域であろう。それが収穫期前に……よりにもよって炎を操るヘルハウンドだ」

 姉が大きく息をのむ音が聞こえる。確かに人的被害は少なかったものの、その後の田畑や建物への影響は炎で燃やされているとなると厳しいものがある。


「今年は例年よりも食料支援が必要となるだろう」

 もう、会議室は水を打ったように静かだ。


 そんな沈黙を破ったのは王だった。


「宰相の言う通り、今年は例年以上に厳しい事となるであろう。アレクサンダーのおかげで、被害は最小限ではあったが、食料はどうしようもない。なので、今年は例年と違い宰相も一緒に食料支援対策担当に当たって貰う。そのため、アレクサンダーと宰相は二人がかりで対応するように」

 よいか、と念押しされたが拝命以外の選択肢はない。

 そこからの会議の内容は、正直あまり記憶にない。


 会議終了後、宰相室に伯父と並んで歩いていく。



「まあ、おもてだっての交渉は私に任せなさい」
「伯父上、しかし……」
「いい機会じゃないか。いざという時に、お前のそれは武器にもなるし、こういった経験がいつ必要になるか分からんからな」

 ニヤリと悪人面で笑う伯父は、なんだか楽しそうだった。

「私はお前にも世界をみて欲しいんだよ。お前の容姿に囚われない人もきっといる」
「そう……でしょうか……」

 俺の容姿は先代の王である祖父に瓜二つだ。これは、バルバドス王家になぜか定期的に現れる特徴で親にその要素が無くても、黒髪に紅い眼で生まれてくる。一種の呪ではないかと思う。
 その代わり、魔力も身体能力もずば抜けて高いのが特徴だ。
 でも、誰がこの魔獣の様な容姿を見て好意を持ってくれると言うのだ。祖父だって、一生一人で生きていた。
 私もきっとそうなるだろう。

 現王である父は、祖父の妹の子供だ。正確には俺にとって、祖父は大叔父なのだが……子供も家族も持てず、ただひたすら国の為に戦った、この国の英雄。いや、俺に言わせれば犠牲者、それが祖父だ。
 祖父は父王にとっても父であり、俺にとっても祖父であり家族なのだと、あえて祖父と呼んでいた。
 まあ、同じ容姿を受け継いだ俺に対する愛情と同情は人一倍だったとも思う。

 兄弟達や親戚は普通に接してくれるし、俺は恵まれている。


 だが、一歩外に出ると駄目だ。


 俺の容姿について知っているはずの国民ですら、恐怖で固まり、泣き叫んで逃げだす者もいる。

 愛情どころか友情すら厳しい。


 同じ部隊で戦う仲間はかなり慣れているので、信頼もしているし比較的平気そうに見えるが……隠していても、瞳の奥に見える恐怖は隠しきれていない。

 だから大丈夫だと、俺も兄弟の家族を家族として大切にしていこうと決めている。


「伯父さん大丈夫。……今回は勉強させて貰います」

 まだ何か言いたそうな伯父を部屋に残して、また鍛錬場に向かった。

 身体を動かしたくてしょうがない。

 きっと、姉が相手してくれるだろう。
 鍛錬の後は、何も考えずにただ眠りたかった。





 こうして本格的な春が始まると、積極的に交渉に乗りした。


 基本的には宰相と王子として、行動するが俺の容姿は説明の手紙を先に送付してあるため、大きな問題は……そんなに起こってない……よな?

 まあ「マントをして他国の王族の前に出るとは何事だ」と怒鳴った王子の前でマントを脱いだら、恐怖で失禁したのは……いいよな?

 これくらいなら。これはあいつが悪い。

 でも、そのおかげで相手国がビビリまくった。
 その国の魔獣をほんの少し討伐しただけで、かなりの食料支援が得られたので…………結果、良しとしよう。
 俺への恐怖もあっただろうけど、悪い顔した伯父が宰相としてキッチリと交渉していた。


 まあ、国際問題だからしょうがない。

 いい仕事出来て良かった。










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