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約束
しおりを挟む「ここは……?」
気がつくと、私は客間の一室にいるようだった。
身体が驚くほど軽い。植栽の中で意識を失っていた時に見た人だろうか。
そうだ、この人がきっと助けてくれたのね。
楽になった身体を起こし、その人を見ると驚いたのか固まっている。あ……勢いよく起きすぎちゃったかも。
貴族の前でこんな動きしたら驚くよね。
それに、王女だって信じて貰えなくなっちゃう。それは困る!
「あの! お兄さんがさっき助けてくれた人ですよね! えっと、あの! ありがとうございます!!」
二人とも、なんだか呆然としている。
ああ、勉強した淑女教育はこんな時に全然出てこないのだと、身を持って実感した。前世の記憶が強すぎて、こんな風な突飛な事態には役に立たないとわかった。素しか出てこない。
でも、ここで引かれても、引き下がる訳にはいかない! だって、このお兄さん知らない私を助けてくれるくらい、いい人だもん。
バルバドス国の人にめっちゃ好印象!
やっぱり、この国に行くしかない!
「あの、完全に怪しいとは、思うんですけど、いや、怪しい者じゃないんです。ただ、バルバドス国の人達に会いたくて……あ、お兄さんバルバドスの人だったりします?」
急にここまで来てバルバドス国の人じゃなかったら、と心配になったが……そうだと、頷いてくれたのでバルバドスの人なんだろう。
そうなんだと、良かった~と安心していたら、恩人さん(?)が真剣な顔をしている。
「その、君は、俺が怖くないのか?」
なんでこのお兄さんが怖いのだろう。マジマジと見つめてみると、まあ綺麗すぎて怖いって言ってる訳じゃなさそう。キレイだけど。
腕とか肩とかに傷があるから? 貴族は傷とか気にするもんね。私は元の記憶があるから傷は傷でしょ? くらいの感覚だけど、王侯貴族には違うみたいだもんね。わかるよ!
……なんか違いそうだな。
あ! おっきいから? 私、今子供だもんね。確かに子供は怖がりそう。
「……怖くないですよ?」
そう言うと恩人さん(?)は「そうか」といいながら、ほころぶ様に笑った。
イケメンめ! 殺す気か! イケメンの幸せそうな笑顔の破壊力よ。
前世大学生には……こうかはばつぐんだ。
ダメダメ。正気に戻って。イケメンはゲット出来ないのよ。激レアだから。
私は今、はっさい。
恩人さん(?)がバルバドスの国の人なら、交渉相手を知っているかも?
「それでは、なぜ王女様が植栽の中で倒れていたのかお伺いしても?」
突然扉の方から声が聞こえて、身体が飛び上がる程に驚いた。ええ~人がいたの?? 本当に気が付かなかった。どうしよう。怖い。助けて恩人さん(?)。と、お兄さんの袖を掴む。
すると、二人がビシリッっと目を見張って固まった。
………………えっと、ダメ……だった?
そぉ~っと、手を離そうとしたら、今度は恩人さん(?)が手を繋いでくれた。ありがとう。優しい。
感謝を込めて微笑んでみせると、今度はバッと振り向いて扉の前の人と何やらアイコンタクトをとっている。
なんだろう? 危険人物だと思われていたのかな? これは誤解を解かなくては。
「あの、バルバドス国からの使者様にお会いしたかったんです。出来れば紹介していただけないでしょうか」
「ええと、まぁ、それは大丈夫ですが……それは何故かと伺っても?」
ちらっと恩人さん(?)をみると、ブンブンと頷いている。
「えっと、お二人はこの国の王族について詳しいですか?」
「はい。私は、バルバドスの宰相ですから」
ええ!! 驚いたけれど、私の会いたかった使者さんだった!
「では……ギフトについても?」
「過去に公表されているものだけであれば、多少は……ただし、未婚で婚姻可能な王族のギフトを知るには多額の開示請求金がかかるのです」
「……そんなものまであるのですか? 知りませんでした」
ギフトの情報開示に金銭まで要求していたのね……本当に最低。それなら、バルバドスの人達はギフトについてほとんど知らないって事よね?
「あの、お気づきかもしれませんが、私は第三王女でフローラと申します」
二人ともわかっていたのか、驚きは無いようだった。お兄さんは小さく「フローラ……」と復唱していた。なぜ。
いやいやいやいや、まずは伝えなくちゃ。
「詳しくは話せませんが、私の力は貴国の役に必ずたちます! ですので、私を娶ってくれませんか? たぶん、私のギフ「わかった」ト……えっ?」
「……約束する」
……え? わかった?
「…………あの?」
金銭もたぶんかなり要求されるだろうし、形だけでも結婚って事になるんだけど……いいの? って、お兄さんが返事してるけど……?
「ああ、私はバルバドス国の第二王子でアレクサンダーだ」
そう言って私の手をぎゅっと握ってくれた。驚きすぎて一瞬固まってしまったけど、理解が追いつくと嬉しくて、そのまま涙がポロポロこぼれた。
「いいんですか?……うれしい」
宰相さんが呆然としながら「うれしい、ですか」と小さく呟いた後、今度はイキイキと話始めた。
「いやいや、それならとても良い機会でしたね! これ以上ないタイミングです」
「そうだな。数年で何とか出来ると思う。……その、待てるか?」
二人で悪い顔をして笑いあった後、私を心配するように聞いてくれる。
──毒で倒れていたから、虐待されていると思っているのかも。それで受け入れてくれたのね。なんて優しいお兄さんなんだろう。しかも王子でイケメン。
「油断しなければ毒にやられる事もないので、大丈夫です」
安心させるつもりで言ったが、王子様は眉間にしわを寄せ握った手に力が入ったのがわかった。
そして、安心したら急に力が抜けた。王子様が「毒は抜けたが、もう少し眠るといい」と言ってくれたので、甘える事にした。
私は、ぼんやりする意識の向こうで、真剣話をする二人を見ていた。
良かった。本当に良かった。交渉は上手くいったって事だよね。
交渉になっていたのかわからないけど、王子様が私の心配してくれたのかな?
詳しくは話せないから、助かっちゃった。王に嘘は通じないから、隙を作らない為にも、今はあまり情報を出したりしたくなかった。
だから、弱ってる王女を助けてくれるつもりなのかな。優しい人だな。
ふふ、自然に笑みがこぼれる。
私が笑うたび、二人が驚いてこちらを振り向くのが面白くてまた笑ってしまう。
──意識がぼんやりしていたせいで、この二人が意図的に北の山脈の魔物をこちらに追い立て、大規模討伐を依頼させようと盛り上がっていたなんて……知るよしもなかった。
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