花咲姫のしあわせ〜国から棄てられる?こっちが棄ててやるんだから!〜

木村 巴

文字の大きさ
14 / 59

そこからの日々と募る思い

しおりを挟む


 婚約の王命が下されてもまだ十三歳だったので、直ぐにはキュプラ国からは出られなかった。十四歳になったら婚約者としてバルバドス国に行き、成人の十五歳をもってして婚姻という流れになるらしい。

 王族の面倒くささよ。

 といっても十五歳で結婚って、こちらでは(特にキュプラ国では)普通だが、前世の意識がある私にとっては早い気がするので、少しだけホッとしてしまった。






「相変わらず辛気臭い宮殿ね。お前と同じね」

 そして相変わらずマデリンは、こうやって突然に私の宮殿に定期的に現れる。

「ねぇ、知ってる? あんたのお相手って、恐ろしくって顔も見られないくらいだって噂の第二王子なんだって。国内ですら嫁候補が居なくて、ウチに打診してきたんですって! ああ、可哀想ねぇ」

 第二王子って知ってるし!

 アレキサンダー殿下はめっちゃイケメンだから! でも、言うと面倒くさいから、俯いて悲しげな顔をしておく。こうしておくと満足してすぐ帰るから。
 けれど、この日は違った。勝手に宮殿の裏庭にあるポーチに腰掛けて話し続ける。

「もう、魔獣の様な醜く恐ろしい方だって聞いたわ! 先日いらした帝国の方から聞いたのだもの。本当よ」

 確かに先日、帝国の使節団が来ていたのを思い出した。
 私はもう、嫁ぎ先が決まっているので、パーティーや顔合わせに呼ばれたりはしない。その時の話をしているのだろう。

「今回いらしてたのは帝国の王弟殿下だったけれど、とっても素敵な方だったわ! うふふ。まぁ、少し年上過ぎるから、あの方に私はもったいないわね」

 素敵な方だから『どうしても』というなら考えないでもないんだけど~なんて言っているが、帝国の王弟殿下は頭脳明晰な方だ。教養の足りないマデリンはお呼びでないだろう。

 まぁ……未だにマデリンを娶るという話はどこからも聞かないので、パーティーの自慢がてら私を蔑み自尊心の回復に来ているのね。
 はぁ。面倒くさい。要するに結婚が決まらない鬱憤を晴らしたいだけじゃない。

「ああ! 本当に私がバルバドスに行く事にならなくて良かったわ! じゃぁね~」

 言いたい事だけ言って、私の悲しげな顔を見て満足したのかサラリと身を翻して去っていく。この子は嵐の様だ。でも彼の事を悪く言われるのは、いつも以上に堪える。




 アレクサンダー殿下とは、手紙のやり取りだけなのだけれど……結婚出来るのが、正直嬉しいと思ってしまう程に、素敵な人だと思う。

 あの助けてくれた五年前の日、殿下は十七歳だったんだって。十代になる前からずっと軍で指揮をとっていたらしい。
 きっと魔獣との戦闘でも、倒れている人を放っておけないんだと思う。他国の、しかも植栽で倒れてる知らない人を助けられるってすごくない? 優しさの固まりだわ。


 手紙の端々で、いつでも私の体調や周囲の環境を心配してくれる。


 ──体調は崩していないだろうか。
 ──寒くなったので気を付けて。
 ──また毒を飲んだりしていないだろうか。一般的な解毒薬と回復薬を送る。
 ──元気だろうか。
 ──アレックスと、出来れば呼んでくれ。


 ──会えるのを楽しみにしている。


 そういった些細な気遣いと優しさが、嬉しくて……いつしか殿下との手紙が心の支えになっていた。



 でも優しく手紙を綴ってくれるのは、可哀想な子供を放っておけなかっただけだろうか。

 だって、あんなにイケメンで優しくって軍を指揮していて、それで……王子様だよ?

 そりゃ、バルバドスは厳しい環境の国だけど、逞しい男性が好きな女子って多いもんなぁ。マデリンは、ああ言っていたけれど、結婚したいって人は多いんじゃないかなぁ。前世の友達に筋肉好きとかいたもん。

 今アレックス様は二十二歳で、私が十五歳になる時は二十四歳か。

 恋人とか……いや、好きな人とかいるんだろうな。


 目を閉じると、あの時見たアレックス様の姿が瞼の裏に浮かぶ。
 黒髪を綺麗に後ろで纏め、心配そうにこちらを見つめる宝石の様な紅の瞳。すっと通った鼻筋、きゅっと閉じた唇。
 十代特有の細さを残しているが逞しい身体つき……ええっ~思い出してもカッコイイ!
 特にあの腕ね、筋とか血管とか浮き出てたり、ちょっとした傷跡が見えたりするのもまたカッコイイ。
 いや、思い出だから美化されてるのかなぁ??


 お飾りの妻とかはいやだなぁ。


 あーこんなの好きになっちゃうじゃん! そうだ! 優しくしてくるアレックス様が悪いんだ!

 いいんだもん! 結婚してくれるって言ったんだから、私の事好きになって貰える様に頑張ればいいだけだ!

 もし、ダメならその時考えればいい! 当たって砕けろだ!

 私も見た目は悪くないと思う。美しいだけで連れてこられた母の遺伝子は、ちゃんと美人に仕上がりつつあると思う。

 年の差も、九歳差なら王族ではありよりのありよね? むしろ、私の中身は元大学生だから丁度いいかも。
 といっても、今の精神年齢に引っ張られてしまうところもあるんだけどね。
 男は胃袋で掴め? いやいや、大学生だった私には、そこそこの料理スキルしかなかった。前世にあった様なお手軽な調味料がここにはないんだもん。コンソメは? ほんだしは? そんな状態で料理とか無理過ぎる。詰んでる。


 やっぱりこうなったら、ギフトの力でメロメロ作戦しかない!



 私が話相手も(乳母以外)居ないから、こんな変な事ばかり考えてる訳じゃない。

 結構真剣だ。

 あれ、余計にヤバいのかな?


 とにかく、ここの数年はバレない様に、ギフトをたくさん使用してみてわかった事がある。やっぱり最上位ってのは本当だった。
 この力はすごい。

 前世の記憶に、だいぶん助かっているけれどね。


 こうやって、ウキウキしたりドキドキしたり……または、モヤモヤしたりヤキモキしたり(心の中だけ)忙しく一年が過ぎていった。








 そうして迎えた春。

 私は正式にバルバドス国に向かう事となった。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

惚れた男は根暗で陰気な同僚でした【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
イベント企画会社に勤める水木 茉穂は今日も彼氏欲しさに合コンに勤しむ、結婚願望が強い女だった。 ある日の週末、合コンのメンツが茉穂に合わず、抜け出そうと考えていたのを、茉穂狙いの男から言い寄られ、困っていた所に助けに入ったのは、まさかの男。 同僚で根暗の印象の男、【暗雨】こと村雨 彬良。その彬良が会社での印象とは全く真逆の風貌で茉穂の前に現れ、茉穂を助けたのである………。 ※♡話はHシーンです ※【Mにされた女はドS上司に翻弄される】のキャラを出してます。 ※ これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。 ※終了したら【プラトニックの恋が突然実ったら】を公開します。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

処理中です...