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置いていくもの
しおりを挟む竜種は何体かいたようだったが、飛行が出来る竜はこの三体だけのようだった。三体だけ先行して少しの間飛び、緩やかに速度を落としながら平原に降り立った。
なだらかな山あいに囲まれた平原は、いまだ僅かな雪を残してキラキラと光を反射させていた。
「わぁ~綺麗!」
この場所の開放感か私の心の開放感か……とにかくスッキリした気持ちでこの綺麗な景色を眺めた。
「寒くはないだろうか?」
はい! と返事をしてから考える。今は興奮しているからか、寒さを感じない。でも今着ているコートでは、このままでは寒くなりそうだ。
「このまま国境沿いの街で後軍と合流し、二泊程してからバルバドスに入る」
「はい」
「今は竜の背にいるから、外気の影響を受けにくいが、降りると寒いはずだ。厚手のコートを姉が用意しているので……紹介してもいいだろうか」
そうか、竜の背に乗っていたから寒くなかったんだ。すごい……ん? 姉??
「アレックスっ!」
言うが早いか、すぐ後ろを飛んでいた竜の背から、背の高い女性が飛び降りてくる。えーと、お姉さんかな?
「すごいな! 本当に平気なんだな! 奇跡だ! 早く紹介してくれ!」
待ち切れないとばかりに話しかける。
「姉さん、紹介するからコートを貸してくれ。彼女がここから降りられない」
ああ、そうだな! と慌てて竜の背からコートを持って来てくれる。やっぱりお姉さんらしい。アレックス様が渡された真白な毛皮のコートを私に着せてから、そっと竜の背から降ろしてくれた。
「彼女がキュプラの第三王女で、私の婚約者フローラだ。フローラ、こっちが俺のすぐ上の姉で「私はオリビアだ!」……だ」
オリビア様は、青い瞳をキラキラさせて食い気味に話しかける。
「はじめまして、フローラ! 本当になんて小さくて可愛いらしいんだ! 妖精か? 妖精なのか?? 私を本当の姉だと思って頼ってくれ!」
どうやら、オリビア様には歓迎されているらしい。良かった。ホッと息を吐く。
「オリビア様。はじめまして、フローラと申し……」
「いい、いい! 堅苦しいのは無しだ! 家の兄弟は男ばかりでつまらないし、そもそもバルバドスは女でも皆逞しい! こんな可愛い義妹が出来て嬉しいのだ!」
「……ありがとうございます。私も嬉しいです」
にっこり笑って返すとオリビア様は、わぁぁぁぁ~と言いながら私を抱き上げ「可愛い可愛い」と頬ずりを始めた。
すぐにアレックス様が「姉さん!」と叫びながら引き離してくれたけど、今度はアレックス様の胸に抱えられてしまい、それはそれで嬉しいけど恥ずかしい。
スキンシップが激しい兄弟なのかもしれない。
とりあえず私が初めての飛行だったので、ここで休憩を入れてくれたらしい。
確かに、緊張で疲労がすごい。
密かにホッとするのと同時に、私の事を慮ってくれる二人に感謝した。素直に感謝を二人に告げると二人揃って破顔し、何やら話し合い頷きあっていた。
すると今度は、オリビア様が矢継早に「何が好きか」と質問してくる。聞かれた事に答えていくと、最後に大きくニコッと笑って「用意しておく」と竜に飛び乗り行ってしまった。
パワフルで嵐の様な人だ。
シーンと音が聞こえそうな程の沈黙。オリビア様がいなくなって、急に二人きりで……緊張しちゃう。
「「あの」」
しかも同時に話かけちゃうとか……んもう! もともと田舎生まれの人見知りだった上に、こっちに生まれ変わってもちゃんと話すのは乳母しかいない私が、上手く会話出来る訳ないじゃない!
困ってアレックス様を見上げて見ると、ゴホンと小さく咳払いして頭をかいている。その姿を見ると、私達おんなじ気持ちなんだな……って安心する。
「その、体調は大丈夫か? あーいきなり説明もせず飛んでここまで連れて来て驚いたろ?」
「驚きましたけど……早くあの国から出たかったので、嬉しかったです」
「そうか。良かった」
そういって笑ってくれるアレックス様は、やっぱり優しくてかっこよくて、更には同じ感覚で話せる人だとわかって嬉しくなる。
キュプラ王族に面会する何処かの王族達はみんなこちらを品定めする様な目線で、傲慢さが滲み出ていた。
それが王族としてのカリスマ性なのかもしれないが、毎回そんな人達を相手にしないといけないのは苦痛でしかなかった。
同じ王族でも、アレックス様は違う。
こうして私を気遣い、優しく話しかけてくれる。この世界で、この人は違うんだと思ってしまう。
「ところで、さっきのアレはギフトの力なのか?」
「はい。私のギフトの一部です」
「あんなに力を使って大丈夫なのか?」
くっ! さらに心配してくれるだと? 心までイケメンかよ! これ以上は危険じゃない?? 主に私の心臓が。
「あれは花だけだったので、そんなに大きな力はいらないんです」
そもそも力を使い過ぎても気を失うくらいで、魔力欠乏などとは違って命に関わったりすることもないし、眠ると回復するので精神力みたいな感覚だと説明した。
「なので、もし力を使い過ぎても気を失ってしまったら、アレックス様が私の事を介抱してくださいね」
なんて力の使い方の説明とともに、冗談ぽくお願いする。すると、思ったよりも真剣な表情で大きく頷いていた。
「もちろんだ。私の婚約者の事だ、誰にもその役は譲らない」
おおぅ……なんか恥ずかしい! え? これ冗談で返してくれてるのか、本気なのかちょっと判断つかない! だって、数回しかまだ会ってないもん。
イケメンに冗談でも、こんな風に言われると嬉すぎる。あわわわ、ドキドキしちゃう。ぱっと目をそらして、下を見ると福寿草が雪の下から顔を出していた。……そうだ!
「アレックス様、あそこに見える黄色い花は福寿草と言って春を告げる花です。一部では、幸せを招くとか永久の幸福という意味がある花なんですよ。私も母とよくみました。見ててくださいね」
私は雪の下にある福寿草を意識して、たくさんの福寿草をさかせた。
「こうやって、元の花があれば増やしたり咲かせたりはとっても簡単だし、力も全然いらないんです」
辺り一面が、白い雪と黄色い花であふれる。雪も咲き乱れる花も太陽の光を受けてキラキラ輝いていた。
「そうなのか。綺麗だな。フローラに負担が無いなら、良かった。
幸せを招くか……いい花だな」
そして少しの間、二人で景色を堪能してから、宿泊予定の街へ向かう事にした。
福寿草のもう一つの花言葉──悲しい思い出はここに置いていこう。
そう決心して竜の背中から、一面に咲き乱れる福寿草の黄色い花たちを見た。私のキュプラでの悲しい思い出も、福寿草とともにどんどん小さく、遠くなって……やがて見えなくなった。
決して『悲しい思い出』が無くなった訳じゃないけれど、もう後ろを振り向く事はない。
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