49 / 59
復興と希望と月明かり
しおりを挟む一面の焼け野原だったブロンディールの街周辺も、半月もすると目に入るのは一面の麦畑だ。
焼けた黒い煤ばかりだった野原が、今や収獲も近い穂が膨らんだ緑の麦畑になっている。
もう後一ヶ月程もすれば、収獲となるだろう。
風に揺れる麦畑を見ているだけで嬉しくなる。
魔法で一緒に麦を育ててくれている魔術師さん達以外にも軍の非番の人や、街の人達が総出で手伝いにきてくれる様になっていた。
街に着いた時に疲れ切って見えた街の人達も皆、希望を持って畑仕事に勤しんでくれている。
あれから、いくつか麦畑を作ってみたけれど、やはりすぐに食べるものも必要だと思った。だからその次の日は、オクラをできるだけ多くの畑で咲かせた。
それからは、また麦に集中して咲かせているが三日後には、街の人達も派遣された人達もみんなでオクラを収穫しオクラパーティーをした。
近くの森にちょうど出没した鳥型の魔獣を狩って来てくれていたので、焼き鳥の様にしたものも出て豪華な決起会となった。
「さあ、姫様と麦畑にカンパイだー」
あちらこちらで、この様な号令で乾杯をあげてはみんなが笑顔でお酒を飲み、オクラを始めとする料理を食べている。これには大人も子供も、ここに住む全員が参加している。
街の奥様方がみんなでワイワイ料理を作ってくれてあったので、私は作るのに参加しなかった。
ちなみに料理の指導もトラビス様がしていた。トラビス様はものすごく有能だし、たまに「トラビス様って何人かいるんじゃないの?」という働きをしている。
なので今回の私は、楽しくオクラを食べたり、焼き鳥を食べたりしながらの参加となった。
楽しそうな周りを見ていると、小さな男の子と女の子の兄妹が近寄ってきた。お口の周りや両手に、たくさんの油をベチャベチャにつけたまま、目をキラキラと輝かせている。
「姫様のオクラとオニク美味しい~」
「おいしー」
にぱっと笑う二人に、思わず笑みがこぼれる。なんて可愛いんだろう。
「姫様~ありがとうございます」
「あいあとー」
可愛いさが爆発してる。椅子から降りて二人に目線を合わせて頭をなでる。
「良かった。たくさん食べてね」
二人はきゃ~と笑いながら私に抱きついてきた。可愛い二人からの抱擁に私も嬉しい気持ちで抱きしめ返した。
すると、向こうから青ざめた様子の女性が駆けてきた。お母さんかな?
「ひっ……姫様、申し訳ございません。あぁ……お洋服が……」
跪こうとするお母さんを制止する。子供達も不安で泣き出しそうに見えた。周囲もシーンとして、一気に緊張感に包まれる。
「さっきまで畑にいたのよ? 気にしないでね。みんなが喜んでくれてるって、二人が教えに来てくれたのよ。ね~」
二人に笑いかけると、お母さんと私を交互に見ながら、うんうんと頷く。
「だから、とっても嬉しいの。教えてくれてありがとう。また、何かあったら教えてね」
「うん。姫様に一番に教えるね」
「おちえるー」
「ありがとう~」
ふふふ、とみんなで笑って「さぁ、今日はたくさん食べて、また明日から頑張らなきゃね」とまた杯を持ち上げた。
すると周囲もまた乾杯を始めて、飲んだり食べたりし始める。
良かった。王族相手だと、緊張してしまうわよね。国によっては不敬罪とか言われてしまうもんね。
そう思って、ホッとしていると近くにいた若い夫婦がオズオズと話しかけてきた。
「あの、姫様……」
近くに座るアレックス様とトラビス様が俄に緊張したのがわかる。
「こんな機会が二度とないかもしれないので、話しかけてしまう、あの、ご無礼を、その……お許し、ください」
二人ともとても緊張しているらしく顔色もかなり悪い。大丈夫かしら。
ちらりとアレックス様を見ると頷いてくれたので、二人に向きあう。
「あの、オレ……いや、私達はこの街に生まれた時から住んでいるんです。もう、ダメだと思って移住も考えていて……なぁ」
「そうなんです! でも、私も夫も生まれ育ったこの街を捨てられなくて、けれどまた魔獣にやられての繰り返しで……国から軍も派遣して頂いてとても感謝しているんですが……生活はどんどん立ち行かなくて……もう、絶望しかなくて」
「せっかく植えた作物も、次の年にはまた荒らされ、焼き尽くされてしまって……本当に絶望しかなかったんだ……です。でも、国から魔法師団や軍が派遣されて、かすかに希望も見えて…………けど、この何年も同じ事の繰り返しで、あの荒れた、焼けた土地を耕しても、もうどうにもならないんじゃないかって……」
「冬の間に、食べるものもどんどん無くなっていって……春になって……荒地を前に、みんな言わないけど、もう無理かもって絶望してたんです。だから、こんな……またこんな……景色がここで見られるなんて……うぅ」
「本当に感謝しても、したりないって言うか……姫様と殿下達に、あの、本当にありがてぇって……」
この二人もさっきの子供達も、一生懸命に伝えに来てくれた気持ちがとても嬉しい。私もここで役に立てているのが実感できるから。
「こちらこそ、ありがとう」
二人にお礼を言うと、後ろから私も私もと、色んな人が声をあげてくれた。
「姫様のおかげで希望がみえた」
「殿下のおかげで、命が助かったんです!」
「国が軍を派遣してくれて、安心しております」
「まさか魔法師団が結界までしてくれるなんてと、感激です」
「派遣の人達がきてくれたおかげで、街の経済もまわっています」
「そうです! 家の姉も軍の官舎で洗濯係として働かせて貰っていますし」
などなど、みんな一斉に話始めた。あまりに一斉に話されて聞き取れないのもあったけど……みんなが生き生きとしていて、私も嬉しい。
アレックス様は、最初は驚いてポカンとしていたが、ハハハと笑いだす。つられて私も笑うと、みんなで笑ってしまい……いつの間にか宴会会場の全てで笑いの渦が起きていた。
ある程度の時間になると、トラビス様が時間を告げる。アレックス様がみんなは楽しく続けてくれと挨拶して、私と一緒に退席した。
まだ遠くから、みんなが笑ったり、また乾杯したりする声が聞こえる。
月明かりの中、泊まっている屋敷まで二人で歩く。
「……いい夜だな」
「はい」
「……あんな風に、みんなで飲めるなんて思わなかったよ。俺は、怖がられてるから」
小さなため息ともに、酔って溢れるアレックス様の小さな言葉。前を向くアレックス様の表情は見えない。
「王族と関わる事が少ないとしょうがない事ですよね。でも、今日はみんなと近けましたね」
「あぁ、フローラのおかげだ」
「ええ!? アレックス様が討伐して、その後の支援もしてたからです!」
そうしてお互いに、お互いのおかげだといいあって……アレックス様はまた笑いだした。ひととおり笑い終わった頃に、滞在している屋敷前に着いた。
「こんな気持ちになれるなんて思わなかった。フローラありがとう……その、抱きしめても?」
急にどうしたのかとも思うけど、そんなのご褒美でしかない。恥ずかしいけど、嬉しくて頷けば、アレックス様はそっと抱きしめてくれた。
そんなにそっとじゃなくても、壊れたりしないのにと思う程に、優しくそっと包みこんでくれる。
私も、ぎゅっと抱きしめ返すとギシッとアレックス様の体が固まった。
え? そんなに? と思う程にガチガチに固まったアレックス様が可笑しくて、また小さく笑う。
はぁ、とため息を溢すアレックス様を抱きしめたまま見あげると、月夜でも赤いお顔を片手で隠して上を向いていた。
その真っ赤なお顔が嬉しくて、恥ずかしくて、私もまた下を向く。
地面には、二つの月影がしばらくの間一つのままだった。
村人A「なーなー、以前の殿下は遠くから見ても震える程に怖かったけど、そんな事ないな」
村人B「だよな! 俺もそう思った」
村娘A「それはきっと姫様の愛よね」
村娘B「きゃ~私もそう思うわぁ~」
トラビス「……(私もそう思う)」
5
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
惚れた男は根暗で陰気な同僚でした【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
イベント企画会社に勤める水木 茉穂は今日も彼氏欲しさに合コンに勤しむ、結婚願望が強い女だった。
ある日の週末、合コンのメンツが茉穂に合わず、抜け出そうと考えていたのを、茉穂狙いの男から言い寄られ、困っていた所に助けに入ったのは、まさかの男。
同僚で根暗の印象の男、【暗雨】こと村雨 彬良。その彬良が会社での印象とは全く真逆の風貌で茉穂の前に現れ、茉穂を助けたのである………。
※♡話はHシーンです
※【Mにされた女はドS上司に翻弄される】のキャラを出してます。
※ これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
※終了したら【プラトニックの恋が突然実ったら】を公開します。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる