我が家の嫁は腹ペコ吸血鬼

宝猫らね

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1章 

思考の檻

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 地面に吐き散らした血肉に喉が焼けるような痛さで呻く俺をアスリットがやれやれと呟く。
「キヨタカは妾に感謝するのじゃ。お主はもう死の概念から外れたのじゃから、すぐに痛さは引くはずじゃ」
「何を言っているんだ……?」
 喉元を押さえつつアスリットを見つめる。
 相変わらず無邪気に笑って日の光に手を伸ばしているアスリットに先ほどの火脹れが出る様子もない。
 ハンカチで血を拭えば血液が付くこともなく、不思議に思って地面を見れば吐いたはずの血肉の染みひとつ残ってはいなかった。
「これは……」
「契約をしたからのう。妾の眷属になったのじゃから有り難く思うのじゃぞ」
「いやいや待て待て。契約って、そんなことは聞いていないぞ!」
「妾はちゃんと契約の有無を問うたぞ。お主は病巣を取り除けるのならば妾の手を取る。そう言ったではないか。そして妾はキヨタカと名を呼びお主もアスリットと妾の名を呼び接吻で体液の交換をして契約完了したのじゃ」
「クーリングオフだ!」
「契約はなされたのじゃからキヨタカは妾のものじゃ」
 契約破棄すらできないとは一方的すぎる。
 クスクスと笑ってアスリットは自分は自由だとばかりにくるくると回っている。
 接吻……って、俺は犯罪者でもなければロリコンでもないのに!!
 むしろ被害者ではないだろうか? 悶々と考えるが、目の前のアスリットを見ていると些末な事に思えてきた。
 そう思うこと自体おかしいとは思うが、思考はアスリットの言っている意味を理解して頭の芯がぼんやりと否定をすることが出来なくなっていた。
 それは眠りに落ちる寸前の思考が定まらない感覚に似ている。
 自分にとって何が大切なのか、それは目の前のアスリットだと頭の中で指令が出ているようで抗う自分と受け入れてしまっている自分がせめぎ合っているのに表にその感情が出てこれない。

「キヨタカ」

 アスリットの声ひとつで彼女が求めている事が分かり体が勝手に彼女を抱き上げている。
 まるで自分の体の中に自分が閉じ込められているような感覚とでもいうのだろうか。
 そして手に持った刀の柄を手に持つと少しだけビリッと静電気のようなものがしたが、廃神社を振り返り刀の柄で空を切ると廃神社は音速を超えた時に出る轟音と共に崩れていく。
 恐怖する自分は心の中に居るのに、使命は果たしたという誇りが先に出る。
 まるで夢の中の自分を自分が見つめているようで、非常に気持ちが悪い。
「さて忌々しい場所が消えたところで家に案内するのじゃ」
「分かった」
 口が勝手に動く。
 意識はしているし声を出したのは自分でも、思考の前に思考が先回りして理解をする事が非常に不快だ。
 自分自身が訳も分かっていないのに、理解している。もうこれは不思議体験どころではない。
 助けてくれ。誰か説明してくれ! そう喚いている心の中はどこにも届かず、アスリットを連れてバスに乗り電車を乗り継いでしまっていた。
 アスリットが目を丸くして色々と質問する事にもスルスルと答える。
 何か欲しがれば買ってしまい、気付けば両手には荷物の山が出来ているしカードなんて財布に入れていただけの使わない代物まで出して支払いをしている始末。
 白い着物から黒いキャミソールに黒いパーカーと黒のミュールを履いて、アスリットは二段アイスを目を輝かせて手に持っている。

「妾、人の食べ物は数百年ぶりなのじゃ……」
「見つめていると溶けてしまうぞ」
「わかっておる。でも食べてしまうのも勿体ないのじゃ。妾が人であった時代にこのような食べ物は無かったしのう。あったとしてもここまでの量は流石に無理じゃろうし、色も白一色じゃった」
 数百年前……何歳なのだろうか? 日本にアイスがきたのは明治ぐらいだろうから、西洋だともっと前になるだろうから百歳以上は超えているという事か。
 合法ロリ……いや、俺が犯罪者として扱われないで良かった。
 しかしそうなると……老じ……そこまで考えて、冷ややかな目でアスリットが俺に目線を向けている事に気付き思考を停止させる。
 女性はこういう思考には勘が働きやすいものなのだろうか。
 アイスを口にしてフルッとアスリットが震え、感嘆の息を吐く。
 どうやらお気に召したようだ。
 アイスを食べ終わってから家までタクシーで帰り、玄関を開けて玄関に置いてある姿見を見た。
 そこには出かける時には暗い顔をしてヨレた自分がいたはずなのに、今の姿はまるで違う。
 髪は毛先にアスリットと同じ銀髪がメッシュのように入り、体格も筋肉などとは無縁だったのにしなやかに筋肉がついている。
 一瞬自分か見まがうほどだ。

「ここがキヨタカの家か。ふむ。狭いながらも一国一城というところかのう? 他に家族は居ないのか?」
「家族は居ない」
「ふむふむ。では明日は親戚周りじゃな」
「いや、親戚も居ない」
「はっ?」

 アスリットが呆けた顔をしてから顔を横に振り、俺は自分達鵠沼家の早死にの話をアスリットに話しながら買った荷物をリビングのソファの上に置いていく。

「鵠沼の血筋がどうして……そのようなことになったのじゃ……」

 呆然と小さく呟きアスリットはテーブルの上に突っ伏した。
 
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