【R18】この夏、君に溺れた

日下奈緒

文字の大きさ
上 下
13 / 16
夢の終わり

しおりを挟む
どうしてそんな事聞くの?

「元々、そう言う約束だったし。」

「そうだよな。」

しばらく先生は、私の側にいたけれど、私がそれ以上何も言わないのを見て、急に立ち上がった。

「荷物はあらかじめ、全部詰めとけよ。」

「……うん。」


引き留めてくれないんだ。

それが、ちょっと寂しかった。

「俺さ。最後まで推敲粘るから、もしかしたら送っていけないかもしれない。」

「ううん。気にしないで。」


言った途端、悲しさが込み上げてきた。

「私の事気にして、コンテストに間に合わなかったら嫌だし。それに駅まですぐだし。」


ダメだ。

涙が出る。


「そっか。」

先生のいるリビングから、パラッと原稿を捲る音がした。

「なあ、芽依。」

「はい?」

しばらくの沈黙の後、重苦しい口調で、先生が聞いてきた。


「俺と一緒にいて、楽しかったか?」

ノートをまとめる手が、止まった。

「この2週間。お前に取って、楽しいものだった?」

先生のその質問に、息を飲んだ。

「……楽しかったです。」

そう答えるしかなかった。



「そっか。よかった。」

先生はそう答えると、またペラッと原稿をめくった。



終わる。

夏が終わる。

先生と一緒にいた日常が終わる。


それは長くて、短かった。

夏の思い出。

そう言えば、どこか切なくて、ほろ苦い記憶で終わる。


でもなんだろう。

それだけで、終わるなんて。

考えただけでも、胸が張り裂けそうだった。


「先生、お願いがあるの。」

「何?」

「最後に抱いて。」

勇気を振り絞った。

「最後って……」

「お願い。もう言わないから。」


溢れてくる涙を、何度も何度も拭いていると、後ろかららぎゅっと抱きしめられた。

「先生……」

「ホント、敵わんよ。」

そう言うと、先生は私を抱き上げると、ベッドに連れて行ってくれた。

「あの……」

先生を見つめた途端に、唇を塞がれた。

「何も言わないで。」

耳元に聞こえる、低音の声。

それだけで、クラクラする。


少しずつ脱がされる衣服。

先生の温かい手が、次々と私の体に触れていく。

「……ぁ。」

「可愛いよ、芽依は。」

私の体に、先生の体温が重なる。

「この温もり、好き……」

「俺だって好きだよ。」

ふとした隙に、先生と目があった。


「先生、頂戴。」

私は、両足を開いた。

「いつもより積極的だね。」

そんな事言われたら、困ってしまう。

淫乱だと思われたかな。


なんとなく、足を閉じた。

「もう嫌になった?」

「だって……こう言うの、先生嫌いなのかなって……」

クスッと先生が笑う明るい。

「嫌な男はいないよ。」

先生が、私の頬に手を添えてくれた。

「本当に?」

「少なくても俺は、嫌いじゃない。」

そう言って、私の両足は先生の手で、再び開かれた。

「一つになるよ、芽依。」

私の返事も聞かずに、先生は私の中へと入ってきた。

「ふぁっ!」

久し振りの感触。

「あぁ、気持ちいいよ。芽依……」

一定のリズムを保ちながら、私の体に欲望を打ち付ける先生。

その度に、高い声を出す私。


何百年と、こんな事を繰り返しながら、人類は子孫を繁栄させてきたのかと思うと、特別事ではないのかなとも思ってしまう。


「どうした?芽依。」

「ん……」

不意に先生を見つめてしまう。


「先生は、どのくらいの人と、Hしてきたの?」

「急な質問だな。」

その割りには、先生。

私の頬に、何度もキスを落とした。

「忘れた。」

「え?」


もしかして数えきれない程の人を、抱いてきたの?


「今は芽依しか、考えられないから……」

「先生……」

「芽依以外の女は、忘れた。」

そんな言い訳にもとれるような事、言って……

おかげで、いつもより甘く感じてしまうじゃないか。

「芽依…芽依……」

切ないくらいに、先生に呼んでもらって。

いつもより、気持ちが昂る。

「芽依、もういい?」

先生と目が合う。

真剣な目で、私を見つめ返す。


ああ、先生ってなんて、カッコいいんだろう。

そう思うだけで、体全体がキュンキュンと、切なく波打つ。

「まだ……」

「まだ?」

「先生をまだ、感じていたい……」

そう言ったら、心なしか先生の動きが、激しくなった。


「先生……」

「エロいな、芽依は。」

いつもよりも激しく攻められて、体も大きく揺れる。

「ダメ……先生……」

自分では抱えきれない快楽が、先生によって押し寄せてくる。


「いいんだよ、芽依。そのまま感じて。」

収まるどころか、尚一層押し寄せてくる快楽の波に、もう我慢ができなかった。

「先生、もう……」

「芽依………、」

私の耳元で、先生が何か言ってたけれど、それも聞こえないくらいの絶頂が、私を襲った。

先生の体が離れると、寂しくなる。

「先生……」

いつかのように、先生の腕に絡みついた。

先生の体は、汗でヒヤッとしていて、気持ちがいい。


「あっ、先生。小説の見直しあるんだよね。」

私は先生の腕に絡ませていた手を離した。

すると離したはずの先生の腕が、今度は私の頭を通って首へと回る。

「いや、今日の夜はいい。」


盛り上がった腕の筋肉。

浮かび上がった鎖骨に、見えるか見えないくらいの無精髭。

伸びかけの前髪から覗く、切れ長の目に、私の胸がキュンとなる。


「言われてみればここ最近、スキンシップもなかったもんな。」

スキンシップ?

これって、スキンシップなの……か?

「やるべき事はする。仕事も恋愛も一緒。」

「はあ……」

「言ってくれて……よかっ……た……」


そのままスヤスヤと、寝始めた先生。

これが先生の寝顔を間近で見る事ができる最期の夜だ。


その日の朝は、いつもと同じようにやってきた。

「お前、味噌汁の具、切るの上手くなったな。」

「そりゃあ、ここに来て毎日切ってたら、下手なモノも上手くなりますよ。」

「そっか。」

何に納得したのか、うんうん言いながら、お味噌汁を食べる先生。

そんな人も珍しいと思う。


「ご馳走様でした。」

のんびりお味噌汁を食べている先生を目の前にして、私は勢いよく立ち上がった。

「ええ!?食べ終わるのも、早くなった~」

「これは……先生が、のんびり食べてるせいだと思いますけど……」

「あっ、そう。」

そして今度は、自分が出してきた海苔を、パリパリ食べている。


そんな様子を見ながら、カワイイと思ってしまう私は、結構先生にはまってしまっている。

自分が食べた食器を洗い終わって、速攻バッグを手に取る。

「行ってきます‼」

「あっ、待て!芽依。」

呼ばれて、廊下から顔を出す。

「一度、帰ってくるんだな。」

そこには心配顔の先生がいた。

「帰って来ますよ。」

笑顔で答えた。

「ちゃんと先生が、コンテストの締切に間に合うように、原稿出したか、気になるし。」

「おまえね……」

すると生徒が立ち上がるのが見えた。


「ヤバい!塾に遅れる‼」

私は慌てて玄関に向かった。

「行ってきま~す。」

玄関を閉める時に、先生がなんか言ってた気がしたけど、気にせずに塾へと急いだ。


ここから塾へ通うのも、今日が最後。

この道を通るのも最後。


そう思ったら感慨深い。


先生に"行ってきます"って、言うのも最後?

そんな事考えたら、目頭が熱くなった。

私は頭を横に振った。


違う。

それは今後次第。

自分にそう言い聞かせて、私は塾までの道を急いだ。


「おっはよう、芽依。」

「おはよう、美羽ちゃん。」

窓際の列、前から3番目。

いつも美羽ちゃんが、私の為に取ってくれた席。

「あ~あ。この席取るのも、今日で終わりか。で。なんで芽依はこの席がよかったの?」

「なんでかな。終わってみると、他の席でもよかったかも。」

「なにそれ~」

はははっと笑いながら、私は外を眺めた。

窓際の席は、外を通る人がよく見えた。


もしかしてスーパーやコンビニに買い物に来た先生を、この席から発見できるかなと、思っていた。

実際は私が塾に行ってる午前中。

先生は寝ているか、小説を書いているかのどっちかで、結局この窓際から先生を発見することは、できなかったけれど。


「夏休みも今日でお仕舞いか。あっと言う間。勉強漬けの毎日だったな。芽依は?」

「私は……」

頭の中に浮かんだのは、先生と過ごした毎日。

変なの。

たった2週間だけなのに。

他の一ヶ月は、美羽ちゃんと同じく勉強漬けの毎日だったったはずなのに。

「そこそこ楽しかったかも。」

「そりゃあそうですよね~」

急に美羽ちゃんが、私の顔を覗き込んだ。

「芽依はちゃっかり恋愛も楽しんでたもんね。」

「恋愛か……」

私は朝から深いため息をついた。


「何なに?もしかして、一夏の淡い恋だったの?」

「縁起でもない事、言わないで。」

「あっ、じゃあまだ終わってないんだ。」

「美羽ちゃ~ん。」

軽く睨むと、美羽ちゃんはばつが悪そうに、私から離れて言った。


「なんか羨ましい。」

「えっ?」

「芽依。その人の事、相当好きなんだね。」


美羽ちゃんの言葉に、息が止まった。


「好き……」

「なんか話聞いてると、うまくいってるんだかわかんない。でも芽依はそんな状況でも、別れたくないんでしょ?」

その質問に、答えられない。


夏休みだけだと思ってた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】お父さんは娘に夢中

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:17

【R18】無口な百合は今日も彼女に弄ばれる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:136

鳴花

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:797pt お気に入り:3

そして還るもの

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:12

本編完結R18)メイドは王子に喰い尽くされる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:710pt お気に入り:3,528

私、何故か毎日、エッチな目に合っちゃうんです。。。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:781pt お気に入り:77

令嬢達が海上で拉致されたら、スケスケドレスで余興をさせられました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:89

なんで職員室から喘ぎ声が聞こえてくるんですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:4

TS化したお兄ちゃんを妹の私が禁断の関係になる話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:356pt お気に入り:2

処理中です...