Save the Earth Ⅰ

日下奈緒

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第1話 パイロットになる為に

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研修の修了式が終わって、大地と風真は、自分達の部屋に戻ってきた。

基地の同じ敷地内にある、軍の寮だ。


「そんなに落ち込むなよ、大地。」

風真は、静かに椅子に座っている大地を、励ました。

「ヤマトのパイロットにはなれなかったけどさ。他のロボットには、乗れるんだし。」

「あの、カスみたいなロボットか?」

「おいおい。それでも、乗れるだけマシなんだぜ?」


軍に入隊し、研修が終わった者は、大抵一番下の、雑用をさせられた。

二人はヤマトの訓練生、20名の中に入ったからこそ、ロボットの操縦方法を、教えてもらえたのだ。


「あのロボットじゃ、ダメなんだ。」

「どうしてだよ。」

「前線基地から、真っ先に飛び出せるのは、ヤマトしかない。」


地球の前線基地は、地上ではなく、大気を抜けた地上4,000キロの上空にあった。

「地球から月へ行くには、大気が邪魔だ。前線基地になら、すぐに姉さんのいる月へ行ける。」

「大地…」

風真は、大地の隣に座った。

「大地のお姉さん、綺麗な人だったよな。」

「うん。その上、とても優しかった。」

だからこそ余計に、自分と姉を引き裂いた何者かが、許せなかった。

そこへ、同じ訓練生がやってきた

「おい、二人とも!スペースタウンに向かう船が出るぞ。見物しに行こうぜ!」

スペースタウンとは、前線基地のある、宇宙に浮かぶ都市だった。

「行ってみようぜ、大地。」

「うん。」

大地と風真は、立ち上がって、部屋を出た。


スペースタウンへ向かう船は、同時に観光船にもなっていた。

旅行や出張などで、スペースタウンへ向かう人々も、船に乗り初めていた。

「これに乗れば、前線基地へ行ける。」

「え?」

出航の合図が、鳴った瞬間。

大地は、船の入り口に向かって、走り出した。


「ちょっ…大地!!」

風真も慌てて、大地の後を追う。

二人は間一髪、入口が閉まる前に、船の中へ入った。

「あわわ!乗っちゃった……」

「嫌ならついてこなきゃ、いいだろ。」

大地は、全く平気な顔だ。

「どうするんだよ、大地!俺達、チケットないんだぜ!!」

「気にする事ないよ。スペースタウンへ行くのは、お金がかかるけど、前線基地へ行くのは、タダだ。」

大地はそう言うと、客室とは別な方向へと、歩きだした。

「どうかしてるよ。」

風真はため息をつくと、大地の後を、ついて行った。


客室のある4階を降りて、軍のスペースがある、3階の廊下に出た。

「お客様。」

二人は早速、船員に見つかった。

「こちらは、関係者以外の立ち入りを、ご遠慮頂いております。客室は、この上の階となっております。」

「は、はい…」

風真は、とりあえず返事をした。

「すみません。道に迷ってしまって…」

大地はなぜか、落ち着いて返事をしている。

そして、船員に言われた通りに、階段を昇り始めた。


「お客様、お待ち下さい。失礼ですが…」

船員は、大地を呼び止めた。

「チケットを、拝借できますか?」

「チケット?」

「はい。お客様が部屋を離れる際は、必ず見に着けるものとなっております。」

息を飲む風真。

「困ったな…」

「はい?」

「さっき、チケットを落としてしまったみたいで……それで、探していたんです。」

探す振りをして、ポケットを探る大地。


船員は、大地の腕を掴んだ。

「うそつけ!最初からチケットなど、持っていなかっただろ!」

大地は、その船員を突き飛ばした。

「走れ!風真!」

「わっ!わわっ!」

二人は無我夢中で走った。

「ま、待て!!」

船員は起き上ると、二人を追いかけた。


大地と風真が、廊下を走って逃げていると、急に誰かとぶつかった。

「すみません!」

大地は、顔を上げた。

「大地!」

「住良木さん!」

それは、同じ訓練生で、ヤマトのエースパイロットに選ばれた住良木洋人だった。

後から追い付いた風真も、洋人に気が付いた。

「す、住良木さん?」

「風真…おまえまで…」


そして追いかけてきた船員が、やってきた。

「やばい…」

大地と風真は、洋人の後ろに隠れた。

「住良木中佐!」

その船員は、洋人に敬礼をした。

「どうした?」

洋人は二人を隠しながら、船員に尋ねた。

「申し訳ありません。後ろの二人に、無賃乗車の疑いがございまして……どうか、お引き渡し願います。」

洋人は、ちらっと大地を見た。

何か思いつめた表情の大地。

「ああ…言い忘れてた。この二人、俺の客なんだ。」

「住良木中佐の?」

「金は払ってあるから。なんなら、証拠見せ……」

「分かりました。中佐がそこまで、仰るなら。」

船員は、大地と風真を軽く睨むと、引き返して行った。


「助かった…」

風真は思わず、声を漏らした。

「有り難うございます。」

大地は、頭を下げた。

「いや、いいんだ。それよりも…」

洋人は、大地と風真の肩に、手を置いた。
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