誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –【完結】

日下奈緒

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第6部 私を見つめるその瞳

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私は、胸が締めつけられるような思いで、隼人さんを見つめた。

「でも……紗英と出会って、少しずつ考えが変わった。こんな俺でも、誰かを大切に思っていいんじゃないかって。」

その時の彼の目には、確かに温もりがあった。

心の奥底にしまい込んでいた想いを、ようやく誰かに伝えられたような、そんな顔だった。

「……隼人さん。」

私は静かに彼の肩にもたれた。

過去を全部癒やすことはできないかもしれない。

でも、これからは――彼の未来の中に、私がいてもいいのなら。

彼の心に、そっと寄り添いたいと思った。


リビングの写真立ての前で、隼人さんは静かに立ち尽くしていた。

写真の中には、小さな隼人さんと、その隣に立つ少し年上の少年――きっと、お兄さんなのだろう。

私は何も言わず、そっと彼の隣に立つ。

「兄貴……」

ぽつりとこぼれた声が、あまりに静かで、胸が痛くなる。

「俺、ずっと……羨ましかったんだ。兄貴は両親に期待されてて、成績も良くて、何をしても褒められてた。俺がいくら頑張っても、兄貴には敵わなかった。」

悔しそうでも、懐かしそうでもない。

ただ、ぽつんと落ちるような声だった。

「でもな、不思議と嫌いにはなれなかった。憧れだったんだ、兄貴のこと。」

私はそっと、彼の手に自分の手を添えた。

その指先が、少しだけ震えている。

「兄貴が事故で亡くなってから、俺……全部壊れた気がした。家族も、将来も、夢も。何を目指していいのか分からなくなった。」

話す彼の背中が、小さく見えた。

あの隼人さんが、こんなにも繊細で傷ついていたなんて。

「でもな、俺……今、初めてちゃんと好きになれた人がいる。」

私の胸が、きゅっと鳴る。

その“誰か”が、自分であってほしいと、心の奥で願った。

「兄貴が生きてたら、なんて言うかな。“お前にしては上出来だ”って、笑ってくれるかもな。」

私は、ぎゅっと彼の手を握りしめた。

「隼人さん。」

彼は私の方を見た。

その瞳には、涙はないけれど、代わりに温かい光が宿っている。

「お兄さん、きっと喜んでますよ。だって、こんなにも真っ直ぐに、今を生きようとしてる隼人さんを見たら……誇りに思うと思います。」

彼は、写真の前で静かに頭を下げた。

「ありがとう。」

その言葉が、私に向けたものなのか、天にいるお兄さんへのものなのか、分からなかった。

でも、私の心は静かに満たされていた。

彼の過去と、少しだけ触れ合えたような気がして――。
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