月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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幼い頃から、名前を呼ばれる時は、“王子”と付けられた。


「オウジって何?皆には、何で付かないの?」

幼い俺は、そんな疑問を女中に、投げ掛けた。

「王子とは、王のお子様に付ける呼び名でございます。他の方は、王のお子様ではないので、付かないのです。」

「へぇー。」

服を着替えるにも、水浴びをするにも、食事をするにも、誰かしら世話をしてくれた。

それが、普通ではない事を知ったのは、もう少し大きくなってからだった。


庭先で、一人水浴びをしている時だった。

「まあ!ジャラール王子!お一人で水浴びなど、いけません!」

少し小太りの女中が、体を揺らしながら、急いで走って来た。

俺はまだ子供だったが、水浴びぐらい自分でできると、いつも勝手に、裸になって水浴びをしていた。

「誰かに襲われたら、どうなさるおつもりですか?他のお子様とは、お立場が違うのですよ?」

そう。

その時の女中の言葉で。

俺は、他の子供のように、自分勝手に水浴びもできないのだと、知ったのだ。


襲われたらと、言われたが。

後から聞いた話だと、“ねえ、誰に襲われるの?”と、しつこいくらいに、尋ねたらしい。


さて、俺には2歳年下の妹がいた。

名前はネシャートと、名付けられた。

生まれたその日に、女中と一緒に、母の元を訪ねた。


日の光を浴びて、小さな女の子は、父と母の腕の中に、大切そうに抱えられていた。

「ああ、ジャラール。」

父は、俺を手招きしてくれた。

俺は初めて見る赤ん坊に、跳び跳ねる程、興奮していた。

「ジャラール王子。あなたの妹のネシャートよ。」


“喜び”と言う意味を持つネシャートは、そのまま国中の喜びとなった。

国中の者が歓喜にわき、たくさんのお祝いの品が、宮殿に届いた。


「僕の時も、こんなに届いたの?」

「え、ええ……そうでしたわよね。」

女中が、他の女中に聞く。

「は、はい……」

今思えば、何か隠しているように見えるのだが、この時はまだ何も分からない子供だったから、俺はただ自分の時もそうだったのだと、嬉しかったのだった。
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